イゴール・チェツーエフ ピアニスト100 モーツァルト/ベートーヴェン/ラヴェル/ストラヴィンスキー
今日も先週の土曜日同様に手持ちチケットが無い状態なんですが、やっぱり何か聴きにいきたいなと(笑)。フェルメールSQは売り切れなので大友直人指揮の東響定期もいいかなあと思ったのですが、さいたま芸術劇場のピアニスト100に出向くことにしました。このシリーズ80人目のイゴール・チェツーエフを聴きに与野本町へ。
彩の国さいたま芸術劇場 ピアニスト100 81/100 イゴール・チェツーエフイゴール・チェツーエフは1980年ウクライナ生まれの若手ピアニスト。今日のプログラムは1月にこのシリーズで聞いたシュー・ツォンとコンセプトが似ています。熱情ソナタとペトルーシュカからの三章が共にプログラミングされているのが興味津々。
1. モーツァルト : ピアノ・ソナタ変ロ長調K.333 2. ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57「熱情」 休憩(20分) 3. ラヴェル : 夜のガスパール 4. ストラヴィンスキー : ペトルーシュカ より 3つの小品 アンコール 5. スクリャービン : 練習曲嬰ハ短調作品2-1 6. プロコフィエフ : ピアノ・ソナタ第2番ニ短調作品14 から 第2楽章 スケルツォ 7. J.S.バッハ(シロティ編) : コラール前奏曲ロ短調
ピアノ : イゴール・チェツーエフ
2005年4月23日 16:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
まずはモーツァルトのK.333のソナタ。冒頭から楽器が良く鳴っていて、粒立ちの良い明るい音が耳に聞こえてきます。もったいぶったところまったくなく、自然な流れの音楽が好印象。タッチと音色を的確にコントロールしながらしなやかに歌うモーツァルト。旋律が自然なイントネーションで歌われ、きちんとしたフォームに収斂していくフレージングに感心。第2楽章もその自然な歌とマイナー部分の陰影付けが音楽に深みを与えています。第3楽章もよく歌いながらも、かっちりとした構築感を付与した味付け。奇をてらったところのない素直な音楽性と自然な「歌」のセンスが光る好演でした。
2曲目はベートーヴェンの熱情ソナタ。この曲でもチェツーエフの奇をてらわない音楽作りは変わらず、実に正攻法で取り組んだベートーヴェン。モーツァルトよりは、やや凝縮されたサウンド。旋律というよりはモティーフの積み重ねのような第1楽章も、そこかしこに歌が感じられます。その歌と「運命の動機」との対比が実に明確に聞こえます。第2楽章は暖かい音色のハーモニーと自然な歌に溢れた素晴らしさ。第3楽章もこれ見よがしに弾かないチェツーエフ。右手が走句を巧みにこなしながらもやっぱり歌うんですね。強烈な二つの和音から始まるコーダの突進も、和音を響きとして聞かせてくれます。そして荒れ狂うような終結部も音として聞かせてくれました。全体のスケール感も充分で聞き応えがありながら誠実なベートーヴェンでした。
休憩の後は一気に100年ほど時代が飛んでラヴェルのガスパール。技術的には全く問題なく見事なピアニズムで弾くチェツーエフですが、ラヴェルにしてはややモノクローム的な演奏だったかも。ちょっと誠実すぎる感じがしないでもない。音の艶や遊びが欲しかったかもしれません。
プログラムの最後はストラヴィンスキーのペトルーシュカからの三章。冒頭から弦楽器の開放弦のような抜けの良いカラフルなサウンドが魅力的。勢いや鋭い切れ味よりもすべての音符を丁寧に音にした演奏だったと聴きました。楽器を良く鳴らし、ひとつひとつの音符を決しておろそかにしない。和音も和音としてきちんと(客席に聞こえるように)鳴らし、弾き飛ばすことがありません。ミシェル・ベロフのピアノにも通じるような気がしないでもないかな(笑)。リズミカルで民謡風のパッセージ等で音と戯れているような遊び心がチャーミングでした。瑞々しさに溢れた大人のペトルーシュカって感じでしょうか。若いけど実に大人びた音楽を聞かせてくれます。
拍手に応えてのアンコールは3曲演奏されました。何れもリラックスして弾いているのが良くわかる好演でした。
このチェツーエフ(恐らく)は初めて聞いたのですが、これ見よがしな音楽をしないところがいいですね。今後の着実な成長と成熟が楽しみなピアニストの一人ではないでしょうか。
Comments
ただ、個性みたいなものが
薄いような気がします。
けれんみのない手堅さに好感を持ちました。にじみ出るような個性という点では、けろさんのおっしゃるとおりかもしれませんね。これからどういう風に成長していくか、かなと思います。