北とぴあ国際音楽祭記念事業 イドメネオ エルウィス/寺神戸/レ・ボレアード
北とぴあ国際音楽祭記念事業 イドメネオイドメネオを聴くのは放送や音盤も含めても、実は今回が初めて。昨年の「イポリートとアリシ」と同様にコンサートスタイルでの上演。ソリスト達は場面に応じて舞台へ出てきて、オーケストラの前で簡単な演技をしながらの歌唱。また簡素ながら照明を利用しての効果的な演出がなされていて、字幕(小屋が大きくないので安い席でも良く見える)と共に物語を理解するうえで非常に役に立ちました。まず作品の印象から言うとドラマティックで聴き応えのある充実した作品ですね。ダ・ポンテ三部作等に匹敵する名作といっても過言ではないでしょう。特に、第1幕の音楽の充実振りは素晴らしく、1時間程の長さをまったく感じさせません。そんな風に私に感じさせたのも、もちろん今日の出演者達の充実した演奏があってのもの。
モーツァルト : オペラ「イドメネオ」K.366(コンサートスタイル)
イドメネオ : ジョン・エルウィス イダマンテ : 波多野睦美 イリア : 高橋董子 エレットラ : トゥーナ・ブラーテン アルバーチェ : 畑儀文 大祭司 : 鈴木准 神託の声 : 小笠原美敬
寺神戸亮指揮 レ・ボレアード(合唱と管弦楽) (コンサートミストレス:若松夏美)
2004年11月13日 17:00 北とぴあ さくらホール
まずは、寺神戸指揮するレ・ボレアードからいきましょうか。BCJ等を中心に日本の古楽界で活躍するメンバを集めた、オーケストラおよびコーラス共に充実の出来栄え。寺神戸亮の指揮は去年の「イポリートとアリシ」では舞曲での遅めのテンポ設定とリズムの生き生きとした躍動感が感じられなくてやや不満だったのですが、今年は別人のようにドラマティックで的確なテンポ設定と生き生きとしたリズムで全体を牽引していました。ソリスト達との呼吸も申し分なく、単なる伴奏ではないお互いを触発しあうような踏み込みの良さも聴かれました。最後のバレエ音楽に代表されるオーケストラだけの部分も生き生きとしていてとても充実した演奏でした。もちろんピリオド楽器特有の不安定性からくる傷はあるのですが、それを補ってあまりある一体感は素晴らしいものでした。管楽器(特に木管とホルン)の響きも表現上のアクセントになっていてとても面白く聞きことが出来ました。各パート4人ずつで編成されたコーラスも透明で純度の高いハーモニーだけでなく、民衆の生き生きとした存在感をよく表していて素晴らしい限り。なお、オーケストラの編成は5-5-4-2-2でした。
ソリスト陣も充実。イドメネオを歌ったエルウィスはベテランの妙味。声のコンディションをきちんと保持しているだけでも素晴らしいのに、2幕のコロラトゥーラ技法を含むアリアをばっちり決めてくれました。王の苦悩に満ちた役柄を十分に表した歌唱で、舞台をきっちり引き締めていたのは寺神戸だけでなく彼の功績も大きいと思います。
イダマンテを歌った波多野も素晴らしい。彼女にしては珍しいズボン役ですが、男役らしくきりっとしたところとイリアを思う優しさの両立。そして、彼女の暖かでヒューマンな声が全体をそれらを包み込んでいるのが素晴らしい。実によく歌いこまれていて、細やかなニュアンスも的確に伝わってきます。
イリアを歌った高橋はイダマンテへの一途な思いが声に良く乗っています。他の3人とくらべて発声のスタイルがちょっと違うのと声がやや重めですが、役柄的にはそのキャラクターが生きていたように思います。また、きめ細かな表情が良く出た歌唱は素晴らしいものでした。
エレットラを歌ったブラーテンは第1幕と第3幕でのきりっとしたところと第2幕のアリアでのイダマンテを思う女心を繊細かつチャーミングに表現し素晴らしい限り。第3幕でイリアにイダマンテを取られて「ふん!」と出て行ってしまうのが「かわいそう」と思ってしまいますね。声量が他の3人と比べるとやや劣るけど、それを補ってあまりある表情豊かな歌唱でした。
アルバーチェを歌った畑は役柄にしてはやや声が重いかなとも思いましたが、ベテランらしい手堅い歌唱。大祭司を歌った鈴木と神託の声を歌った小笠原も出番は少ないながらも、十分な存在感を示してくれました。
来年は何を上演してくれるのでしょうか。日本ではピリオド楽器でのオペラ上演は数が少ないだけに、楽しみにして発表を待ちたいと思います(オペラと決まったわけではありませんけど・・・)。本音を言うと北とぴあ国際音楽祭自体を復活させて欲しいのだけど・・・。
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