A.ベネント/C.アルミンク/新日本フィル トリフォニー定期 オネゲル:火刑台上のジャンヌ・ダルク
サロメそしてレオノーレに続くアルミンクと新日本フィルによるコンサート・オペラ第3弾は、現在療養中の桂冠名誉監督が十八番としているオネゲルの「火刑台上のジャンヌダルク」。小澤征爾が1993年にSKFで上演した模様を収録したLD(DVD化されないのは何故?)を久しぶりに引っ張りだして、最近調子の悪いLDプレイヤーで耳鳴らし(目慣らし)も万全(と言いたいのですが・・・?)。今日はjosquinにとって、はじめて演奏会で接する「家計台上のジャンヌ・ダルク」を楽しみに錦糸町へ。
新日本フィルハーモニー交響楽団 トリフォニー・シリーズ 第396回定期演奏会ホールのなかに入りステージを見やると、中央後方には十字の角をかたどった縦に細長い白い舞台、そして根元が血塗られ十字の腕が斜めになっている十字架が目にはいります。新日本フィルは1Vn-2Vn-Va-Vc/Cb右の並び、12-10-8-6-5の編成。白い舞台の左側にサキソフォンとオンド・マルトノをはじめとする鍵盤楽器、右側にその他の木管楽器、金管楽器および打楽器を配置。栗友会合唱団は白い舞台左側に女声、右側に男声と並んでいました。
・ オネゲル : 劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」 (コンサート・オペラ形式・日本語字幕付)
ジャンヌ・ダルク : アンヌ・ベネント 修道士ドミニク : フランク・ホフマン 伝令官I・III/驢馬/ベッドフォード/農民/司祭 : 大槻孝志 声/伝令官II/ジャン・ド・リュクサンブール/
ウルトビーズ(粉ひき)/執行官/もう一人の農民: 吉川健一 ルニュー・ド・シャルトル/
ギョーム・ド・フラヴィ/ペロー/酒樽かあさん: 田村由貴絵 聖処女/声 : 品田昭子 マルグリート : 菅有実子 カトリーヌ : 永井和子 豚/声/書記 : バーソルド・シュミット こどもの声 : 東京少年少女合唱隊
助演(子役) : 阿嘉真理乃 助演(野獣) : 原純
オンド・マルトノ : 原田節
クリスティアン・アルミンク指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:崔文洙) 栗友会合唱団 (合唱指揮:栗山文昭) 東京少年少女合唱隊 (合唱指揮:長谷川久恵)
演出 : 三浦安浩 舞台監督 : 幸泉浩司 字幕 : 実相寺昭雄
2006年2月11日 19:15 すみだトリフォニーホール 大ホール
チューニングが終わると明かりが落とされ、再び明かりが灯ると既にアルミンクは指揮台の上に。アルミンクの棒が振り下ろされると、低音楽器が蠢いてプロローグが開始。ジャンヌはステージ前方左側でドミニクは右側、丁度通路が突き当たった位置に低めの台の上で語り、白い舞台上で助演のもう一人のジャンヌ(少女)とパントマイムで野獣などを表現する男性を中心にして回想が展開されていく形。当然ステージと階段でつながっているオルガンバルコニーも利用されていました。
アルミンクと新日本フィルは、美しい音色と良好なアンサンブルで誠実な音楽を展開。あちらこちらにメリハリをつけまくって、ドラマティックな側面をやたらと強調したりはしないのは、このコンビらしいところ。前半はややあっさりした印象で、寓話的な豚ちゃんの裁判シーンなども必要以上に騒々しくない。「IX:ジャンヌの剣」以降に焦点をあわせ、このコンビの特質のひとつである繊細な美しさを最大限に生かしニュアンスに富んだ演奏を披露していました。ジャンヌが「愛」と叫んだ後、ヴァイオリンが奏でるメロディーの美しさといったら・・・。「XI:炎に包まれるジャンヌ」の高揚感も充分で、力強い合唱と共に堪能させてくれました。
ジャンヌ役のアンヌ・ベネントが凛とした芯の強さを武器にし、決して大げさな表現をせずに語っていたはアルミンクの意図と相通じるもがあったように思います。ジャンヌが唯一歌う場面「X:トリマゾ-懐かしき歌」で彼女の意図が明らかに。今まで抑えていたジャンヌ自身の弱さを表に出し歌うトリマゾに、思わず涙腺が・・・。彼女もこのトリマゾの歌以降に、表現の焦点を当てていました。修道士ドミニクのフランク・ホフマンも淡々としながらも味わい深い語りを披露。語り役のジャンヌとドミニクの2人がしっかりとしていれば、舞台はちゃんと締まった印象になりますね。
ソリストのなかでは、聖処女/声役の品田昭子の透明感溢れる声と歌い口の清潔感、菅有実子の確かな歌と声の存在感が印象に残りました。殆ど語りしかない諸役を担当した田村由貴絵も生き生きとした語りと演技を披露していました。豚/声/書記のバーソルド・シュミットは昨年の大地の歌にも出演していた歌い手。素直な声で悪くは無いのですが、やっぱり声とキャラクターの強さが欲しいところ。
栗友会合唱団は大健闘と言ってよいパフォーマンスを披露。声の純度やハーモニーの精度等、更に上を求めたいところは無きにしも非ず(耳鳴らしが東京オペラシンガーズだったということもありますが・・・)。しかしながら、様々な表現力を要求されるこの曲の要求に充分に応えていたと思います。東京少年少女合唱団は演出の関係でオルガンバルコニーの左右に分かれて歌った部分では、オーケストラも含めてアンサンブルが乱れてしまったのがちょっと残念。それ以外では美しく安定感のあるを歌声を披露。ソロを歌ったメンバの歌唱も秀逸でした。
演出はセルセの記憶も新しい三浦安浩、今日の一番不安点だったかもしれません。終演後、一声のみ「ブー」が出ていましたが、今日はjosquin的には無問題でしたね(笑)。ジャンヌを2人に演じさせるというコンセプトは興味深いものでしたし、コンサート・オペラという制約の中で様々な工夫をしているのがよくわかります。でも、いくつか気になった点を記しておきます。まずは、豚裁判長のの尋問に対してジャンヌが「ノン!」と叫ぶシーン。今日の演奏と語りのキャラクターからすると、演出面での助けが欲しかったなあと。最初の肝になる部分ですので、少し強めの印象付けが欲しいなと。次に、トランプ・ゲーム開始前の王様達の入場シーン。オーケストラの面々に王冠をかぶせることで表現をしていましたが、ここも印象がちと薄め。josquinはトランプ・ゲームの最中に、弦楽以外のメンバが王冠をかぶっているのに気がつきました(反応が鈍いだけか・・・、笑)。もうひとつは、フランス王がランスへ旅立つ行進シーン。王様が不在で(見送りの)民衆だけの表現になっていて、もう少し工夫して王様を表現して欲しかったなあと。
最終シーンはジャンヌが白い舞台上のもう一人のジャンヌのへ歩み寄り、斜めになっていた十字の腕も水平に。十字架の縄を外し、無垢の象徴である少女をかかえて幕切れとなりました。
アルミンク/NJPのコンサートオペラ第3弾、今回も充実した上演を楽しむことが出来たと思います。来年の第4弾はローエングリンが3月に上演されることが既にアナウンスされていますが、アルミンクにぴったりのワーグナー作品ではないでしょうか。来年もこのコンビのコンサートオペラを楽しみにしたいと思います。
Comments
私もこの公演、聴いてきました(木曜に行って非常にいい印象を受けたので、土曜のほうにも当日券で行ってしまいました^^;)。
歌手、合唱、俳優、オケ、いずれも水準が高く、よく引き締まったすばらしい演奏でしたね。特に後半の清浄な響きには私も涙が出てしまいました。おっしゃるとおり前半がうるさくなかったのにも感心しました。実際のところやろうと思えばいくらでも悪趣味にできますしね。
十字架下の演出があまり見えない席だったのですが、、この公演に限っては正解だったかもしれません(笑)
TBさせていただきました。
いつもTB&コメントありがとうございます。
二日とも行かれたんですね、羨ましい限りです。
> 十字架下の演出があまり見えない席だったのですが、、この公演に限っては正解だったかもしれません(笑)
Sonnenfleckさんの「動きを追いきれない」の感想が示すように、この方の演出はなんだか本筋以外のところに力を注ぎ過ぎているような気がします・・・。