古川/下野/都響 プロムナードコンサート ブリテン/ブロッホ/ヴェルディ/レスピーギ
昨年の新日本フィルとの「我が祖国」全曲での正攻法な音楽作りが印象に残っている下野竜也。彼の指揮を聞くのは今日で二回目。都響のプロムナードコンサートを聴きに赤坂へ。
東京都交響楽団 プロムナードコンサート No.312コンサートはブリテンのマチネ・ミーュジカルでスタート。ロッシーニの曲を題材にし、バレエのために書かれた五つの曲からなる作品。姉妹作に同様にロッシーニの曲を基にしたソワレ・ミュージカルという作品もあるそうです(まだ聴いたことないのですが・・・)。下野は都響の弦の艶を生かした明るく爽やかなサウンドを引き出していて実に魅力的。あちこちにちりばめられたウィットやユーモアのセンスもなかなかチャーミングに聞かせてくれます。木管や金管のソロも生き生きとしていて好感が持てます。最終曲での下野の動きと共にオーケストラがスイングする様も実に良い感じ。昼下がりにコンサートの幕開けに相応しい明るい楽しさに満ちた演奏でした。なお、この曲では弦12-10-8-6-4のヴィオラ外側の通常配置による演奏でした。
1. ブリテン : 「マチネ・ミュージカル」作品24 2. チャイコフスキー : チェロとオーケストラのためのヘブライ狂詩曲「シェロモ」 休憩 3. ヴェルディ : 歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲 4. レスピーギ : 交響詩「ローマの松」 アンコール 5. プッチーニ : 菊
チェロ : 古川展生(2)
下野竜也指揮 東京都交響楽団 (コンサートマスター:山本友重)
2005年2月5日 14:00 サントリーホール 大ホール
2曲目はこのオーケストラの主席チェロ奏者の古川展生をソロ迎えてのシェロモ。オケは1プルト増えて14-12-10-8-6の編成。この曲はモノローグ的なチェロのソロと表情豊かなオーケストラとの対話。古川展夫は曲が手の内に完全に入っていて、やや憂いの感じられる音色ではっきりと明確に語っていく好演。充分な音量とスケール感でソロモンの世界を描いておりました。下野竜也指揮するオーケストラもスケール感充分で、ブリテンとは明らかに異なる深みを増した音色で古川をぴったりとサポートしていました。
休憩の後はヴェルディの「シチリア島の夕べの祈り」序曲。ここからオケは16型の編成での演奏。冒頭のリズムを明確に刻み、しっかりとした構成感を基調に動きのあるダイナミックかつシンフォニックな演奏。ときおり表れるチェロの旋律を勢いに任せずに自然なフレージングで歌わせていたのが印象的でした。この曲ではチューバではなくヴェルディ御用達のチンバッソを使っていました。
プログラムの最後はレスピーギのローマの松。最初の「ボルゲーゼ荘の松」はやや遅めのテンポで明るく華やかに開始。勢いで突っ走るのではない、レスピーギの書いた色々な仕掛けを丁寧に処理しています。続くカタコンブ付近の松」も持続感を持ってじっくりと描いた好演。Pブロック裏で吹かれたトランペットのソロは音の輝きよりも、内面をじっくりと奏でた演奏。「ジャニコロの松」はふわっとしていて柔らかな感触の弦楽の素晴らしさ。その弦楽に支えられたクラリネットを中心とした木管陣のソロがかもし出す雰囲気の良さ。ナイチンゲールの鳴き声はテープではなく、舞台上、LBブロック後方そしてRBブロック後方に打楽器奏者3人を配置して各々異なる鳥笛を吹かせていて、きわめて自然なサラウンド効果を演出。そして最後の「アッピア街道の松」はこけおどしではない、一歩一歩着実にしっかりと歩む軍隊の行進。細かい指示をせずエネルギーコントロールに徹した下野の棒の下、クライマックスに向けて徐々に重量感と迫力を増していくさま。そして迎えたクライマックスに成就した明るさに満ちた壮麗な音の伽藍。正攻法のアプローチが見事に決まった、充実した聴き応え満点の演奏でした。なお、終曲での金管の別働隊はオルガン前のバルコニーで演奏していました。
アンコールは「イタリアつながりで、プッチーニのきく、キク、菊、菊の花」と下野が紹介。CDではいくつか録音(シャイーのとか)が出ているものの、生で聞く機会はあまりないと思われる弦楽合奏による佳曲。私も生で聞くのは今日がはじめて。丁寧に整えられた弦楽の美しい響きにのって、透明な悲しみが感じられる素敵な演奏でした。
シェロモをアクセントとして、アンコールを含めてイタリアをテーマとしたプログラム構成はなかなか粋ですね。そして奇をてらわない音楽作りで、各曲の性格を鮮やかに描き分ける下野竜也の力量が光りました。都響もそんな下野の棒に対して、美しい音と見事なアンサンブルで応えていました。休日の昼下がりに相応しい後味の良いコンサートでした。下野竜也、今後も折に触れて耳にしたい指揮者のひとりだなあと改めて認識。来月の二期会での魔笛が楽しみです。
これほど充実した演奏だったのに、唯一残念だったのは客席がさびしかったこと。このシリーズは毎回ほぼ満席に近い集客を誇っていたのに・・・。古川展生が出演してもこの状態だとちょっと心配。
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