シュー・ツォン ピアニスト100 ベートーヴェン/リスト/ドビュッシー/ストラヴィンスキー
今日はいろいろ考えたものの、ルルのオペラトークではなくコンサートへ行くことにしました(笑)。さいたま芸術劇場のピアニスト100、78人目(79/100ですが昨年ぺライアがキャンセルしているのでマイナス1)のシュー・ツォンを聴きに与野本町へ。
彩の国さいたま芸術劇場 ピアニスト100 79/100 シュー・ツォン演奏の前に、ピアニスト100の音楽監督でもある中村紘子がシュー・ツォンを紹介。浜松と東京でのコンクールで上位入賞した人だそうで、何故か日本での演奏機会が少ないんだそう。演奏はもとより、プロデューサー、審査員としても活躍しているとのこと。
~中村紘子音楽監督のおはなし~ 1. ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57「熱情」 2. リスト : 巡礼の年第2年「イタリア」 より ペトラルカのソネット第104番 3. リスト : 巡礼の年第1年「スイス」 より オーベルマンの谷 ~休憩(20分)~ 4. ドビュッシー : 前奏曲集第1集 より
I. デルフォイの舞姫 II. 帆 III. 野を渡る風 V. アナカプリの丘 VII. 西風の見たもの IX. さえぎられたセレナード X. 沈める寺 5. ストラヴィンスキー : ペトルーシュカ より 3つの小品 ~アンコール~ 6. ドビュッシー : 亜麻色の髪の乙女 7. ショパン : 練習曲嬰ト短調作品25-6 8. スクリャービン : 練習曲嬰ニ短調作品8-12「悲愴」
2005年1月16日 15:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
さてお話のあとは、ベートーヴェンの熱情ソナタで開始。第1楽章は絶妙な間を効果的に意味深く用いながら、強弱のコントラストを明確につけた音楽作り。スケール感も充分で強い音での熱っぽさ,弱音の繊細さと音色の美しさが光ります。しっかりと輪郭がありながら柔らかくふくらみがある音で、各音の明瞭度と響きのまとまりのバランスも非常に良いですね。第2楽章のヴァリエーションも淡々とした歌い口で各変奏を明確に描いていきます。決してスケール感が失われずに大きな流れの音楽になっているのが素晴らしいところ。少し雰囲気を変えて次楽章への予感を漂わせたブリッジから第3楽章へ。決して弾き飛ばさずに一音一音を丹念に処理しながらも、着実に前へと進む推進力の感じられる弾きっぷり。終結部も楔を打つような二つの和音と迫力十分の前進を繰り返し、重量感を湛えたコーダの見事なこと。最初の曲からから聞き応え充分の素晴らしいベートーヴェンでした。
続いてはリスト。当初予定されていたプログラムではで「ペトラルカのソネット」だけでしたが「オーベルマンの谷」が追加されました。ベートーヴェンとは変わって良く歌うロマンティックな味付けのリスト。そのロマンティックな味わいの原動力は左手にあるのではないかと。何気ないベースラインの動きが雄弁でロマンティックに聞こえてきて、それに比べるとやや淡白な右手とのコントラストを興味深く聞きました。また、オーベルマンの谷の中間部での熱っぽさ、続く部分での静謐な浄化との対比が印象的でした。
休憩の後はドビュッシーの前奏曲集第1巻から7曲。絶妙にコントロールされた響きの美しさが光る演奏でした。打鍵のコントロールだけでなくペダル捌きも含めた、楽器をコントロールする能力の確かさを充分に聞かせてくれました。特に曲の最後の音の響きがとても美しく、音を切るときの手とペダルのタイミングがばっちり決まっていて変な音が全くしないのが実に見事。「デルフォイの舞姫」では音楽がドビュッシーにしてはちょっと野暮ったいかなあとも思ったものの、曲が進むにつれてしっくりとしてきました。特に「アナカプリの丘」に代表される東洋風なフレーズでの味わいはなかなか印象的。また、「さえぎられたセレナード」でのフラメンコ・ギターを髣髴とさせる熱っぽさは秀逸。最後の「沈める寺」も彼のスケール感豊かな音楽が良い方向に出ていたように聞きました。
プログラムの最後は、ペトルーシュカからの3章。カラフルな色合いをアクセントに太目の筆致で描かれた聞き応え充分なストラヴィンスキー。この曲本当に難しい曲だと思うのですが、弾き飛ばすことが全くありません。しかしながら音楽の推進力も充分ですし、スケール感が失われることがありません。難易度が高いところでも、ピアノが良く鳴っているのも素晴らしいところ。決してスマートな演奏ではないのですが、土俗的な色合いが色濃く出ていてこの曲の一面をあぶりだしているよう。第2楽章「ペトルーシュカの部屋」中間部の淡々とした味わいも格別。第3楽章「謝肉祭の日」は見事というしかなく、聞き手も内側から興奮させらてしまいますね。
アンコールは3曲。動きのあるフレージングが面白かった亜麻色の髪の乙女と、もう1曲と指で示して弾いたスクリャービンの噴出するようなエネルギーの放出が印象的でした。
今日はベートーヴェン、リスト、ドビュッシーそしてストラヴィンスキーと時代を追った多彩なプログラムでした。それぞれの作曲家の音楽を明確に描き分けられる自信があるからこそのプログラミングなのでしょうし、その自信を証明して聞かせてくれた演奏会でした。中村紘子によれば日本ではそう聞く機会がなかったとのことですが、今日の演奏を聴くともっといろいろなレパートリーで聞いてみたいピアニストだなあと思いました。
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