新国立劇場 神々の黄昏
新国立劇場オペラ 2003/2004シーズン
ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」
ジークフリート:クリスチャン・フランツ
ブリュンヒルデ:スーザン・ブロック
アルベリヒ:オスカー・ヒッレブラント
グンター:ローマン・トレーケル
ハーゲン:長谷川顯
グートルーネ:蔵野蘭子
ヴァルトラウテ:藤村実穂子
ヴォークリンデ:平井香織
ヴェルグンデ:白土里香
フロスヒルデ:大林智子
第一のノルン:中杉知子
第二のノルン:小山由美
第三のノルン:緑川まり
準・メルクル指揮 NHK交響楽団
合唱指揮 :三澤洋史
合唱 :新国立劇場合唱団 二期会合唱団
演出:キース・ウォーナー
2004年4月4日 14:00 新国立劇場 オペラ劇場
ラインの黄金から1年1演目ずつ上演されてきたトーキョーリング。私も初回から鑑賞してきましたが、こんなに面白い上演は滅多に見れるものではありません(特に日本にいる限り)。今回はチケット取りにも苦労したこともあり(友人に感謝)、期待して寒空のなか初台へ。
今日の上演、まずはスーザン・ブロックのブリュンヒルデでしょう。第1幕の初々しさが残るリリカルな歌唱と演技から幕を追う毎にリリカルな美声はそのままに表現に凄みを増してきます。第2幕のジークフリートに裏切られたことを知った後の心の動き、最後の自己犠牲も感情のこもった歌唱は本当に見事でした。強靭な声で叫ぶタイプではなく、新妻の初々しさを残しつつ心の変化を決めこまやかに表現していました。メルクルの歌手とのバランスを絶妙にとった指揮とあいまって素晴らしい歌唱と演技(役になりきった表情!)でした。
1幕の本当にワンポイントでしか出てこないヴァルトラウテを歌ったのは藤村美穂子。もう彼女が出てきて第一声を発しただけで舞台の空気が変わりました。深みのある声と表現力そして演技力、どれをとって一級品。世界でひっぱだこなのは当然です。彼女の登場場面以降舞台が締まりましたね。本当に。
グートルーネを歌った蔵野蘭子も素晴らしい出来。ことによるとハーゲンとグンターよりも存在感を示していたのは彼女かもしれない。
ジークフリートはクリスティアン・フランツ。全体的な出来は前回のジークフリートでの同役の方が良かったようなきがしないでもない。でも、いつもの強靭な声(ややぶよっとした感触はありますが)と繊細な表現で若きジークフリートを見事に演じておりました。
ハーゲンは長谷川顯。昨年東京シティフィルでも同じ役を歌っていましたが、安定感を増していました。淡々としたニュートラルなハーゲン像を示していました。もう少しやなやつ振りを発揮してもいいかなあとも思わないでもありませんでしたが、見事な歌唱でした。
グンターはローマン・トレーケル。ニュートラルで素直な声で、貴公子的なイメージのグンターを好演。ハーゲンにある意味振りまわされる役柄ですし、白い衣装もそんなイメージとマッチしていました。
アルベリヒのオスカー・ヒッレブラントも登場時間が短いのが残念ですが、存在感を充分示していました。
他の女声歌手達も良いアンサンブルで良かったと思います。なんたってブリュンヒルデを持役にしている緑川まりがキャスティングされてるんですもの悪かろう筈がないというもの。合唱も特に2幕での演奏は充分な迫力のあるものでした。
メルクル指揮のNHK響は弦を中心に非常に美しい音楽をつむぎ出していましたし、ここぞというところでの迫力あるサウンドも素晴らしかったと思います。メルクルは歌手とのバランスを取るのが非常に上手ですし、非常に見とおしの良い音楽作りがとても印象的でした。N響きも今後の予定は発表されてませんが、また新国のピットに機会があれば入ってほしいものです。
キース・ウォーナーの演出は見た目のポップさと実際の歌手達への演技の正当さは前三部昨と変わらないものでした。黄昏はいままでの総まとめてきなところもあり、特にびっくりするような仕掛けはありませんでした(見る側が鳴れたのかもしれません)。今までの演目で出てきたいろいろなパーツの謎がある程度(全部ではないのが一回見ただけでは厳しいところ)わかったような気がします。
演出で印象的だったところをいくつか。
・ジークフリートでは「S」のTシャツを着ていたジークフリートが今回は「B」。「S」を着ていたのは「B」のブリュンヒルデ。つまりそういう深い関係になったということ。これでジークフリートの裏切りが一層際立つ。
・馬(グラーネ)やベッドのサイズの変化(特大→普通or極小化)
・ブリュンヒルデを迎えに行くところ、本来登場しないはずのハーゲンが舞台手前にじっとしたまま座っている。首謀者としての存在感を示したかったのでしょうか。
・ブリュンヒルデを家ごと連れてきてしまう・・・(そこまでやるか(笑))。
・瀕死のアルベリヒ(酸素マスクを付けて状況を強調していたのと、ハーゲンが殺す手段としての酸素ボンベの活用)
・ジークフリートの葬送行進曲でのジークフリートが舞台再奥部にたたずんでいるブリュンヒルデを求めて、最後の力を振り絞って移動する場面は感動的。その後、寸前で息絶えてしまい、前方へ歩いてきたのは実はグートルーネだったという一種のトリック。
・最後、ジグソーパズルの最後の一枚(指輪)がはまったあとの映写機と現代人の場面。これで終わりじゃなく、まだこれから始まるんだよ・・・、という感じでしょうか。
なんていろいろ考えさせること自体が、ウォーナーの策なんでしょうね多分(笑)。
日本製作のオペラでこんなに刺激的で内容のあるリングの上演を全部見れただけでも幸せですが、是非ツィクルス上演を望みたいものです(いろんな意味で大変でしょうが・・・、無理でしょうかノヴォさん?)。
なお、本エントリーは後日追記&修正の可能性有り(とても短時間じゃ書き切れせん)なので気が向いたら何度か訪問していただくと内容が変わっているかもしれません(笑)。
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