新国立劇場 フィガロの結婚 ムラーロ/平井/東フィル
新国立劇場2003/2004シーズンの幕開けを鮮やかに飾ったホモキ演出のフィガロ。その再演を聴きに夕刻の初台へ。
新国立劇場 2004/2005シーズン フィガロの結婚平井秀明指揮する東京フィルの清潔なサウンドを基調にした、やや早めのテンポをとり颯爽とした風合いの序曲。序曲の途中から白一色の舞台上に白塗りのダンボールが次々と置かれ、さながら引越し風景。箱には新国立劇場のマーク、VIENNA、LONDON、NEW YORK、トウキョウの文字列、そうそう、これこれ(笑)。先々週のコジ同様に素直に愉しませてくれる後味の良い上演でした。
・ モーツァルト : フィガロの結婚【全4幕】
アルマヴィーヴァ伯爵 : ヴォルフガング・ブレンデル 伯爵夫人 : エミリー・マギー フィガロ : マウリツィオ・ムラーロ スザンナ : 松原有奈 ケルビーノ : ミシェル・ブリート マルチェッリーナ : 竹本節子 バルトロ : 妻屋秀和 バジリオ : 大野光彦 ドン・クルツィオ : 中原雅彦 アントーニオ : 晴雅彦 バルバリーナ : 中村恵理 二人の娘 : 三浦志保/小林昌代
平井秀明指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:三浦章広) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : アンドレアス・ホモキ
2005年4月9日 17:00 新国立劇場 オペラ劇場
フィガロは昨年のウィーン国立歌劇場来日公演でバルトロ(フィガロ)とレポレロ(ドン・ジョヴァンニ)を歌っていたロジェ・ムラーロ。特にレポレロ役で聞かせた存在感が印象に残っていますが、今日のフィガロ役もしっかりと手の内に入った歌唱と演技で楽しませてくれました。明るく張りのある声と豊かな声量と確かな表現力で充分な存在感を示していました。何をやっても表現に余裕があるのが強いですね。
スザンナは松原有奈。やや硬質ながら伸びのある歌声が好印象で、なんとなく高橋董子をイメージさせます。終止良く通る美しい声を聞かせてくれました。前回の才気煥発な中嶋彰子とはまったく違う持ち味ですが、素直でチャーミングなスザンナを好演していました。
ケルビーノはミシェル・ブリート。どこかで聞いたことがある名前なのだけど・・・うーむ思い出せない(笑)。メゾらしい実の詰まった声と幅広い表現力で、美少年ケルビーノを生き生きとかつしなやかに歌い演じていました。またどこかで聞いてみたい人ですね。彼女、メイクのせいなのか前回のツィートコワと見た目のイメージが変わらないですね。
伯爵夫人はエミリー・マギー。ちょっと歌いまわしに固さが見えるところもありましたが、役柄の想定する年齢に相応しい若々しいイメージの伯爵夫人を好演していました。
アルマヴィーヴァ伯爵はベテランのヴォルフガング・ブレンデル。柔らかい声が魅力的ですが、歌のスタイルが他の出演者と比較するとやや古風かも。音程や歌い口に甘さが感じられたのがやや残念。プレミエの時のように生きの良い若手のキャスティングでも良かったのでは・・・。
マルチェリーナは竹本節子。深みと艶を兼ね備えた美声とコミカルな味付けを両立した好演。個人的には、暖かなお母さん役やマーラー、そして宗教曲に持ち味を発揮する人と思っていましたが、こういうコミカルな役にも適性があるんだなあと。新たな発見をさせてくれました。
バルトロは妻屋秀和。このひとも明るく張りがあって声量充分の声が魅力。コミカルさとどこかぼけた味は面白いですね。なにをやってもコミカルに感じてしまうのは、背が高い故それとも・・・。
他の役ではプレミエでもバルバリーナを歌った中村恵理が今回も好演。もう少し先かもしれませんが、彼女のスザンナを聞いてみたいですね。
重唱のアンサンブルも生き生きとしていていました。特に、第1幕のスザンナ、マルチェリーナそしてバルトロの三重唱はコミカルな演技とあいまって面白さ満点でした。欲を言えば最後の美しいアンサンブルについては、もう少し美しいハーモニーを聞かせて欲しかったなと思います。
平井秀明指揮する東京フィルは、やや早めのテンポをベースにしてほど良くシェープされた音楽のフォルムが颯爽とした印象を与えます。オーケストラも美しい音色を奏でていました。アリアでは歌手に合わせ、アンサンブルではきちんと手綱を握った誠実な棒といえるでしょう。もう少し全体を引っ張るような感じがあっても良いと思いますが、演出の現代性にマッチした颯爽とした音楽作りが好ましい印象を与えていたと思います。新国立劇場合唱団もしなやかさが感じられる好演でした。
演出はアンドレアス・ホモキ。伯爵夫妻とフィガロ達の立場をフラットに見せて、笑いの中にルール崩壊(おおげさかな?)を印象付けるホモキの手腕はやっぱり見事だなと思います。
Comments
ミュンヘンのドルン演出、2001年の来日公演の時に上野で観ました。強烈な「白色」が印象に残っています。シンプルな音楽に過剰な虚飾はいらないなあとつくづく思います。
歌手それぞれのアリアだけでなく、アンサンブルも良くないと楽しめませんよね。その点でも良い上演でしたね。今後ともよろしくお願いします。