新国立劇場 ニュルンベルクのマイスタージンガー P.ウェーバー/レック/東フィル
2005年秋冬ワーグナー三昧シリーズの一本目。新国立劇場2005/2006シーズンのオープニングに取り上げられたのはマイスタージンガー。新国立劇場ではトーキョーリングの黄昏以来となるワーグナー作品の上演。josquinにとって2002年の二期会公演以来、この作品に生で接するのは2度目となります。休憩を入れて6時間の喜劇を楽しみに初台へ。
新国立劇場 2005/2006シーズン ニュルンベルクのマイスタージンガー第1幕の前奏曲から速めのテンポながら旋律を良く歌わせ、明るい艶のある音色と各声部の動きがくっきりと見渡せる見通しの良さ、そして生き生きとした生命力と求心力を感じさせます。シュテファン・アントン・レック指揮する東フィルのそんな魅力的な音楽作りが、まずはとっても印象的。幕が上がっても、そんな特徴はいささかも変わらずに生き生きとした音楽が停滞しないんですね。第1幕の約90分が文字通り「あっ」という間に過ぎていく。眠気に襲われている暇は有りません(笑)。第2幕以降も引き締まった音楽作りは変わらずに、歌手達にも適度なテンションを与えながら個性を発揮させ、全体をきりっとまとめていく手腕は見事なもの。第3幕の前奏曲では一転して深い情感を湛えた音楽を聞かせてくれました(この部分の東フィルの弦と金管は特に素晴らしかった)。ヨハネ祭のダイナミックで華やかな雰囲気も格別の味わい。幕切れの最後の少し前、ややテンポを落として歌わせたピアニッシモの美しさは格別。そこから最後の大団円へ持っていくやり方は本当に心憎い限り。レックは2月に「ルル」で新国立劇場に登場したときはいろいろあって(笑)、残念ながらその実力が充分に発揮できたとは言えないところがあったのですが、今日は2003年4月にグルベローヴァのノルマで聞かせてくれた実力を遺憾なく発揮していました。東フィルも第3幕の細かい部分ではほんの少し疲れが見えましたが、瑞々しい弦楽を中心に木管や金管もピアニッシモからフォルティッシモまで、終始美しいサウンドと終始安定したパフォーマンスでレックの要求に見事に応えていました。
・ R.ワーグナー : ニュルンベルクのマイスタージンガー 【楽劇・全3幕】(ドイツ語上演/字幕付)
ハンス・ザックス : ペーター・ウェーバー ファイト・ポーグナー : ハンス・チャマー クンツ・フォーゲルゲザング : 大野光彦 コンラート・ナハティガル : 峰茂樹 ジクストゥス・ベックメッサー : マーティン・ガントナー フリッツ・コートナー : 米谷毅彦 バルタザール・ツォルン : 成田勝美 ウルリヒ・アイスリンガー : 望月哲也 アウグスティン・モーザー : 高橋淳 ヘルマン・オルテル : 長谷川顯 ハンス・シュヴァルツ : 晴雅彦 ハンス・フォルツ : 大澤建 ヴァルター・フォン・シュトルツィング : リチャード・ブルナー ダーヴィット : 吉田浩之 エーファ : アニヤ・ハルテロス マグダレーネ : 小山由美 夜警 : 志村文彦
シュテファン・アントン・レック指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:平澤仁) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : ベルント・ヴァイクル
2005年9月23日 14:00 新国立劇場 オペラ劇場
そして、三澤洋史の指導する新国立劇場合唱団も素晴らしい限り。第1幕冒頭ではややピッチに不安定感が残りましたが、それ以外は終始透明感のある声とハーモニー、そして多彩な表現力で見事な合唱を聞かせてくれました。レックの見通しの良い音楽作りとも良くマッチしていました。第3幕後半の迫力と美しさはもとより、第1幕や第2幕でダーフィットに絡む徒弟達の生き生きとした表現と演技も特筆しておきたいと思います。
演出はザックス歌いとして名高いベルント・ヴァイクル。ニュルンベルクの町並みをあしらった明るい色調の舞台装置と陽光を自然に現した照明。マイスター達の黒と民衆の暖色系を中心にした落ち着いた色彩の衣装もオーソドックスなもの。ヴァイクルは意図的なデフォルメ、読み替え、そして政治的主張等々をせずに、作品のあらわす世界を一切の膨張なくシンプルに描くことに徹していました。隅々まできめ細やかな神経の行き届いた演技付けで、人物それぞれを等身大に描くことに成功していました。スタンダードとして長く上演してほしい素晴らしい演出だったと思います。
タイトルロールのハンス・ザックスは今回のプロダクションがロールデビューとなるペーター・ウェーバー。第1幕ではやや生彩に欠けたところも無きにしも非ず。第2幕以降は持ち味を充分に発揮。柔らかく滑らかな美声を生かし、飄々としていながらも常に暖かな眼差しで若者を見守るザックスを見事に歌い演じていました。今後この役を歌い重ねていけばもっと素晴らしいザックスを聞かせてくれるでしょう。
ファイト・ポーグナーは5月のフィデリオにロッコ役で出演していたハンス・チャマー。深々とした声が醸し出す堂々とした風格と威厳は素晴らしい限り。第1幕後半を締まった印象にしていたのは明らかにチャマーのお陰だと思います。
ジクストゥス・ベックメッサーはマーティン・ガントナー。時代に乗り遅れた独身頑固親父を見事に歌い演じていました。表現力豊かでキャラクター性抜群の歌と卓抜した演技力は素晴らしい限り。
ヴァルター・フォン・シュトルツィングはトルステン・ケールの代役となったリチャード・ブルナー。高い声の安定性と歌合戦の場面で少し声の疲れが見えたかなあ。しかしながら、騎士ヴァルターの成長を的確な表現で歌い演じた好演でした。
ダーヴィットは吉田浩之。この人は相変わらず良く通るくっきりとした声で安定した歌唱をいつも聞かせてくれます。第1幕のヴァルターに歌規則を教えるところの大活躍振りは頼もしい限り。今回のプロダクションだけでなく、今後もこの役での経験を積む機会があることを希望します。
エーファはアニヤ・ハルテロス。スマートな舞台姿に似合わず、力強さと豊かな声量を持っていますね彼女。可憐な可愛さだけでなく、芯の強いしっかりとしたイメージのエーファを好演していました。
マグダレーネは小山由美。ちょっとキャラクターが違うかなあと思わなくもないですが、この人の存在感はいつも素晴らしいですね。コミカルなキャラクターを良くこなしていたと思います。
その他ソロで目立つ役柄を歌った、フリッツ・コートナーの米谷毅彦と夜警の志村文彦は一層の安定感が欲しいところ。また、アウグスティン・モーザーの高橋淳はこの人の演技は(こちらが注目しているせいもあるかもしれませんが)やっぱり目立ちますねえ(笑)。
今日のマイスタージンガー、新国立劇場オペラのシーズン・オープニングを飾るプロダクションに相応しい素晴らしい上演だったと思います。もうひとつのマイスタージンガーとの聞き比べも非常に楽しみ(笑)。でも、第2幕終了後の50分休憩の時に隣席で一緒に楽しんでいた友人に「(このプロダクション)もう一度聞きたいなあ・・・(爆)」と思わず口走ってしまったjosquinなのでした。
Comments
ホントですよね。
歌手陣もみんな相当に素晴らしかったのですが、
Honey的には、特に、ポーグナーとダーウィットをやった、
チャマーさんと、吉田さんの声にしびれました〜!
次のバイエルン版は、もっと現代的な演出なのでしたっけ。
そちらのレポートも、楽しみにしております。
o(^0^)o
バイエルンのマイスタージンガーは、写真等を見ると時代を現代に設定したもののようです。
こんばんは。
コメントいただきありがとうございました。
第3幕良かったですよね。ザックスのモノローグ以降はずっとうるうるで、何か自分と置き換えて観ていました。
今回は新国立劇場に感謝です。
6時間という長さを感じさせない程、素晴らしい上演でしたね。第1幕が終わった時点で今日はいけるなあと思いましたから・・・。
レックはこの公演の立役者の一人ですよね。私が聞いた日にも彼に対してブーが出ていましたが、私はもちろんブラボー側に立ちます(笑)。バイエルンのマイスタージンガー私は最終日に楽しむ予定です。
最終日はこの日に増してアントン・レックが集中力を
発揮してソリスト、合唱共々さらに熱気溢れる舞台に
なってました。馴れないんで出来るかわかりませんがトラックバックさせて貰いますね。宜しくお願いします。
TBとコメントありがとうございます。
最終日は更に良かったようですね、やっぱり2度聞くべきだったかなあ・・・(笑)。