ウール/アルミンク/新日本フィル トリフォニー定期 ベートーヴェン:レオノーレ
新日本フィルのトリフォニーシリーズ恒例となった年に一度のコンサートオペラ。昨年はサロメでしたが、今年はレオノーレの1806年版。フィデリオではないところがアルミンクのこだわりでしょうか。今日はまず錦糸町へ。
新日本フィルハーモニー交響楽団 トリフォニー・シリーズ 第383回定期演奏会今回のレオノーレはガーディナーが録音した初演時の1805年版を中心にした全3幕のものではなく、1806年に全2幕として上演された版に基づく演奏。渡辺和のプログラム解説によれば、アルミンクの意図による若干のナンバーの演奏順の入れ替えを含むとのこと。去年のラトル指揮の「フィデリオ」と同様に台詞はほぼ全面的にカットされ、最小限の言葉と動きでナンバーをつないでいく形での上演。
・ ベートーヴェン : 歌劇「レオノーレ」 (1806年版 全2幕 日本初演 コンサートオペラ形式)
ドン・フェルナンド : 塩入功司 ドン・ピツァロ : ハルトムート・ヴェルカー フロレスタン : ヴォルフガング・シュヴァニンガー レオノーレ : マヌュエラ・ウール ロッコ : ヨルグ・シモン マルツェリーネ : 三宅理恵 ヤキーノ : 吉田浩之 囚人1 : 大槻孝志 囚人2 : 細岡雅哉
クリスティアン・アルミンク指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:崔文洙) 東京オペラシンガーズ (副指揮/合唱指揮:江上孝則/田代詞生/内藤佳有)
演出 : 三浦安浩
205年3月19日 15:00 すみだトリフォニーホール 大ホール
舞台上の雰囲気はいわば工事現場。指揮台の右からオーケストラを囲むように階段上の足場を舞台左手入り口まで設置(ここからは脚立で下に降りられるようにしてある)。足場と客席通路の一部は工事色(黄と黒)で縁取られた黒色。舞台奥の足場には階段が設置されていて歌手は舞台左右からだけではなくここからも出入りするという按配。工事用の赤いコーンもあちこちに見える。舞台上部にはパイプの骨組みを伴った反響板がオルガンバルコニーやや上部まで下げられています。
そんな工事現場(笑)に囲まれた中のオーケストラはいつのも新日本フィルの並べ方で弦は12型の編成。
この版の幕開けはレオノーレのために書かれた序曲の中で一番有名な第3番。アルミンクは新日本フィルから瑞々しいサウンドを引き出し、隅々まで神経の行き届いたしなやかで表情豊かなベートーヴェンを描いてきます。決して無理やり力を入れて迫力を出すのではない、自然な力感が表出されるのがとても好ましい。ナンバー入ってからもその瑞々しさは変わらず、若手からベテランまで幅広い年齢層の歌手達を生かしつつ生き生きとした音楽を聞かせてくれました。彼の音楽作りはヒロイックな味の濃い「フィデリオ」よりも、喜劇的な側面の強い「レオノーレ」の方が相性が良いのでは。それを彼自身が理解しての選択ではないでしょうか。第1幕のモーツァルト的な雰囲気や、第2幕フィナーレの一部分では宗教曲的ともいえる崇高な雰囲気がよく出ていて感心させられました。新日本フィルも相変わらず好調で、アルミンクの棒に充分に応えた見事な演奏でした。そして、東京オペラシンガーズはアルミンクの音楽作りに応え、いつもとは異なる繊細で柔らかな表情が良く出た素晴らしい出来栄え。「剛」だけではなく「柔」にも応えられることを明らかにしていました。
歌手達もなかなかの出来栄えでした。レオノーレのマニュエラ・ウールは内に秘めた芯の強さを感じさせる役作り。声の伸びと豊かな声量そして表現の強さを併せ持った素晴らしさ。マルツェリーネの三宅理恵はまだ大学院(研究科)在学中だとか。清潔で伸びのある歌声は役柄にぴったり。初々しく伸び伸びとした歌はとても魅力的で、可憐なマルツェリーネを好演。もっと言葉がクリアに聞こえてくると更に素晴らしかったのではないかと。今後が楽しみな人材です。ロッコはヨルグ・シモン。素直で包容力のある声が特徴で、上司の命令に忠実に従う実直な牢番かつ優しい父親としてぴったりの歌唱。フロレスタンはヴォルフガング・シュヴァニンガー。この人はとにかく役作りが秀逸。第2幕での鎖につながれ疲弊した心情から妻レオノーレによる救出による喜びまで。その心情の変化を的確に表現していました。ドン・ピツァロはルルでシゴルヒを歌っていたハルトムート・ヴェルカー。悪役の相応しい毒を持ったキャラクターにぴったりだけど、テンポ感が重く指揮者の求める音楽とはやや齟齬があったかも。ヤキーノは吉田浩之。この人らしいストレートな表現が好ましく、マルツェリーネとのコミカルなやりとりも面白く聴きました。ドン・フェルナンドの塩入功司は張りのある声ですが、もう少し存在感がほしかったかも。
三浦安浩の演出は工事現場を舞台にしたちょっとした刑事物みたいな雰囲気。限られた空間を有効に使って、第1幕でのコミカルな味付けから第2幕の劇的な展開までうまく表現していたように思います。第2幕フィナーレでは下げていた反響板も上にあげ、トリコロール色のTシャツ(背中にはLEONOREの文字、ロビーで限定販売されてました)合唱を1階客席後方から客席通路を使って歌いながら舞台上へという動かし方はその典型。東京オペラシンガーズの素晴らしい歌声と共に素晴らしい効果をあげていました。
アルミンク/新日本フィルのコンサートオペラ、来シーズンはオネゲルの「火刑台上のジャンヌダルク」、来々シーズンはワーグナーの「ローエングリン」が予定されているとのこと。あ、その前に7月の二期会「フィレンツェの悲劇&ジャンニ・スキッキ」でピットに入っての演奏がとても楽しみです。
Comments
レベルの高いコンサートでしたね。
珍しい作品をこういう形で上演していただけると、大変有り難いです。
ところで、コンサートオペラ、来年と再来年もアナウンスされていたのですか。
ジャンヌダルクとローエングリンなんて興味津々です。是非聴いてみたいものです。
ジャンヌダルクは生で接したことがないので私も非常に楽しみです。アルミンクと新日本フィル、意欲的なプログラミングとその演奏が今後も楽しみです。