藤原歌劇団 ラ・チェネレントラ Aキャスト ジュノー/ゼッダ/東フィル
藤原歌劇団のロッシーニ・シリーズ、イタリアのトルコ人、アルジェのイタリア女、そして3年目の今年が最終回。ラ・チェネレントラを聴きに今日は渋谷へ。
藤原歌劇団公演 ラ・チェネレントラタイトルロールのアンジェリーナ(チェネレントラ)はヴィヴィカ・ジュノー。全音域で癖のない均質で整った声、細かい音も気持ち良い程によく転がること。自分から音楽を引っ張っていくところも聞かれ、本当に見事な歌唱でした。低い声の充実感が増すと一層存在感がましてくると思いましたが、今後も非常に楽しみな歌い手です。バロック物も歌っているようなので、是非聞いてみたいですね。
・ ロッシーニ : ラ・チェネレントラ
アンジェリーナ : ヴィヴィカ・ジュノー ドン・ラミーロ : ホアン・ホセ・ロペラ ダンディーニ : ロベルト・デ・カンディア ドン・マニーフィコ : ブルーノ・デ・シモーネ アリドーロ : 彭康亮 クロリンダ : 高橋董子 ティーズベ : 向野由美子
アルベルト・ゼッダ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:荒井英治) 藤原歌劇団合唱部 (合唱指揮:及川貢)
演出 : ピエール・ルイージ・ピッツイ
2005年2月12日 15:00 Bunkamura オーチャードホール
ドン・ラミーロはホアン・ホセ・ロベラ。この人も癖の少ないやや艶のある声と、細かい音を歌い飛ばさずに丁寧に歌っていく誠実な姿勢がなかなか好感蝕。技術的にも無問題で、細かい音もよく転がるし、高い声の安定感も充分。ロッシーニ歌いとして充分な素質に恵まれているといえるでしょう。歌の勢いや高音の一層の輝きが増すと、更に魅力的な歌手になっていくと思います。
ドン・ラミーロの召使ダンディーニはロベルト・デ・カンディア。張りのある明るい声とコミカルな歌と演技は本当にいい味だしてます。ドン・マニーフィコのブルーノ・デ・シモーネとの珍妙なやりとりは本当に楽しい限り。
ドン・マニーフィコはブルーノ・デ・シモーネ。カンディアよりも締まった印象の感じのバリトンで、ダンディーニ役との声のキャラクターの違いが明確になっていたね。図抜けて声がでかく聞こえますね(これに関しては後述)。第2幕冒頭合唱曲の後の「娘のうちどちらでも」は縦横無尽に声色を変え、俗な父親を面白おかしく歌っていて見事でした。
アリドーロは彭康亮。この方、ドン・ジョヴァンニの騎士長とかのイメージが強いのですが、フレキシブルに対応できる能力があるんですね。ノーブルな声と折り目正しい歌で役柄にぴったりとはまっていました。
クロリンダは高橋董子。やっぱりこの人はうましし、安心して聴けます。こういうコミカルなキャラクターも見事に歌い演じられる能力の高さは素晴らしいものです。
ティーズベは向野由美子。素直で伸びのある声が好印象ですし、コミカルなキャラクターもよく歌い演じていました。これから順調に伸びていとを期待したいと思います。
これだけ妙な癖のない素晴らしい歌手が揃えば、アンサンブルも美しいのは言わずもがな。特に第2幕のスタッカートで始まる六重唱「あなたですね?」。ハーモニーがぴったりと合った美しさと、頻出する巻き舌の発音がくっきりと聞こえてきて愉しいこと。
そんな歌手達を支えまとめた、ベテランのアルベルト・ゼッダはなんと全曲暗譜で振ってました。中庸のテンポで歌手に余計なプレッシャーを与えることなく自由に泳がせる棒で歌手達の魅力を存分に引き出していたように思います。第1幕終曲と第2幕の六重唱後半ではテンポをあげてスリリングな味も演出しアクセントを加えていました。東京フィルは弦の刻みがちょっとよれるところがあるものの、ゼッダの棒によく応えた好演。特に木管および金管がニュアンス豊かだし、決め所を外さない出色の演奏でした。合唱はちょっと評価しにくいなあ・・・、もともと男声合唱だけど響きの薄い感じの曲ですし。軽さと強さが中途半端だったかなあという気もしますが・・・。
演出はピエール・ルイージ・ピッツィ。時代を特定しない設定ですが、奇をてらった読み替えをせずに安心して見ていられる演出でした。黒の舞台装置を基調に、いじわる姉妹の派手な色彩とアンジェリーナの夜会での青そして最後での白いドレスが引き立つ色使いでした。ただ、鏡面仕上げの幕で区切った舞台の前と後の使い方がいまひとつこなれてない印象がありました。
全体的には良い歌い手を得た上質のロッシーニを堪能したのですがひとつだけ気になったのはPA。序曲から第1幕の頭に欠けて明らかにPAが効きすぎていて、非常に不自然な響きが聞こえてきて気持ち悪かった。その後は自然なバランスに回復したので事なきを得た感じではあるのですが、頭ごなしに「使うな!」とは言いませんが、使うのであれば上手に使って騙して欲しいものです。あとこれは私の聴き違いかもしれないのですが、ブルーノ・デ・シモーネの声量っていつもあんなにでかいんでしょうか・・・。
Comments