ウィーン国立歌劇場 フィガロの結婚 バンクル/小澤
だれが考えたのか「これは日本音楽史上の一大事件だ!小澤征爾凱旋帰国!」「我らがマエストロを応援しよう!」なんてキャッチコピーがちらしに踊ったウィーン国立歌劇場来日公演。台風近づくなか「フィガロの結婚」の初日を聴きにNHKホールへ。
ウィーン国立歌劇場2004年来日公演 フィガロの結婚念のため少し早めに家を出てすんなりとホールへ入ると、フィガロ役に予定されていたフランツ・ハヴラタが風邪による音声障害によりキャンセルでヴォルフガング・バンクルへ変更との掲示。
モーツァルト : フィガロの結婚
アルマヴィーヴァ伯爵 : サイモン・キーンリサイド 伯爵夫人 : ソイレ・イソコスキ スザンナ : イルディコ・ライモンディ フィガロ : ヴォルフガング・バンクル ケルビーノ : アンゲリカ・キルヒシュラーガー マルチェリーナ : ステラ・グリゴリアン バジリオ : ミヒャエル・ロイダー ドン・クルーツィオ : ペーター・イェロシッツ バルトロ : マウリツィオ・ムラーロ アントニオ : マルクス・ペルツ バルバリーナ : イレアナ・トンカ 花の娘 : エリザ・マリアン
小澤征爾指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 (コンサートマスター:ライナー・キュッヒル) ウィーン国立歌劇場合唱団 (合唱監督:マルコ・オズビック)
演出/美術 : ジャン=ピエール・ポネル
2004年10月9日 13:00 NHKホール
安心して見ることの出来るオーソドックスな演出、主役から端役までよく粒の揃ったキャスト、美しいオーケストラの音色と細かいことは別にしても安心して楽しめる上演だったのではないでしょうか。
フィガロのバンクルはあまり賢くなさそうな(笑)明るく伸び伸びとした役作り。やや歌いまわしにいやらしさを感じるところもありましたが、ハヴラタの代役を見事に果たしていたのでは。逆にライモンディは賢くて気の強そうなスザンナ像。落ち着いた音色と的確な歌いぶりが好印象でした。アルマヴィーヴァ伯爵のキーンリサイドはスタイリッシュな歌唱で、伯爵としては格好良すぎるかも。容姿のせいもありますがフィガロよりも年下に見えるのはなんとも。伯爵夫人のイソコスキも落ち着いた歌唱で安心して聞けました、ただ貫禄みたいなものはこれからでしょうか。ケルビーノのキルヒシュラーガーはやや男性よりに振った役柄像。実にきりっとした歌いぶりと演技で楽しませてくれました。ケルビーノにしては格好良すぎるかもしれませんが・・・。他の役も各人のキャラクターを良く生かした歌と演技でした。特にあげるとすれば、マルチェリーナのグリゴリアンでしょうか。マルチェリーナは結構滑らかでない声質の人がキャスティングされることが多いのですが、このグレゴリアンは実に滑らかな声と深い音色で耳をひきつけてくれました。主役級を充分張れる人材と思います。
小澤征爾指揮するオーケストラは全体的にはまずまずといったところでしょうか。オーケストラは美しい音色で音楽を奏でていましたし、歌手を覆ってしまわない小澤の歌手に対する音量の配慮もされていました。ただその反面音量を抑えすぎて、音楽の生き生きとした表情と前え進む推進力が失われがちだったのは残念。また、フィナーレ前の重唱(伯爵の"Contessa"で始まるところ)をはじめとする数箇所で思い切ってテンポを落としていましたが、ちょっとやりすぎの感あり。音楽の流れが停滞してしまって、前へ流れていかないのはどうかなあと。歌手との掛け合い的にオーケストラが入るところも、呼吸が微妙に合わないのもやや残念かなと(初日だし次回以降の公演では改善されるかな)。小澤にしてはコントロールしていないほうだとは思うのですが、それでももっと歌手やオケに任せても良かったのではないかと思います。
今は亡きポネルの演出はオーソドックスで安心して見ていられます。でも歌手に強烈な個性がまだあった時代の演出なのかなあと。今の時代に即しているかというと違うかもしれません。今日のキャストの皆さん(但し、フィガロのバンクルを除く)皆細身でスタイルがよろしいのもそういう風に感じる原因のひとつかもしれませんが・・・。
最後にひとこと。やっぱりフィガロをNHKホールでやるのは無理がありますね。ヴェルディやプッチーニならまだしも、作品にあった箱を用意してほしいなと切に願います。
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