ホール・オペラ ラ・ボエーム T.ヴィヴィアーニ/サッバティーニ/ルイゾッティ/東響
ミミを歌う予定だったエヴァ・メイがキャンセルとなり、トモコ・ヴィヴィアーニが代役で歌うことになったホール・オペラ「ラ・ボエーム」。昨年のホール・オペラ「トスカ」で素晴らしい演奏を引き出していたルイゾッティの指揮、サッバティーニと若者達のコラボレーションを期待して赤坂へ。
サントリーホール プッチーニ・フェスタ 2004-2006ホールに入るとPブロックの客席を覆った白い布が目に入ります。舞台上は前方に演技スペースがとってあってソファー等が置いてあり、後方はオーケストラ(今日は14型でした)が配置されています。舞台左右にはPブロック両端へ続く階段が設置されていました。照明装置も(天吊も含めて)多数設置されていました。
ホール・オペラ プッチーニ:ラ・ボエーム
・ プッチーニ : ラ・ボエーム(全4幕)
ミミ : トモコ・ヴィヴィアーニ ロドルフォ : ジュゼッペ・サッバティーニ ムゼッタ : 森麻季 マルチェッロ : ガブリエーレ・ヴィヴィアーニ ショナール : 成田博之 コッリーネ : ディヤン・ヴァチコフ べノア/アルチンドーロ : ニコラ・ムニャイーニ パルピニョール : 渡邊公威 税関役人 : 清水良一 巡査部長 : 小田川哲也
ニコラ・ルイゾッティ指揮 東京交響楽団 (コンサートマスター:グレブ・ニキティン) 藤原歌劇団合唱部 (合唱指揮:小崎雅弘) 東京少年少女合唱隊 (合唱指揮:長谷川久恵)
演出 : 飯塚励生 舞台装置 : 朝倉摂 照明 : 吉井澄雄 衣装 : 原まさみ
2005年5月21日 16:00 サントリーホール 大ホール
ルイゾッティの指揮する東響から推進力豊かで生き生きとした音楽が奏でられて開始された「ラ・ボエーム」。ロドルフォがペンをすらすらとではなくタイプライターを叩いていたり、登場人物たちのヒッピー風の衣装から1960~70年位の時代設定でしょうか。
いつもながらびしっとフォームの整った歌声を聞かせてくれるロドルフォを歌うジュゼッペ・サッバティーニ、マルチェッロは明るく張りのある歌声が魅力のガブリエーレ・ヴィヴィアーニ、コッリーネは柔らかな歌声のディヤン・ヴァチコフ、ショナールの成田博之も歌い口が甘いところがあるものの健闘。ロドルフォ以外の3人の声のキャラクターが異なっていて、明確に聞き分けれられます。そして、ユーモラスな演技も加えてボヘミアン達の楽しい舞台が形作られています。食料が調達された後に、G.ヴィヴィアーニが途中で「サントリーウイスキー!」と叫んでいたのには笑いました。
そしてミミが登場してロドルフォと二人きりの場面。サッバティーニの素晴らしいピアニッシモの表現が舞台の雰囲気をすっかりふたりの世界へといざなう。ルイゾッティと東響もサッバティーニに呼応して、柔らかな雰囲気を醸し出す。「冷たい手」も甘美なピアニッシモからすっと声の伸びたフォルテまでを使って表現していて見事。そして、ミミのトモコ・ヴィヴィアーニが歌う「私の名はミミ」。先日の前夜祭ではドラマティックな表現力を聞かせてくれたのですが、ミミは彼女に合うのだろうかと少し思ったのも事実。しかし、そんな心配は全く杞憂でした。可憐で可愛さのよく出たミミを自然な表情で歌っているじゃない。(一歩後ろから)ロドルフォに寄り添った出過ぎない感じがとても好ましい。またプッチーニらしい感情の高まりも充分な声量とスケール感で聞かせてくれます。
舞台はそのまま第2幕へ。音楽が始まった途端、Pブロックを覆っていた白い布の切れ目から合唱団が首を出して歌い始めたのにはびっくり。ずっと潜んでいたんですね、お疲れ様です(笑)。その合唱が生き生きとした迫力に満ちていて素晴らしい限り。ボヘミアンたちはオルガンの左右の入り口から登場し、Pブロック左右の階段から降りていきつつ物売り(合唱団との)やりとりをしていきます。ボヘミアンたちは舞台上のテーブルへ。ここでもコミカルな演技が目を楽しませてくれます。パルピニョールがLCブロックの突端に顔を出して一声、そして1階席から舞台へ。そしてこの幕の主役、ムゼッタを歌う森麻季がアルチンドーロを歌うニコラ・ムニャイーニを従えて1階客席から舞台へと登場。歌も演技も存在感が抜群になりましたね彼女、清潔で透明感のある声と悪ぶった表情付けで実に見事なムゼッタを歌い演じていました。
第3幕はPブロックに光を投影する形で雪を表現。酒場の入り口はオルガン右横の出入り口。ボヘミアン達のやり取りとりはPブロック中央の前2列の座席を取り払った部分で。ミミとマルチェッロの実生活上の夫婦での二重唱、G.ヴィヴィアーニの声がなんとなく優しく聞こえたのは気のせいかな(笑)。ロドルフォとマルチェッロのやりとりをミミはオルガン前の通路で見守っている。幕切れの4重唱、ムゼッタとマルチェッロの動きはこの前と同じ(どおりで手馴れた感じがあったわけだ(笑))。
第4幕は当然ながら第1幕と同じシチュエーション。コッリーネの歌うアリアはこの前よりも歌が練れていて、伸び盛りの若者の証ですね。この後はもうミミとロドルフォの世界にしっかりと浸らせてくれました。T.ヴィヴィアーニとサッバティーニはもとより他の歌手達、シンプルな手法で物語を表現するプッチーニの音楽を情感をたっぷりと含んだ音で表現するルイゾッティと東響。涙腺が刺激されることこの上なし(笑)。
ホール・オペラ、去年のトスカに続いて今年も充実した上演で充分に楽しむことができました。サッバティーニの素晴らしさはもとより、若い歌手達もそれぞれの個性を発揮していて今後が楽しみ。急遽代役を務めたトモコ・ヴィヴィアーニは、決してでしゃばらずに一歩引いた日本的なテイストを感じさせてくれる素敵なミミでした。代役として充分以上の役割を果たしていたと思います。また、日本で彼女の歌声を聞く機会があるといいですね。ルイゾッティの指揮も音楽の推進力と情感をたっぷりと感じさせる歌を東響から引き出していて、去年のトスカを彷彿とさせる素晴らしさ。東響もその棒に充分に応えていました。コンマスのブレブ・ニキティンが弾くソロも実に美しかったことを付け加えておきます。
ルイゾッティとG.ヴィヴィアーニは8月にも蝶々夫人での来日が予定されています。また、去年トスカを歌ったディミートリウがタイトルロールで出演が予定されていますので、期待したいなと思います。
ホール・オペラのプッチーニ・シリーズ、来年はトゥーランドットが予定されています。来年もルイゾッティの指揮が予定されていますのでこれも楽しみですね。
Comments
なかなか素敵なミミだったようで、エヴァ・メイの来日中止は残念でしたが、よかったです。
私がトモコさんを聴いたのは2年ほど前なので、今度聴くのが楽しみです。
若いサッバティーニとデッシーのコンビ、さぞ良かったことでしょう。初演の時はあの布は黒だったんですか?なんとなく意外な感じがします。そういえば、プログラムに「クーンは照明に嵌ってね・・・」という意味の対談が載っていました。
トモコ・ヴィヴィアーニさん本当に素敵なミミでした。近いうちにまた、出来ればオペラで耳にする機会があることを願いたいですね。