新国立劇場 蝶々夫人 大村博美/パルンボ/東フィル
新国立劇場の蝶々夫人は既に栗山昌良演出のプロダクションが上演されています(98年4月と99年12月)。今回は演劇部門監督の栗山民也による新演出上演。新国立劇場オペラ、今シーズン最後の演目を聴きに初台へ。
新国立劇場 2004/2005シーズン 蝶々夫人まずはタイトルロールの蝶々夫人を歌った大村博美が素晴らしい出来栄え。昨年のカルメンでもミカエラで素晴らしい歌唱を聞かせてくれた彼女。高音に至るまで音色の変わらない落ち着いた声と声量の豊かさ、繊細さと力強さを感じさせる豊かな表現力。そして、秀逸な演技力と相まって、芯の強い女性としての蝶々さんを見事に表現していました。第2幕「ある晴れた日に」では蝶々さんの思いを劇的に表現していましたし、(アメリカの)裁判官とのやりとりの独り芝居も実に見事、リンカーン号を見つけるくだりもその喜びが手に取るように伝わってきます。そして、フィナーレも効果的な照明も相まって素晴らしい歌唱と演技でした。カーテンコールで一番の拍手を受けていたのも納得。
・ G.プッチーニ : 蝶々夫人【全2幕】 (イタリア語上演/字幕付)
蝶々夫人 : 大村博美 ピンカートン : ヒュー・スミス シャープレス : クラウディオ・オテッリ スズキ : 中杉知子 ゴロー : 大野光彦 ボンゾ : 志村文彦 神官 : 大森一英 ヤマドリ : 工藤博 ケート : 前田祐佳 書記 : 柴田啓介
レナート・パルンボ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:三浦章広) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : 栗山民也
2005年7月3日 15:00 新国立劇場 オペラ劇場
ピンカートンはアメリカ生まれのヒュー・スミス。昨年のカルメンにもホセで出演していましたが、ピンカートンのほうが良く合いますね。イタリアンテノールみたにスカーンと声が抜けるわけではないのですが、リリックな持ち味がとても生きていました。声量も充分ですし、高音の決め所も決めてくれる。キャラクター的に頼りなげな優男ではなく、少しヤンキーっぽいところが感じられるのがアメリカ人らしいところ!?。第1幕後半の蝶々さんとの甘美な二重唱がとてもよかったと思います。
シャープレスは今年2月のルルでシェーン博士/切り裂きジャックで出演していたウィーン出身のクラウディオ・オテッリ。辛口でスタイリッシュな歌い口で実に巧い。イタリアンな味を望むと裏切られますが、こういう辛口のシャープレスもいいですね。ピンカートンに対して楔となる役柄が巧みに表現されていたように思います。
スズキを歌った中杉知子はもう少し声に艶があると良いかなと思いますが、充分な存在感を示していました。歌詞の中の日本語の捌き方が巧くなるといいですね。ゴローの大野光彦も安定感のある歌唱を披露してくれました。
指揮はイタリア出身のレナート・パルンボ。東フィルから弦を中心に厚めのサウンドを引き出した上で、スケール感と繊細さを両立。甘美な旋律は繊細に、動きのあるところは生き生きと、ダイナミックなところはもちろんダイナミックに。叙情一辺倒にならないメリハリをつけるのがうまいですね。歌手の歌を決して邪魔せず、個性を生かしながらこの作品の様々な要素を提示してくれたように思います。東フィルもパルンボの意図を生かし、良好なアンサンブルで繊細かつシンフォニックなプッチーニサウンドを実現していました。また、合唱も女声を中心に繊細な表現が見事でした。本当に上手くなってきていますよ新国合唱団。
演出は新国立劇場演劇部門の監督でもある栗山民也。衣装は日本人役は落ち着いた色の着物、外人役は洋装といたってオーソドックスなもの。を舞台装置は大きいながらも非常にシンプルなもの。大きな洋風の階段が舞台左手から中央上方奥に向って配置され、その頂上には星条旗がはためきます。殆どの登場人物はここから出入りしていました。右手には2人の新居が障子をイメージした戸と共に象徴的に示されています。舞台装置はクリーム色を基調とし、第1幕では枯葉を第2幕ではピンクの花びらが散らされています。蝶々さんが階段を「下りてくる」のと散らされた「枯葉」の組み合わせは実に象徴的でした。栗山民也は細かいところまで神経の通った動きを歌い手に与えて、役柄のキャラクターを無理なく浮かび上がらせていました。蝶々さんはもとより、ピンカートンやシャープレスのキャラクターも明確に描かれていましたし、スズキも充分な存在感を与えていたように感じました。照明の使い方が実に見事で情景と心象をよく表していました。特に、蝶々さんが自害する場面、子供がアメリカ国旗をまとった人形(ピンカートンの象徴でしょうか)をもって出てきて蝶々さんがこと切れる時の「強烈な白」の使い方がとても印象的でした。
今日の上演、蝶々夫人が日本を題材にした(アメリカ人が登場する)イタリアオペラなんだなと再認識できました。日本にも傾きすぎていないし、イタリアに傾きすぎてもいないし、さりとてアメリカに傾きすぎてもない。恐らく椿姫に次いで耳タコな作品を改めて新鮮に聞くことができました。
何故か今日は甘美なメロディーを聞くたびに、ラ・ボエームの甘美なメロディーが頭に浮かんで仕方ありませんでした(笑)。2人の世界を描くのに違いはないということなのでしょうか・・・(爆)。
今シーズンの新国立劇場オペラ公演は高校生公演はありますが、この蝶々夫人が最後の演目。来シーズンはマイスタージンガーで幕開けとなります。ミュンヘンオペラ来日公演と演目が重なっていたりしますが、充実した上演を期待したいものです。
Comments
7日と9日はバレエだし、寝不足だし・・・。
NHKにかけよう!(苦笑)
NHKさんは、危険な賭けかも(日曜日にはカメラは入っていませんでした、笑)。
思わず次のシーズンのスケジュール、
今から、確認しちゃいました。(^v^)