H.ベルナルディ/大野和士/ベルギー王立歌劇場管 P.ブースマンス/マーラー
昨日はすこぶる魅力的なラヴェルとリムスキー=コルサコフを披露してくれた大野和士とモネ管。今日はオペラシティでブースマンスの歌曲とマーラーの5番というプログラム。昨日に続いて大野/モネ管を聞きに初台へ。
大野和士指揮/ベルギー王立歌劇場管弦楽団ベルギー王立歌劇場管弦楽団(モネ管)は昨日同様にチェロを外側にした通常配置、弦の編成は前半14型・後半16型での演奏。
1. フィリップ・ブースマンス : ゲオルク・トラークルの詩による歌曲集 ・・・・・・・・・・・・ 2. グスタフ・マーラー : 交響曲第5番嬰ハ短調 ・・・アンコール・・・ 3. グスタフ・マーラー : 交響曲第5番嬰ハ短調 より 第4楽章
ソプラノ : エレーヌ・ベルナルディ(1)
大野和士指揮 ベルギー王立歌劇場管弦楽団 (コンサートミストレス:タチアナ・サムイル)
2005年9月26日 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
最初に大野和士がマイクを持って登場し、10分程モネ劇場と今日のプログラムについて紹介。ベルギーは多言語国家ということで、モネ劇場では字幕がオランダ語とドイツ語と2種類出るんだそうです。レセプション等の挨拶も英語を足した三ヶ国語なんだそうで、乾杯まで辛抱強くまたないといけないらしいです(笑)。相変わらずこの人のトークは話題が豊富でわかりやすいですね、いつも感心します。
さて、前半はゲオルク・トラークルの詩によるブースマンスの歌曲から。プログラムによるとトラークルは、弱冠27歳で亡くなった、マーラーとほぼ同時代に生きたオーストリアの詩人。第1次世界大戦の影響、ドラッグや酒に溺れていたという生活故の短命。ブースマンスは御年69歳のベルギーの作曲家で、前述の通りモネ劇場のレジデンス作曲家を長年務めている人。近年エクサンプロヴァンスで大野/モネで上演された「令嬢ジュリー」もこの人の作品。
トラークルの詩はマーラーが曲を付けてもおかしくない様な「死と生」を色濃く感じさせるもの。ブースマンスは大編成のオーケストラを用いて、激情と静謐の対比で曲を構成。昨日のラヴェルとは対照的に、エレーヌ・ベルナルディは歌い、語り、叫びと難易度の非常に高い曲を見事に歌いこなし、様々な曲への対応力の幅広さを示していました。こういう曲での大野の棒捌きは本当に見事。切れ味の良い大野に鋭敏に反応するモネ管と共に今日もぴったりと歌に付け、曲の世界を余すところなく表現していたと思います。
後半はマーラーの交響曲第5番。大野はマーラーの様々な要素をバランスよく聞かせながら、彼特有の熱っぽさを随所に聞かせる素晴らしいもの。その棒には全くと言っていいほど迷いがなく、オーケストラを信頼しつつきめ細やかな配慮の行き届いた指示を飛ばすさまは見事というしか。頭脳明晰でも心の内側は熱いという、ある意味理想的なマーラー。モネ管も大野の自信に満ちた棒を信頼し、思い切りの良い自発性に富んだ演奏を披露。ライブ故の傷はあるものの大野とモネ管、両者の信頼関係を如実に示していました。死をイメージさせる葬送のリズムにほのかに漂う温かみ、第3楽章以降の色彩感はこのオーケストラならでは。第4楽章もハープと弦の織り成す美しい音の綾と香り、終楽章のトランペットが加わってテーマを奏でる部分の輝かしい色彩。終楽章、ほんの少しテンポを緩めて奏でさせた第4楽章のリフレイン、ここをしっかりと(リフレインだと)意識させてくれたことも今日の収穫でした。5月に聞いた陰を思い切り強調したようなエッシェンバッハの演奏とは対照的に、やや陽の方向に振りどこか希望や暖かさをを感じさせる素晴らしいマーラーでした。
盛大な拍手とブラボーに応えてのアンコールは、アダージェットをもう一度。大野は棒を持たずに、さっきよりちょっとだけ思いを込めた演奏を披露してくれました。ピアニッシモでひそやかに歌われるこの曲の一番美しいところ、水分が頬を伝って流れました・・・。
大野がコンサートミストレスの手を取り、モネ管の楽員が舞台上を去っても拍手は鳴り止みません。再度、大野が一人で登場し拍手に応えて今日のコンサートは終了しました。
ロビーに下りると、大野のサインを求めるファンの長蛇の列。2階ロビーにレセプションの準備がされていましたが、なかなか開始できなかったのでは・・・(笑)。
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