ラン・ラン/エッシェンバッハ/フィラデルフィア管 ベートーヴェン/マーラー
ラン・ランはデュトワとN響と競演した映像で、まるで京劇役者みたいな演奏姿を見てから一度生で見て、もとい聞いてみたいなと思っていたピアニスト。リサイタルは都合がつかなかったので、協奏曲のソリストとして彼が登場するエッシェンバッハ/フィラデルフィア管のコンサートを聴きに今日も赤坂へ。
クリストフ・エッシェンバッハ指揮 フィラデルフィア管弦楽団まずちょっと以外だったのは、オーケストラが両翼にヴァイオリンを並べた対向配置になっていたこと。最近エッシェンバッハはこの配置を好んでいるのでしょうか?2002年2月にエッシェンバッハが北ドイツ放送響と来日した時の演奏は通常配置だったように記憶しているので余計に。弦の編成は前半が14型、後半は16型。
1. ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58 休憩 2. マーラー : 交響曲第5番嬰ハ短調
ピアノ : ラン・ラン(1)
クリストフ・エッシェンバッハ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 (コンサートマスター:David Kim)
2005年5月22日 18:00 サントリーホール 大ホール
まずは今日の私の一番のお目当てであるラン・ランの弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。最初の和音を叩く前に自らの所作で聞き手を集中させ、完璧な静寂をつくってから弾きはじめるラン・ラン。透明感の高い音色で最初の一節をリズムを際立たせずに、ゆったりと叙情的に歌わせます。それが重くなったり、嫌味な感じにならないのはその音色と打鍵のコントロールの見事さから。美しいピアノのソロに続いた弦の響きの美しいこと。床にへばりつかずに透明感と暖かさをもって浮揚する響き。エッシェンバッハの指示のせいか、低弦のエッジを利かせた感じが程良いアクセントになっています。ラン・ランはメロディーを繊細な表情付けでゆったりとセンス良く歌わせ、走句を軽妙に転がし、リズムを躍動的に浮き立たせそしてお喋りするようにと場面に応じて自由自在に弾いていきます。でも、それが恣意的に聞こえないのはその透明感の高い音色の美しさと天性のセンスの良さの証明かと。第2楽章はエッシェンバッハとオーケストラの男性的で逞しい響きと、それに続くラン・ランの中音域の暖かい音色と高音域でのきらきらと輝く音色を絶妙なタッチコントロールで奏でる歌のコントラストが実に素晴らしい。弱音のダイナミクスのコントロールを駆使しての絶妙なフレージングは本当に見事ですし、それが自然な歌に結びついているのがとても好ましい。ラン・ランの美しい音で2楽章が締めくくられた後、エッシェンバッハの終楽章の入りの指示はちょっと早かったような気が・・・、もうちょっと余韻に浸らせて欲しかったなあ(笑)。この後はもう、ラン・ランがベートーヴェンと戯れているような愉しさに満ちていて楽しいこと。エッシェンバッハとオーケストラも力感あふれるサポートも良かったですね。カーテンコールでラン・ランがコンマス氏の手を引いて、「前半はおしまい」と。アンコールを聴きたかったような気もしますが、長丁場のコンサートへの配慮でしょう。今度は彼のリサイタルを是非聞いてみたいですね。
後半はマーラーの交響曲第5番。舞台上は弦の対向配置の他にホルンが木管の後ろにアシスタントを含めて7人がずらりと一列に並び、その後ろに打楽器群、その右にトランペット/トロンボーン/チューバが配置されているのが目に付きました。エッシェンバッハの振るこの曲を聴くのは今日で2度目、前回は北ドイツ放送響との来日公演の時。実はそのときの演奏にはあまりいい感触が残っていないのですが、オーケストラが変わるとどうなるか楽しみでもあり不安でもあり・・・(笑)。フィラデルフィア管は明るく清潔な艶っぽさを湛えた弦を中心にすこぶる魅力的なサウンドと優れた機能性、そして各楽器のソロの妙技を存分に聞かせてくれました。エッシェンバッハはやや遅めのテンポでオケを充分に鳴らしたうえでリズムをかなり強調し、明るいフレーズは明るくそして暗いフレーズはこれでもかというほど暗く歌わせる音楽作り。フレーズの自然な抑揚を半ば無視したべた塗りの歌わせ方は正直言って私のちょっと苦手なタイプ。第4楽章も響きは美しいのだけども、歌に浸らせてくれない。第5楽章途中の大きなルバート(?)は前回聞いたときと同じでしたが、やっぱり違和感あり。オケの鳴らし方も各パートがそれぞれに鳴ってくるように聞こえて、パート間の溶け合った美しさやポリフォニックな線を際立たせてくれる楽しさはあまり味わえませんでした。それでも、最後まで聞けたのはフィラデルフィア管の魅力的なサウンドのおかげ。終演後は一般参賀はなかったものの客席は盛り上がっていたことを記しておきます。
このコンサート、NHKによる映像収録が実施されていました。今後、FMやテレビで放送されのではないかと思われます。
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