小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト ラ・ボエーム
小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト V
プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」
ミミ:ノラ・アンセレム
ロドルフォ:ロベルト・サッカ
マルチェッロ:マリウス・キーチェン
ムゼッタ:アンナ・ネトレプコ
ショナール:ネイサン・バーグ
コルリーネ:ハオ・ジャン・ティアン
ベノア、アルチンドロ:ポール・プリシュカ
パルピニョール:鳴海優一
小澤征爾指揮 小澤征爾音楽塾オーケストラ 小澤征爾音楽塾合唱団 杉並児童合唱団
コンサート・マスター:矢部達哉
演出:ロバート・カーセン
プロダクション:フランダース・オペラ(1993年)
2004年4月29日 15:00 神奈川県民ホール 大ホール
生きのいい歌手達、パワーと繊細さを兼ね備えた若者主体のオケ、そしてカーセンのシンプルな手法をとりつつ深い印象を与えてくれる演出。それらがいいバランスで調和したいい上演でした。
幕があがると一面真っ白のだだっ広い空間、その中央にボヘミアン達の部屋が床を黒くしただけで囲いも無く最小限の道具(ベッド/ピアノ/ストーブ/机)とともにかなり狭く表現。部屋への出入りは屋根裏部屋のような床から、またストーブの煙突は舞台上部まで伸びています。この狭い部屋(私が見たことのあるプロダクションのなかでも一番狭い、狭さ=ある種の閉塞感でしょうか?)の中でドラマが進行していきます。
まずはマルチェッロのキーチェンがいいですね。声に張りがあるし、高い声もまるでテナーのような音色をもっている。1幕だけでいえばロドルフォのサッカを完全に食っていたかも。ミミのアンセレムも可憐な感じが出ていてミミの役柄に良く合っています。ロドルフォのサッカは表現的にはいいのですが、もうすこし声の伸びが欲しいかなあと。
1幕最後のミミとロドルフォの2重唱が決まった後、直ぐに2幕へ。白い空間が丸ごとカフェ・モミュスになって、横から、床下から、そして煙突からも人がうじゃうじゃ。この転換のアイデアは意表をつかれました。1幕で真っ白に見えていたのは白い紙。みんながどたばたしている間にぼろぼろととれてきて、なんだか雑然とした雰囲気が出てくる。
昨年、マリインスキーの来日公演で聞ける予定だった(そのときは体調不良でキャンセルでした)ネトレプコがムゼッタで登場。最初は声がいまいち飛んでないなあと思いましたが、自分に脚光を浴びるにつれて調子が出てきた様子。低い声の音色が印象的、セクシーな味付けの演技もなかなかのものです。今日聞いた限りではイタリア語の処理が課題かもしれません。今度は別の役で聞いてみたいですね。
3幕は床は黒一色。マルチェッロ他3人のいる家は1幕での部屋のところに天井まで黒いかべ囲われていて、一箇所ある窓から明かりが漏れている。あえて(だと思いますが)雪の表現はありません。ミミの孤独な心情の象徴でしょうか。
ここでのアンセレムの歌唱が見事でした。マルチェッロと話をしている時の気丈さ、ロドルフォが外に出てきてからの可憐さ、これがよく表現できていました。
終幕、再び1幕と同じ囲いの無い部屋に戻ってきます。今度は部屋の外は黄色い花(希望の象徴でしょうか?)で埋め尽くされています。部屋の中はベッドはなく布団(日本風?)、机、ストーブの3点。
ムゼッタが「ミミが・・・」と部屋に入ってくるところからのオケの表情がとても濃くなってきて、ここから終わりまではとても素晴らしい出来。アンセレムもピアニッシモ方向の表現が素晴らしく心に染みてきます。サッカも調子を上げてきてミミ他の役に遜色のない出来。
プッチーニのとてもシンプルだけど効果的な「ミミの死」を示した音(1幕のミミとロドルフォが手を触れ合うところもそう)。ミミの死を知ったロドルフォの「ミミ!」と叫んだあと、他の4人がはじめて部屋の外へ足を踏み入れて四方へ歩み出します。単なるミミの死を悲しいとして終わるのではなく、ボヘミアン達のこれからの生き方(一人で前向きに)を示した演出はとても印象深いものでした。
いままで触れていない歌手では、コルリーネのジャン・ティアンはなかなか素性の良さそうな歌手で今後が期待できると思います。
あと一人触れておきたいのは、サイトウキネンでもおなじみのティンパニのファース。要所要所で素晴らしい演奏を聞かせてくれました。彼がいなかったら4幕の素晴らしい演奏はなかったかもしれません。
今日は初日ですが、ちょっと固さやしっくりいかないところも無かったとはいえませんが、公演を重ねるたびによりしっくりと自在になっていくことを期待します。
でも、小澤が日本でやるこの音楽塾やサイトウキネンで借りてくるプロダクションは良いものが多いですね。いい目利き役がいるのでしょうか?そういえば、サイトウキネンでのイエヌーファもカーセンの演出でした。舞台上に余計なものを置かないやりかたに共通点があるように感じました。
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