S.ヴラダー/藤村実穂子/B.シュミット/アルミンク/NJP サントリー定期 ウェーベルン/モーツァルト/マーラー
ティル・フェルナーの来日中止は残念でしたが、今日の最大のお目当ては藤村実穂子の歌う"Ewig"。いままでたくさんマーラーの交響曲を聞いてきたのに、この曲だけはまだ生で聞いたことがなかったんです。ミッチー/NJPとベルティーニ/都響の都合2回聞くチャンスがあったのに、両方とも仕事であえなく断念(T_T)。アルミンク/NJPのマーラー第3弾を聴きに六本木一丁目へ。
新日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール・シリーズ 第388回定期演奏会最初はウェーベルンの作品6。オーケストラはチェロを外側にした配置で編成は16型。ウェーベルンの精緻な音の綾を丁寧に描いたアルミンク/NJPらしい好演。弦の明るい艶ののった響きが演奏に潤いを与えていました。特に、第4曲の舞台上と裏で分けれられた打楽器のバランスは出色で、遠近感をもった響きが葬送にふさわしい雰囲気を絶妙に醸し出していました。
1. ウェーベルン : 管弦楽のための6つの小品 作品6(1928年改定版) 2. モーツァルト : ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466 休憩 3. マーラー : 交響曲「大地の歌」
ピアノ : シュテファン・ヴラダー(2)
アルト : 藤村実穂子(3) テノール : バーソルト・シュミット(3)
クリスティアン・アルミンク指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:豊嶋泰嗣)
2005年6月30日 19:15 サントリーホール 大ホール
2曲目はヴラダーを迎えたモーツァルトのニ短調協奏曲。シュテファン・ヴラダーはフェルナー同様にウィーン生まれの中堅ピアニスト。フェルナーより7歳年上の先輩が代役を務めることになります。オーケストラの編成は1月のアルゲリッチとの共演よりも小さめの8-6-4-3-2。口径の小さなバロック・ティンパニを用いていたのは1月と同様。古楽のテイストを取り入れたさっぱりとしたフレージングで曲の雰囲気を形作るアルミンクとNJP。リズミカルにTuttiを一緒に弾いていくヴラダー。そしてソロが全くといって良いほど気負いのない快速テンポで弾かれていきます。その音楽の流麗さとリズミカルな部分の鮮やかさをベースにし自在なピアニズムを聞かせてくれます。そして、時折音色を変化させて聞かせるニュアンスの絶妙さ。カデンツァは良く弾かれるベートーヴェン作のものではなくリズミカルな動きを基調としたもので、今日のヴラダーのアプローチに合致した選択と言えるでしょう。アルミンク/NJPは第1楽章のカデンツァ前まではややしっくりといかないところがありましたが、その後はぴったりと息のあったサポートでヴラダーとの協調を楽しんでいた様子。ヴラダーの取るテンポがあまりにも早くて、オケとの噛み合わせが万全でなかったところが合ったのはご愛嬌(笑)。ヴラダーは指揮活動もしているようで、弾き振りを聞いてみたくなるような魅力的な演奏でした。
さて後半はオーケストラの編成を16型に戻して、本日のメインディッシュであるマーラーの「大地の歌」。奇数楽章を歌うバーソルト・シュミットは明るく柔らかい声を持った繊細な持ち味を特徴とする歌手と聴きましたが、声がオーケストラに溶け込みすぎてしまって声が客席に届いてこないのが残念。しかしそんな不満を吹き飛ばすような、偶数楽章を歌う藤村実穂子の素晴らしさに感嘆。深みと凛とした強さを併せ持つ歌声、圧倒的な表現力と存在感を舞台上から放射していました。朗々と歌うのではなく淡々とした歩みで寂寥感を醸し出す第2楽章「秋に独りいて淋しきもの」。その寂寥感は最終楽章への布石としての役割を嫌が上にも感じさせてくれます。第4楽章「美しさについて」は自然と戯れる乙女達の情景を生き生きと的確な表現で歌っていたのが印象的。そして最終楽章「告別」の藤村実穂子とアルミンクそしてNJPの表現意図が合致し、三位一体となった素晴らしさ。室内楽的な美しさと内からの声を重視して、この曲の深い世界を余すところなく描ききったといっても過言ではないでしょう。フルヴォイスを決して使わずにストイックに淡々と歌いながらも、深い諦念を湛えた寂しさを聞かせる藤村。アルミンク/NJPは藤村の深々とした声を艶と透明感を失わずに支え、決して絶叫させたり煽ったりすることのない誠実さ。オーケストラだけの中間部で淡々とした積み重ねで外面からではなく、聞き手の内面から感興をじわじわと高めていってくれる。ことさら強調しなくても自然な表情で東洋的な風情が出てくる。藤村の歌に絡む木管や弦のトップを中心とした各楽器のソロもその持てるもてる力を存分に発揮していました。特にフルートの白尾彰はベテランらしいバランス感覚に優れた演奏を聞かせてくれました。最後の音が消え去った後、アルミンクが棒を下ろすまで静寂が保たれたのも良かった(^^♪。
藤村実穂子の今後の日本でのスケジュールは今のところ来月の沼尻/名古屋フィルとの大地の歌しか発表されていないようです。是非ともアルミンクのような相性の良い組み合わせでまた耳にしたいものです。アルミンクのマーラーも音楽監督就任記念の第3番、昨年11月の第5番そして今日の大地の歌と回を重ねるにつれて充実した演奏になっていますね。9月からの来シーズンは第2番「復活」と第6番が予定されていますので、更に充実した演奏を期待したいと思います。
Comments
どういうわけか見損ねていました。今頃すみません。。。
私もこの日のコンサート聴きました。全てが素晴らしかったですね!あれからだいぶたつのにまだ耳に胸に残っています。
アルミンクというウィーンの俊才がやはりウィーンの古典、近代の代表3人を並べて指揮すると、こんな違う作曲家たちなのに共通した血が通ってることに改めて驚かされました。
特に簡潔・純粋と思っていたウェーベルンがあんな官能的に響くのに驚かされましたたし、マーラーにああした自然な誠実さを聴くのは久しぶりでした。
ところで実はこの日の最大の驚きはシュテファン・ヴラダーで(大ファンなのに代役で出るのを知らなかったのです)
数ヶ月前に同じ曲を弾いたアルゲリッチとは違う流儀で、
でも同じくらい素晴らしく颯爽と、魅力的な演奏を聴かせてくれて嬉しかったです。ああ、一皮向けたなあ、と親みたいな気分になってしまいました(?)
本当に3曲とも素晴らしい演奏でした。
私にとってアルミンク/NJPは聞き逃せない存在のひとつになりました。まだ感想を記事に出来ていないのですが、二期会「フィレンツェ/ジャンニスキッキ」でもピットから魅力的な音楽を聞かせてくれていました。
「フィレンツェの悲劇」/「ジャンニ・スキッキ」は別の話題で盛り上がっているみたいですが、そうですか、オケ良かったですか。私は残念ながら聴きに行けなかったのですが、感想楽しみにしています。
ところで書き損ねたのですがヴラダーの弾いたカデンツァ、後でオケの方に聞いたら第1楽章は自作で第3楽章はブレンデルのものだそうです。
二期会の感想はしばしお待ちください、最近溜まる一方で・・・^^;。