新国立劇場 セビリアの理髪師 R.ブラウン/M.カルッリ/東京フィル
今年の新国立劇場オペラ最終日は昨年10月にプレミエ上演されたE.ケップリンガー演出によるプロダクションの再演。今日はバルッチェッローナがロジーナを歌う新国立劇場のセビリアの理髪師を楽しみに3日連続で初台へ。
新国立劇場 2006/2007シーズン セビリアの理髪師1960年代のスペインを舞台にし、カラフルな色彩感と小ねたをそこらじゅうにちりばめたE.ケップリンガーの演出。そんなプロダクションに歌唱・演技共に大きな存在感を持つキャストが揃い、水を得た魚のように生き生きと泳ぎ回れば・・・、よっぽどのことがない限り面白くない筈がない(笑)。自由自在に歌い演じ当意即妙に絡む外国人歌手4人を中心に、充実かつ笑いの絶えない愉しい上演でした。
・ ロッシーニ : セビリアの理髪師 【全2幕】〈イタリア語語上演/字幕付〉
アルマヴィーヴァ伯爵 : ローレンス・ブラウンリー ロジーナ : ダニエラ・バルチェッローナ バルトロ : マウリツィオ・ムラーロ フィガロ : ラッセル・ブラウン ドン・バジリオ : 妻屋秀和 ベルタ : 与田朝子 フィオレッロ : 星野淳 隊長 : 木幡雅志 アンブロージオ : 古川和彦 公証人 : 藤沢敬
ミケーレ・カルッリ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:渡部基一) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
チェンバロ : 小埜寺美樹
演出 : ヨーゼフ・E.ケップリンガー 再演演出 : 田尾下哲
2006年12月10日 14:00 新国立劇場 オペラ劇場
まずはスイスイと舞台を泳ぎ回った外国人歌手4人から。アルマヴィーヴァ伯爵を歌ったのはローレンス・ブラウンリー。最初はやや大きなヴィブラートが気になったものの、声が温まるにつれてそれも解消して本領を存分に発揮。細めの良く通る声、細かい音もよく転がるし矢のように飛ぶ力強い高音もばっちり決まる。本当に高い歌唱スキルを持った優れた歌い手ですね。この人なら本プロダクションではカットされているフィナーレ前の大アリア、見事に歌いきってくれるのではないでしょうか。是非とも聞いてみたいものです。
アルマヴィーヴァ伯爵の恋人ロジーナを歌ったのはダニエラ・バルチェッローナ。この人の歌声を聴くのは2月のメゾ祭り(=バヤゼット)以来。十分な存在感を示す中低音の充実した歌声、そして気風の良い歌いぶりからくる思い切りの良い表現。滑らかな表現をするタイプの歌い手ではありませんが、男勝りの逞しい気風のよさがロジーナの大胆な一面を示しているよう。あと、彼女の笑顔と演技がとてもチャーミングでした(笑)。
街の何でも屋ことフィガロはラッセル・ブラウン。登場直後の「私は街の何でも屋」から飛ばしまくってたましたね(笑)。張りのある美声を振りまいた上に、切れ味抜群のスピード感と遊び心存分に発揮した歌唱は実に愉しい限り。当然、演技も生き生きとしていて生彩に富んだフィガロを歌ってくれました。
バルトロを歌ったのはマウリツィオ・ムラーロ。この人の歌声を聞くのは昨年4月の新国立劇場「フィガロ」以来、今回で4度目。前述の3人ほど切れがあるわけではありませんが、丸みのある美声とコミカルな歌と演技はバルトロにぴったり。時折裏声を使ってみたり、日本語を交えたりして余裕綽々の歌と演技を披露してくれました。
この4人以外でもバジリオを歌った妻屋秀和もいつもながらの張りのある声を聞かせ、意外とコミカルな面も楽しませてくれました。もう少し声と演技の表情に明るさがあるともっと良かったかも。ベルタを歌った与田朝子も安定した出来栄え。唯一のアリアはもう少し軽さがあると更に良かったかなあ。
東京フィルと共にピットに陣取り全体を統率したのは、故シノーポリのアシスタントをしていた経験のあるミケーレ・カルッリ。歌い手達を上手に泳がせつつ、しっかりと手綱は手元に握った棒で全体をまとめていました。ロッシーニらしい軽さと繊細さ、時には存在感のある歌手に伍したシンフォニックな力強さと的確に歌手をサポートしていたように聴きました。派手さはありませんが、しっかりとした自力を持っているマエストロではないでしょうか。東京フィルもそんなマエストロの棒に良く応えていたように思います。
新国立劇場合唱団の男声合唱も、舞台裏からの第一声から安定したハーモニーと力強い歌声を聞かせてくれました。新国立劇場合唱団はここのところ本当に充実していますね。声とハーモニー安定感は抜群ですし、場面に応じた表現力も実に豊かになってきています。
このE.ケップリンガーのプロダクション、昨年は図抜けた人はいないけど出演者みんな一緒に作り上げた好感の持てる上演でした。今回は細かいところで歌手達の工夫やアドリブをより盛り込んでいたのではないでしょうか。存在感の大きな外人4人組の活躍もあって、更に面白さがパワーアップしていたように思います。次回の再演ではまた違うキャストになるとは思いますが、その組み合わせの妙を味あわせてくれることを期待します。
カーテンコールでバルトロを歌ったムラーロが再演演出の田尾下哲を舞台上に呼んでましたね。また、一度だけですがキャスト皆で出てきたときに舞台監督の斉藤美穂が一緒に拍手を受けていました。千秋楽だったからしれませんが、なかなかいい光景だったと思いました。
Comments
最近の新国では再演のカーテンコールで指揮者と歌い手以外が出てくることはなかった(と思う)ので、なんだか新鮮に感じました。