ボッセ/新日本フィル/栗友会 ベートーヴェン:第九
チョン/東フィルの第九のあと連荘を共にする同行者の希望もあり、時間つぶしがてら六本木ヒルズへお散歩。実は初めて行きましたがクリスマスと土曜日が重なったため人が多いですなあ・・・。散歩の後、食事をしてふたたびサントリーホールへ(笑)。2年前、新日本フィルとのベートーヴェン・ツィクルスと第九演奏会で新境地を切り開いたゲルハルト・ボッセ。久しぶりに新日本フィルへ登場したボッセの指揮で、年末4本目の第九です。
新日本フィルハーモニー交響楽団 「第九」特別演奏会プログラムの前半は室住素子のオルガンソロで小品を3曲。選曲&演奏共に非常に落ち着いた渋さを感じさせるもの。最後のレーガーの曲は曲のはじめから本当に「どこがクリスマス?」と言いたくなる様な晦渋さを湛えていましたが、遠近感をもったピアニッシモで奏でられた「きよしこの夜」のメロディーが流れ出したところで「なるほどねえ」と。そこまで華やかな部分が全くといっていいほどなかっただけに実に効果的な選曲と演奏でした。
1. J.S.バッハ : 幻想曲ハ短調 BWV562 2. フランク : パストラーレ作品19-4 3. レーガー : クリスマスの夜作品145-3 * 4. ベートーヴェン : 交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
オルガン : 室住素子(1,2&3)
ソプラノ : 釜洞祐子(4) アルト : 寺谷千枝子(4) テノール : 畑儀文(4) バリトン : 藤村匡人(4)
ゲルハルト・ボッセ指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団(4) (ゲスト・コンサートマスター:西江辰郎) 栗友会合唱団(4) (合唱指揮:栗山文昭)
2004年12月25日 19:00 サントリーホール 大ホール
20分の休憩をはさんで、後半はもちろんゲルハルト・ボッセ指揮する第九。きりっと引き締まったテンポをとって、古楽風のテイストを取り入れた明確なアーティキュレーション、さっぱりとした感触のフレージング、これみよがしな見栄を張らずに精巧な寄木細工のように小さな音の部品をこつこつと積み重ねて最後には、「ほーらできた、これがベートーヴェンだよ」と見せるボッセ流のベートーヴェンは相変わらず健在でした。いや健在どころか、2年前よりもアプローチが徹底し一層深化していたように思います。ボッセ流の寄木細工から奏でられるベートーヴェンは実に新鮮でみずみずしく、とても御年82歳の好々爺が振る音楽とは思えない生き生きとしたもの。第1楽章の自然な力感と推進力、第2楽章のリズミカルな運びと巧まざるユーモアの表出。第3楽章はまったく虚飾のない自然なフレージングで進められる淡々と歩みから、メロディーを強調しないでも湧き水のようにこんこんと自然な歌が溢れ出てくる様は本当に美しいの一言に尽きます。今日の演奏の白眉だったと言っても過言ではないでしょう。第4楽章も決して力技に頼らずに軽さを生かし、この楽章に入れられた様々な要素をクリアに見通しよく聞かせてくれます。オーケストラだけでなく、合唱にも言葉のイントネーションを自然に響かせるフレージングを施していました("Welt!"をディミュニエンドさせていたのが印象的)。栗友会の合唱もそのボッセのアプローチを汲んだ決して叫ぶことのない美しい歌声を聞かせていました。"Seid umschlungen"の男声合唱も荒々しくなることなく歌っていました。ソリスト達もアンサンブル重視の人選で、彼らの美しいハーモニーと軽やかなアンサンブルは第九では珍しいものかもしれませんがボッセの意図にはぴったりの歌唱でした。
今日の演奏、弦は14-11-10-8-6、木管は通常の2管編成でした。ソリストは指揮者の前、第2楽章と第3楽章の間での入場。楽譜はベーレンライター版を手を加えずに使用していたようでした。第3楽章のホルンソロは1番の吉永雅人が吹いておりました。第4楽章のバリトンソロでベーレンライター版に指定されている"freudenvollere"のアドリブ指定を生かしていたのが面白く聞きました。
7月の新日本フィルとの演奏会を怪我でキャンセルしたゲルハルト・ボッセ。ちょっと心配していましたが、今日見たところ足取りも確かですしタクトも実に明確で生き生きとしたもので本当に安心しました。普段聞こえてこない弦の刻みやフレーズが鮮やかに聞こえてくるのはボッセの棒で聞く魅力のひとつで、新たな発見をさせてもらうことも数多くありjosquinにとって貴重な存在となっています。健康に留意して、これからも私たちの前で素晴らしい音楽を聴かせて欲しいものです。
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