新国立劇場 コジ・ファン・トゥッテ ジャンス/エッティンガー/東響
新国立劇場のモーツァルトというと、ノヴォラツスキー体制の門出を飾ったホモキ演出のフィガロが記憶に新しいところ。今回のコジで新国立劇場としてダ・ポンテ三部作が揃うことになります。ということで、コジ・ファン・トゥッテを聴きに初台へ。
新国立劇場 2004-2005シーズン コジ・ファン・トゥッテテンポの良い演出と粒ぞろいの歌手達の生き生きとした歌と演技、エッティンガーの颯爽とした音楽作りと相まって後味の良く愉しめたコジの上演でした。
・ モーツァルト : コジ・ファン・トゥッテ 【全2幕】
フィオルディリージ : ヴェロニク・ジャンス ドラベッラ : ナンシー・ファビオラ・エッレラ デスピーナ : 中嶋彰子 フェルランド : グレゴリー・トゥレイ グリエルモ : ルドルフ・ローゼン ドン・アルフォンソ : ベルント・ヴァイクル
ダン・エッティンガー指揮&チェンバロ 東京交響楽団 (コンサートマスター:大谷康子) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : コルネリア・レプシュレーガー 美術/衣装 : ダヴィデ・ピッツィゴーニ
2005年3月27日 15:00 新国立劇場 オペラ劇場
フィオルディリージを歌ったのはヴェロニク・ジャンス。伸びの良さと芯の強さを併せ持った声に情感が良くのっていて素晴らしい限り。その芯の強さはお姉さん役にぴったり。特に、第2幕第2場でのアリアはグリエルモへの罪悪感を声にのせた素晴らしい歌唱でした。ここでの、東響の木管とホルンも見事で歌に華を添えていました。
ドラベッラはナンシー・ファビオラ・エッレラ。彼女は昨年7月にカルメンのタイトルロールを歌っていますが、その時よりもずっと良い印象。ちょっと味付けが濃いかもしれませんが、生き生きと歌っていてやんちゃな妹ドラベッラとして聞くと違和感がないですね。本来はもう少しロマンティックな役柄のほうが合うのかもしれません。
デスピーナは中嶋彰子。ちょっと表現が濃いかもしれないけど、やっぱりうまいですね彼女は。歌も演技も存在感充分で、彼女が舞台にいるだけで全体がピリッと締まる。フィガロのスザンナのように全体を牽引する役どころではありませんが、ピリッとしたスパイスになっています。変装した時の声色を変えた部分の歌の崩し方も実にうまいもんです。歌と演技両方で勝負できる人は強いですね。
フェルランドはヌッツォの代役として歌ったグレゴリー・トゥレイ。メトで活躍しているだけのことはあって、素直な声のヌッツォと比べると声の個性が感じられます。高い声(ファルセットに近いところ)でのピアニッシモのコントロールは抜群で、実に美しい声を聞かせてくれました。
グリエルモはルドルフ・ローゼン。彼は去年の道化師でシルヴィオを歌っていましたが、癖のない声で生き生きと歌っているのがいいですね。道化的なキャラクターを存分に発揮し、シルヴィオ役の時とは異なる一面を聞かせてくれました。
ドン・アルフォンソは昨年のファルスタッフのタイトルロールが記憶に新しいベルント・ヴァイクル。ちょっと音程が甘いかなあと思うところも無きにあらずですが、充実した声で要所をきちんと押えた歌と演技はさすがベテラン。いい味を出していたように思います。
あちこちにある重唱での歌手たちのアンサンブルもよく練れていましたし、美しいハーモニーを聞かせてくれました。
昨年のファルスタッフに続いて2度目の登場となるダン・エッティンガーはレチタティーボではチェンバロを弾きながらの指揮。序曲から東響から爽やかな音楽を引き出し、全体をテンポ良くまとめていました。がっちりとした東響の持ち味を生かしながら、しなやかでときに艶っぽさをも感じさせる音楽作りは好印象。レチタティーボのチェンバロもテンポの良さ、切れそして遊び心があっていいですね。トリスタンを思わせるところがあったのはドキッとしましたね。舞台上との呼吸がもっと合うと更に素晴らしかったと思います。東響はエッティンガーの要求に応えて美しいモーツァルトを奏でていました。特に、木管とホルンは抜群の出来栄えでした。また新国立劇場合唱団の合唱もしなやかさを感じさせる好演で、三澤洋史が指導するようになっていい方向に伸びているなあと思います。
演出はコルネリア・レプシュレーガー。シンプルな舞台装置と女性二人のパステルカラー調のカラフルな衣装が目を惹きます。序曲が始まったと同時に幕が開くとそこは装置が何もない白一色の世界。そこに黒い衣装をまとった男女が出てきてパントマイムをしていると、ほどなく両カップルとドン・アルフォンソが出てきて皆でこのオペラの内容暗示するような動き。こぎれいにまとめるのではなく、適度な雑味(笑い、色気、男気(?)、等々)を加えつつ生き生きとした演技を歌手たちに付けて聞き手を楽しませてくれました。第1幕冒頭で出てきた書斎風の舞台装置が、第2幕フィナーレでは本が無くなっていて枠にひびが入っていたのは意味深だったかも。最後にカップルとして見えるのはフィオルディリージとフェルランドだけというのも、「単純なハッピーエンドではないよ」という演出家の主張でしょうか。あと、舞台装置を黒子ならぬ白子が動かしていたのが面白かったなあ(笑)。
ホモキ演出のフィガロそして今回のコジとある意味モダンな演出に接すると、伝統的な演出だったドン・ジョヴァンニも新しい演出で見たいなあと・・・。
Comments
私も23日の公演を聴いてきました。
演出に歌手に演奏に、なかなか水準の高い公演でしたね。
エッティンガーはちょっと好き嫌いが分かれそうな気もしましたが、ロマン風味のモーツァルトも面白く聴けました。
>伝統的な演出だったドン・ジョヴァンニも新しい演出で見たい
同感です!是非お願いしたいですね。
コジ、良い好演でしたね。
エッティンガーのロマン風味、師匠ほど濃くないので私は好感を持ちました。ドン・ジョヴァンニの新演出、ノヴォさん考えているのかなあ・・・(前のはウィーンから持ってきたプロダクションでしたから微妙かもしれませんね)。