岩城宏之/東フィル オーチャード定期 レスピーギ:ローマ三部作
一昨日は美しいラヴェルを披露してくれた岩城/東フィル。今日はそのコンビのレスピーギのローマ三部作を聴きに渋谷へ。
東京フィルハーモニー交響楽団 第709回定期演奏会プログラムの最初は「ローマの噴水」から。オーケストラはヴィオラ外側の配置で編成は16型。第1曲「ジュリアの谷の噴水」の冒頭、弦の清清しく繊細な味わいが夜明けの雰囲気を的確に表現。そして朝、第2曲「トリトーネの噴水」勇壮なホルンと木管を中心とした愉しい雰囲気の対比。お昼は第3曲「トレヴィの噴水」はこの曲のクライマックスともいえる盛り上がりのあとのなだらかな下降線が美しい。夕刻、終曲「メディチ家の噴水」第1曲と対称を成すような繊細な味わいがとても美しい。やはり岩城さんが振ると弦を中心にしてオーケストラのサウンドがびしっと整いますね。そうでないとこの曲の第1曲と第4曲の繊細な味わいは出てこない筈。一昨日よりはストレートなイメージの強いサウンドが展開されていますが、それはレスピーギの曲が求めているものを素直に表現したものではないでしょうか。この曲の繊細な美しさが際立つ素晴らしい演奏でした。
1. レスピーギ : 交響詩「ローマの噴水」 2. レスピーギ : 交響詩「ローマの祭り」 休憩 3. レスピーギ : リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲 4. レスピーギ : 交響詩「ローマの松」
岩城宏之指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:荒井英治)
2005年6月26日 15:00 Bunkamura オーチャードホール
2曲目は「ローマの祭り」。ローマ三部作の中ではこの「祭り」が一番私の好みの曲かもしれません。トランペットの別働隊は聞こえ方の具合から2階席バルコニー(かな?)に配置されていた模様。力強く勇壮なファンファーレを中心とした歩みと異教徒(この場合キリスト教)を示すおどろおどろしい動きとの対比。チューバを中心としたリズムの切れの良さと重量感のある響き。ずっしりと聴き応え充分の第1曲「チェルチェンセス」。とぼとぼと歩く巡礼者達の思い足取りから喜びのクライマックスまでの設計が見事だった第2曲「50年祭」。軽快なリズムにのって歌うヴァイオリンの美しさが際立っていた第3曲「10月祭」。最後の熱狂のサルタレロを際立たせるために、少し重めの歩みを効果的に利用した終曲「主顕祭」。第1&4曲の重量感あふれる音楽作りを骨格に吸えた、聴き応え満点の「祭り」の演奏でした。
後半はリュートのためのアリアと舞曲の第3組曲から。編成は8-6-4-4-2と一昨日のマ・メール・ロワと同じ。「祭り」の後のクールダウンの意味合いもあるプログラミングですが、クールダウンにはもったいないほどの素晴らしい演奏でした。小編成の弦楽合奏から実に柔らかな音色を引き出した上で、端正な風情を漂わせる第1曲「イタリアーナ」。第2曲「宮廷のアリア」は様々なアリアの性格を的確にあらわし、特に両端の悲しげなアリアの味わいは格別。第3曲「シチリアーナ」はNHK-FM夜のクラシック番組エンディング曲として親しんだ懐かしい曲。舞曲としての性格を決して失わないテンポと生き生きとしたリズムの素晴らしさ。第4曲「パッサカリア」はレスピーギのアレンジの巧みさもあるとは思いますが、小編成の弦楽オケから響きの良くのった立派な響きと生彩に富んだ表現がとても印象的でした。このオーチャードホールでもこういう小編成物を繊細な味わいを失わずに、ホールの隅々まで響き渡らせることが出来ることの証明でしたね。本当に見事な演奏でした。
最後に残ったのは当然ながら「ローマの松」。第1曲「ボルゲーゼ荘の松」からまぶしいほどの華やかな響きが耳を捉えます。第2曲「カタコンベの傍らの松」も最初の歩みの荘さと舞台裏からのトランペットの漂うような美しさが印象的。第3曲「ジャニコロの松」は各パートのソロが冴えていましたね。特にクラリネットはこの曲だけでなく、今日全体を見渡しても素晴らしい演奏を聞かせてくれました。最後の鳥の鳴き声はテープではなく、鳥のさえずりを模した笛をホール外のあちこちから吹かせていた様子(今年2月の下野/都響もテープではなかったのと同様)。そして終曲「アッピア街道の松」は堂々とした歩みでクライマックスまで持っていくこけおどしでは全くない迫力満点の横綱相撲。美しい響きを失わずに膨れ上がっていくオーケストラの総奏は圧倒的でしたね。金管のバンダは2階中央最前列の通路の左右に配置されていて、立体的な響きを作り出していました。
昨年のドヴォルザーク、一昨日のラヴェルそして今日のレスピーギ。岩城さんと東フィルとのコンビネーションはすこぶる良好と感じられます。本当に余計なことをしない音楽作りが、見事なまでに結果に結びついています。そしてオーチャードホールはもとより、どんなホールで演奏しても通用するのではないかと思われる程のサウンドを東フィルから引き出しているのは見事としかいいようがありません。ここ数年岩城さんが首都圏のオーケストラで毎年客演しているのは東フィルくらいではないでしょうか。是非、今後も定期的な共演を望みたいものです。
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