えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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アルゲリッチ/アルミンク/新日本フィル グルダを楽しく想い出す会 モーツァルト/グルダ

もともとベートーヴェンの皇帝が予定されていた演奏会。しかし、アルゲリッチの意向によりモーツァルトのニ短調協奏曲へと変更。キャンセルせずに聴きに行きました、錦糸町へ。
アルゲリッチ ピアノ協奏曲の夕べ −グルダを楽しく想い出す会−

1.モーツァルト3台のピアノのための協奏曲ヘ長調 K.242
2.モーツァルトアダージョホ長調 K.261
3.モーツァルトロンドハ長調 K.373
4.グルダチェロ協奏曲
−*−*−
5.モーツァルト交響曲第32番ト長調 K.318
6.モーツァルトピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
−アンコール−
7.ベートーヴェンピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲ハ長調作品56 第3楽章

ピアノマルタ・アルゲリッチ(1,6&7)
パウル・グルダ(1)
リコ・グルダ(1)
ヴァイオリンルノー・カプソン(2,3,6&7)
チェロゴーティエ・カプソン(4,6&7)

クリスティアン・アルミンク指揮新日本フィルハーモニー交響楽団
(コンサートマスター:崔文洙)

2005年1月27日 19:00 すみだトリフォニーホール 大ホール
まずはグルダの息子達とアルゲリッチによるモーツァルトの3台の協奏曲。生の演奏会で聞くのは始めてですが、指揮台の前に響板を外したピアノが3台並ぶ様は壮観。並び順からいくとリコが第1ピアノ、パウルが第2ピアノ、そしてアルゲリッチが第3ピアノという割り振りの様子。リコとパウルが自由に弾きつつ、アルゲリッチが要所をピシッと締めるような按配。アルゲリッチが弾くと音楽にしっかりとした芯と音楽の広がりが加わるのはさすがですね。小編成のアルミンク指揮する新日本フィルも冒頭から颯爽とした感じと美しい音色を奏でていて好ましいサポートぶりでした。そして、なによりも愉しかったのはカデンツァ。グルダが書いたメロディーなのでしょうか、いくつかのポピュラー風のメロディーをフィーチャー。フォーマルなモーツァルトとくだけたメロディーのコントラストがなんともいえない味を出していました。それに加えて第3楽章ではグルダが録音を残しているモーツァルトのハ長調協奏曲(K467)の第2楽章の冒頭部が聞こえきて思わずニヤリとしてしまいました(^^♪。

続いてはルノー・カプソンのヴァイオリンでモーツァルトのアダージョとロンド。明るい音色と生き生きとした表情が魅力的でしたね。特にロンドではその特徴がセンス良く生かされていました。音は3階後方まで充分に届いていましたが、会場との相性なのか楽器からの音離れがやや悪い感じに聞こえたのがちょっと残念。

グルダのチェロ協奏曲は初めて耳にしました。オケはドラム/ギター/ベース/パーカッション/トランペット2/トロンボーン/チューバ/ホルン2/フルート/クラリネット2/オーボエ2/ファゴット/コントラバスと弦合奏のない独特な編成。チェロ独奏、ギター、ベースにはPAが使用されていました。第1楽章はファンファーレ風のメロディーあら始まるジャズテイストな部分とモーツァルト的な叙情的な部分が交互に現れ、第2楽章もモーツァルト的なクラシカルな要素とポピュラー的な要素が交互に、第3楽章はチェロ独奏のモノローグが続いた後にスペイン(フラメンコ)的なテイストがそれに続き、第4楽章はスーザがチェロ協奏曲を書いたらこんな風なんだろうなと思われる活気あるアメリカンテイスト。「ほらいいだろ、あれもこれも」というグルダの声が聞こえてきそうなサービス精神旺盛な曲で、グルダ流音楽のおもちゃ箱を楽しみました(ほんとうに面白かった)。チェロのゴーティエ・カプソンはそのいろいろな要素を楽しみながら弾いているのが良く伝わってきましたね。リズムもノリも抜群だし、モノローグ的な部分のシリアスな味わいも良かった。オケも第1&4楽章のノリ、第2楽章冒頭のトロンボーン/チューバ/ホルン2でのハーモニーの美しさと柔和な雰囲気、第3楽章後半でのスペイン的な雰囲気が良く出ていました。

昨日の川崎公演を聴いた友人から「長いよ」とは聞いてはいたものの、ここまで終わって既に20時半近くだったでしょうか(笑)。

休憩の後、まずはアルミンク/新日本フィルでモーツァルトの32番の交響曲。3楽章構成ですがアタッカで続けて演奏される曲で、10分足らずの短いシンフォニー。アルミンクらしい品のいい美しい音色と颯爽とした音楽作りがとても好印象。両端楽章との対比となる第2楽章の優美さも良く出ていました。ラトルやノリントンのように積極的に古楽テイストを取り入れた演奏ではありませんが、フレッシュな感覚に満ちた演奏でした。

プログラムの最後はアルゲリッチ独奏によるモーツァルトのニ短調協奏曲。この曲ではカプソン兄弟もそれぞれトップサイドに座ってオーケストラに参加。心のざわめきを表したような弦の前奏からアルゲリッチの艶の良くのった色気のあるピアノが聞こえてくる。変幻自在のタッチと多彩なフレージング。一聴すると緩急自在にきままに弾いているようでいてそうでは決してない。音楽の持つ固有の枠みたいなものを決して踏み外さずにすこぶる魅力的な音楽を紡いでいく。どちらかは出来ても両立出来る人はやっぱり少ない。そしてあふれ出るパッション。第1楽章のベートーヴェン作のカデンツァの少し前あたりから音楽が熱っぽくなっていき、そのカデンツァで熱く燃焼するさま。アタッカで始められた第2楽章の静謐さ、最後のフレーズのおさめ方はピアニッシモのタッチのコントロールと共に絶品。第3楽章もアタッカで開始。あふれ出るパッションと即興的ともいえるスリリングさは聞き応え充分。アルミンク指揮の新日本フィルも美しい音色でぴったりと支えただけでなく、アルゲリッチとの刺激的なな交歓を楽しんでいる様子。「対話」と「協調」だけでなく「相互触発」とコンチェルトを聴く醍醐味を充分に堪能できました・・・皇帝でなくても(笑)。

拍手に応えてアンコールはアルゲリッチだけでなくカプソン兄弟が舞台前へと。もしかして一昨年にキャンセルでアルゲリッチのピアノで聴けなかったあれかと予想していたら・・・、やっぱり(笑)。そう演奏されたのはベートーヴェンのトリプルコンチェルトの第3楽章。カプソン兄弟の生きの良さと息の合ったアンサンブルとアルゲリッチとの掛け合いが素晴らしい。アルミンク指揮の新日本フィルも力感と隙のない万全のサポート。一段テンポをあげて入った終結部のスリリングなこと。第3楽章だけでなく全部演奏してくれないかなあ・・・なんて思いました。

カーテンコールが終わって時計を見ると22時ちょっとすぎてたかな。明日も仕事なのにちょっと長かったなあ(笑)。でも「グルダを楽しく想い出す会」というタイトルにふさわしい楽しい演奏会でした。また、アルミンク/新日本フィルのモーツァルト(と古典派)の演奏をもっと聴いてみたいなと思ったのも収穫でしたね。

最後に補足情報を少し。今日のモーツァルト作品での新日本フィルの弦楽の編成は10-8-6(K.318のみ7)-4-3。ティンパニは口径の小さいバロックティンパニ使用。NHKが映像収録を実施していて、2/20に教育テレビの芸術劇場で放映予定との掲示がありました。でも、プログラム全部の放送はあの枠では無理だろうなあ・・・。
らいぶ | comments (4) | trackbacks (7)

Comments

vagabond67 | 2005/01/29 03:12
えすどぅあさま TBありがとうございます。
舞台に登場するまで,アルゲリッチがキャンセルするのではないかと心配していましたが,素晴らしい演奏を聴けて本当に良かったですね。
エントリー,非常に詳細に書かれていますね。興味深く読ませて頂きました。3台の協奏曲のカデンツァについては,気付きませんでした。今度のテレビ放映の際チェックしてみます(^^ゞ
josquin | 2005/01/29 09:50
vagabond67さんTB&コメントありがとうございます。

本当にいいコンサートでしたね。
3台の協奏曲でのカデンツァで(K.467以外に)フィーチャされたのはグルダが息子たちの為に書いた曲じゃないかと思ってます。その曲を聴いたことがないので断定は出来ませんが・・・(^^ゞ
みゅう太 | 2005/02/04 13:41
はじめまして。私は初日のサントリーホール公演に行きましたがホント素晴らしかったですね。
初日は最初の曲が、グルダ兄弟によるモーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲」だったのですが、そのカデンツァで奏でられたのは、みなさんが想像した通り、グルダがそれぞれの息子たちに書いた「パウルのために」と「リコのために」のテーマ部分です。(3台の協奏曲ではそれに加えてグルダのトレードマークともいうべき「アリア」も挿入された、と聞きました。)
たまたまグルダの大ファンだったからすぐわかりましたが、結構それを知っていて「おぉ!」と微笑んだ方は多かったみたいで、私もなんだか幸せな気分になりました。
josquin | 2005/02/05 00:42
みゅう太さんこちらこそはじめまして。

コメント&カデンツァについての情報ありがとうございます。やぱりグルダが息子達に書いた作品とアリアだったんですね。

みゅう太さんの感想も読ませていただきました。アルミンクのサポートも実に良かったですね。本当に幸せな気分になれる素晴らしいコンサートでした。

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