ヘレヴェッヘ/フランダース・フィル ベートーヴェン交響曲全曲連続演奏会V
昨日の金聖響/都響の第九に続いて、年末でもないのに第九が二日続けて聞けるのは珍しい。ヘレヴェッヘ/フランダース・フィルのベートーヴェン・ツィクルス最終日、今日も第九を聞きに錦糸町へ。
フィリップ・ヘレヴェッヘ ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団今日のオーケストラは合唱が舞台奥に並ぶ関係で、コントラバスが左側に置かれたヴァイオリン両翼配置。ティンパニが右側で独唱者はその前(ヴィオラの後方)で歌っていました。トランペットも今まで同様のナチュラルタイプを使用していました。
ベートーヴェン交響曲全曲連続演奏会 V
・ ベートーヴェン : 交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」[ベーレンライター版]
ソプラノ : アンナ・コロンディ アルト : マリアンネ=ベアーテ・キールラント テノール : アンドレアス・ヴェラー バリトン : トーマス・バウアー
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮 ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団 (コンサートマスター:アレクセイ・バルケヴィッチ) 栗友会合唱団 (合唱指揮:栗山文昭)
2005年6月12日 15:00 すみだトリフォニーホール 大ホール
水曜日、金曜日そして今日とオーケストラがホールに慣れていく過程が明確に表れたのは興味深い。水曜日と金曜日の湿り気の違いによるサウンドの変化かなりのものでした。でも、今日は輪を掛けるように水分が抜けていて、しゃきっとしたサウンドがホールに響き渡っていました。水曜日と今日を比べたら別のオーケストラと言っても良いかもしれない(笑)。
金曜日の運命にもその萌芽は見えていてのですが、第1楽章から良く鳴りわたるオーケストラが凄まじいエネルギーを放出。ヘレヴェッヘってこんなアグレッシブな演奏するんだ(笑)。速いテンポで委細構わずにばったばったとなぎ倒していくよう。どのパートもとってもその踏み込みの良さは抜群で金曜日のような勇み足もほとんどない。18世紀オケの結成当時みたいな凄まじいエネルギー。金管はバリバリいうし、弦の強奏の迫力は古楽器そのものの演奏を聴いているみたい。木管だっていままでとは違って生き生きと、一歩前で演奏しているよう。第2楽章もこれまた凄まじいスケルツォ。「おらいったれ」と指示する指揮者に呼応するティンパニの鉄槌の凄まじさ。トリオも超快速で木管陣が必死になって吹いている。いくら機能的な現代楽器といえども、多分ぎりぎりセーフのテンポ設定。ヘレヴェッヘはそのテンポから生まれてくるガチャガチャ感のようなものを出したいのでしょう。
第2楽章が終わってオーケストラはここでチューニング。演奏者も聴衆もようやく一息。
第3楽章もテンポ設定はかなり速めですが、親密さと安らぎに満ちた音楽。ノン・ヴィブラートを基本とした弦楽の木綿豆腐のような感触が実に心地良い。ホルンの難所は1番奏者(2番や5番で吹いていた男性奏者)が柔らかな音色で見事に演奏していました。
第4楽章は第3楽章で充電したエネルギーを再び噴出させます。語るようなフレージングを施しながら、ほぼインテンポで進むレティタティーボ。リフレインされる第1~3楽章のテーマも「これか、いやちがう!」と2人の対話みたい。チェロとコントラバスで始まる歓喜のメロディーも前へ前へと歌われていく。バリトンのトーマス・バウアーが張りがあって良く伸びる明るい声を生かした素晴らしい歌唱。ヘレヴェッヘのアプローチにも良く合っていました。あっさり目の"vor Gott!"の後、トルコ行進曲が一段と速くてやかましい(華やかって言うべきですかね、笑)。テノールのアンドレアス・ヴェラーはこのテンポによくついていっていたと思います(声量はもう少し欲しかったけど)。ソリスト4人の重唱もバラバラにならずに良好なアンサンブルを展開。栗友会合唱団は決して汚い声が聞こえてこなし、美しい良好なハーモニーが好印象。でも、今日のヘレヴェッヘとオーケストラに対抗するには、声の明瞭度とエネルギー感が不足気味。もう少し人数を増やして対応していたら良かったのかも。第九という曲に内在する力をまざまざと見せ、聞かせてくれた演奏でした。
ヘレヴェッヘのベートーヴェン・ツィクルス5回のうち3回聞くことが出来ましたが、今日の第九がやっぱり一番良かったように感じました。現地でのツィクルスを6/4に終えて来日し、6/6が日本での初日。いろいろと難しい面はあるとは思いますが、もう少し初日までの余裕があるとツィクルス前半の演奏に対する印象も違ったものになったのかもしれません。今日のすこぶる思い切りのよい演奏を聞くに付け、尚更そう思わずにはいられませんでした。
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