鈴木/BCJ 聖夜の「メサイア」
すっかり恒例になったクリスマスイブにサントリーホールでおこなわれる、BCJの聖夜の「メサイア」。昨年はモーツァルト版(josquinは佐倉での演奏を聴きました)の演奏でしたが、今年は1754年の孤児養育院版による演奏です。先日もバッハとシュッツを中心にしたプログラムを聴いています。BCJのクリスマスコンサート第2弾を聴きに赤坂へ。
サントリーホール クリスマス・コンサート 2004 バッハ・コレギウム・ジャパン 聖夜の「メサイア」ホールに入ると舞台には白を基調に飾り付けられたクリスマスツリーが左右に2本ずつ、Pブロック前方の手すりにも同様の飾り付けがなされていてクリスマスらしい雰囲気を演出していました。
1. ヘンデル : オラトリオ「メサイア」HWV56 (1754年孤児養育院版) アンコール 2. J.S.バッハ(鈴木優人編) : シュメッリ歌曲集 より まぶたのかたえに
ソプラノI : スザンヌ・リディーン(1) ソプラノII : 臼木あい(1) カウンター・テナー : ダニエル・テイラー(1) テノール : 櫻田亮(1) バス : ヨッヘン・クプファー(1&2)
鈴木雅明指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン (コンサートミストレス:若松夏美)
2004年12月24日 18:30 サントリーホール 大ホール
意外と遅めのテンポではじめられたシンフォニア(No.1)。古楽器の繊細さを生かしつつ、情感が込められた丁寧なフレージング。全体が実に柔和な表情で統一されているのがとても印象的。緩から急への切替もテンポ、表情共に実に明確。桜田亮の歌うレチタティーヴォ(No.2 "Comfort ye, ...")とアリア(No.3 "Ev'ry vally ...")は、彼の持ち味である響きの良く乗った軽い歌声が生きています。レチタティーヴォとアリアの切替も明確。合唱曲(No.4 "And the gloly of the Load ...")はハーモニーの純度の高さやフレージングの明確さはもちろんのこと、シンフォニアで感じられた柔らかな風合いがここでも聞かれます。明快さだけではないいつものBCJとは異なった味わい。バスのレチタティーヴォ(No.5 "Thus saith the Lord, ...")はヨッヘン・クプファーの威厳が感じられる張りのある声の素晴らしさ。ソプラノのアリア(No.6 "But who may abide ...")は臼木あいへの割り振り。劇的な表現力に加えて声に華があります。アルトと合唱のレチタティーヴォ(No.6 "And He shall purify ...)とアリア(No.7 "O thou that tallest ...")はダニエル・テイラーの繊細な声を生かしたオーケストラとの一体感。再びクプファーの歌うレチタティーヴォ(No.9 "For behold, darkness ...")とアリア(No.10 "The people that walked ...")は光と影の対照を明確にあらわし秀逸。合唱(No.11 "For unto us a Child ...")では"Wonderful, Counsellor ..."の前後でメリハリを明確に付けた構成感。前半を押さえ気味に歌わせることによって、大げさな表現をしないでも"Wonderful"以降の輝きが得られることの証明。
ここで少し間をとって舞台上はオーケストラがチューニング、客席では遅れてしまった聴衆が自席へ。表情豊かにかつのどかな風情を湛えた田園曲(No.12)。ここからは第1部最後まで合唱をはさみながらのレチタティーヴォとアリアはすべてソプラノのスザンヌ・リディーンへの割り振り。細めで落ち着いた声質と繊細な表現力を生かしつつ、オーケストラと合唱との一体感を重視した歌唱。特に、アリア(No.16 "Rejoice grately ...")では小気味良いコロラトゥーラ技法で喜びを表現し愉しい限り。
20分の休憩をはさんで第2部へ。合唱(No.19 "Behold the lamb of God")の後、アルトの聞かせどころの長大なアリア(No.20 "He was despised and ...")。遅めのテンポを取った両端部での繊細さ、短い劇的な中間部での強さとのコントラストが見事。テイラーの持ち味である繊細さがオーケストラの弦と共に生きていました。この後は合唱曲(No.30 "Lift up your heads, ...")を転換点とするキリストの受難と復活をあらわす劇的な部分。しっかりした構成力と言葉へ明確な表現、そして求心力と劇性を余すところなくあらわして全体を引っ張った鈴木雅明の手腕が光ります。なかでも合唱とオーケストラの表現力は素晴らしく、No.21("Surely He hath borne ...")での強さをもった表現、転換点No.30("Life up your heads, ...")での明確な光明の表現、最後のハレルヤコーラス(No.39 "Hallelujah")でも鈴木の明確な表現に沿った多彩な表現力で輝かしさを存分に表現。ソリスト達も鈴木の意に沿った素晴らしい歌唱でした。ハレルヤコーラスではちらほらと起立している人も見られました。
鈴木が一度袖に下がって、舞台上はチューニング。そして鈴木が再度登場して第3部。ソプラノのアリア(No.40 "I know that my Redeemer libth, ...")はリディーンの繊細さと協調性が生きた歌唱。合唱曲(No.41 "Since by man came death, ")で突然現れるピアニッシモでのアカペラ合唱。その静謐な雰囲気と純粋なハーモニーが実に効果的。これには素直に「やられたなあ」の一言(笑)。バスのレチタティーヴォ(No.42 "Behold, I tell you a ...")に続くアリア(No.43 "The trumpet shall sound, ...")がクプファーの輝きのある声と島田俊雄のよくの響きののったトランペットが相乗効果を発揮し。唯一のアルトとテノールの二重唱(No.44 "O death, where is ...")もテイラーと桜田の息の良くあったアンサンブルで聞かせてくれました。最後の合唱曲(No.47 "Worth is the Lamb ...")がまた見事。前半のポリフォニーの小気味良さと輝かしさはもちろんのこと、後半のやさしい歌い口ではじめられたアーメンのフーガの素晴らしさ。鈴木の合唱とオーケストラへの明確なフレージングでの指示が冴え、実に壮麗な高揚感をもたらしていました。
生でメサイアを聞くのは今日で3度目。そして、BCJのメサイアを聞くのも3度目。2001年(サントリー)、2003年(佐倉:モーツァルト版)、そして今年と。つまりライブでは彼らの演奏でしか聞いてないですね・・・(笑)。3回聞いた中でも、今日の演奏は一番素晴らしい演奏ではなかったでしょうか。聖夜の「メサイア」公演がはじまって今年で4年目。多少のメンバの違いや版の違いはあるもの、鈴木雅明とBCJのこの曲への表現が一段と深化しているのが感じられます。CD2枚分のこの曲を最初から最後まで、その長さを感じさせずに多彩な表現力をもって聞かせる手腕は見事というしかありません。緩急をはっきりと付けたテンポ、優しさと激しさの落差等、思い切った表現をとりながら決して様式感や時代楽器の繊細さを損なわない。思い切った表現でのメリハリ付けだけでなく多彩な表情を引き出す立体的で実に丁寧なフレージング。これだけ明確な意思に貫かれた演奏ながら、全体に漂う抱擁力あふれる優しさはなんとも言えません。オーケストラ、合唱そしてソリストの一体感の素晴らしさ。特にオーケストラの安定感はここ何年か間で聞いたBCJの演奏の中でも出色の出来栄えかもしれません。第2部での受難から復活への劇的な表現は本当に素晴らしいものでした。ソリスト達はアンサンブルに溶け込みながら個々の個性をいかすリディーン、テイラー、桜田の3人と華のある臼木、クプファーのコントラストがとても印象的。臼木とクプファーはその華やかさが適度なアクセントになっていたように思います。
アンコールは鈴木優人の編曲でバッハのシュメッリ歌曲集からの1曲。クプファーのソロに導かれてのアカペラ合唱がとても美しい演奏でした。
サントリーホールの公演予定によれば、来年もBCJ「メサイア」がクリスマスイブに演奏されるようです。来年も一段と深化した演奏を楽しみにしたいと思います。
Comments
なんの偶然か、おなじサーバー屋さんで一緒にお世話になるということで、これからもよろしくお願いします。
さくらさんいまのところ快適で満足です。
こちらこそよろしくお願いします。
今年7月ドイツのトリアーに世界のメサイア愛唱家450名を集めて「ヘンデル・メサイア世界合唱祭」が開催されます。日本から30名参加できますが、まだ空きがあります。詳細はこちらでご覧いただけます。
http://www.jointconcert.com/kojinsanka%20halleluja%20Mr%20Haendel%202009.html
よろしくお願いいたします。
ジョイントコンサート国際委員会
垣沼佳則