小澤/水戸室内管 定期演奏会 モーツァルト:リンツ
水戸室内管弦楽団 第60回定期演奏会プログラムの最初は「イドメネオ」の序曲。寺神戸亮とレ・ボレアードの充実した演奏が記憶に新しいところ。弦楽器の編成は7-6-5-4-2。ニュートラルな音色で厚みを感じさせる弦、生き生きとた木管陣(オーボエの宮本とフルートの工藤の素晴らしい愉悦感)、そしてきりっとしたアンサンブルとメンバの自発性に任せた優美さ。コンサートの開幕にふさわしい見事な演奏でした。3週間前の記憶がよみがえってきました。
1. モーツァルト : 歌劇「イドメネオ」K.366 序曲 2. モーツァルト : 協奏交響曲変ホ長調K.364(320d) ー 休憩 intermission ー 3. モーツァルト : 交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」 アンコール 4. J.S.バッハ(マーラー編) : 管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068 から エア
ヴァイオリン : 川崎洋介(2) ヴィオラ : 店村眞積(2)
小澤征爾指揮 水戸室内管弦楽団
(コンサートマスター : 田中直子(1&2) 川崎洋介(3&4))
2004年12月4日 18:30 水戸芸術館 コンサートホールATM
協奏交響曲はソリストを務める2人が抜けて弦の編成は6-6-4-4-2。第1楽章はイドメネオと比較すると第1ヴァイオリンの響きがややきつめの印象有。ヴァイオリン・ソロの川崎は丁寧な音楽作りですが、反面生き生きとした生彩さに欠け響も飛ばない傾向。ヴィオラ・ソロの店村は柔らかい音色と適度にチャレンジングな姿勢が好ましい。2人が同調するところはぴったりと息が合っていて美しい出来栄え。カデンツァ前半はちょっとした2人の争い、後半は調和へとの過程が明確に示されました。第2楽章はソロ・オーケストラ共に落ち着いた音色で淡々と歩む音楽。カデンツァからの悲しみをたたえた歌が印象的でした。第3楽章は第1ヴァイオリンの響きも戻ってきて、ソロ・オケ共に生き生きとした表情。川崎も店村に触発された様子で、響きも飛ぶようになってきましたしチャレンジングな姿勢で店村との競い合いも楽しい限り。全体的にソリスト、指揮者、オーケストラが一体となって音楽を形作っていく姿勢でとても好ましい演奏に感じました。
後半は再び7-6-5-4-2の編成に戻ってのリンツ交響曲。第1楽章はやや遅めのテンポで演奏された序奏と、主部に入ってからの程よい音楽の推進力とのコントラストが印象的。基本的には小澤らしいまっすぐな音楽作りですが、イドメネオ同様にメンバの自発性に任せた適度な優美さが自然に感じられます。ここでのオーボエとファゴットは素晴らしい限り。よく通る音と芯の強さの感じられる宮本のオーボエ、明るい音色と躍動感の素晴らしいクリュッチュのファゴット。そしてその2人を中心とする木管(この曲はオーボエとファゴットだけですが)の調和の取れた理想的なハーモニー感も素晴らしい。小さめの楽器と固めの撥を使用した竹原のティンパニはもう少しスピード感があるともっと良かったかも。第2楽章はやや無愛想なところもあるのが小澤らしい演奏。妙に愛想や可愛さを付けないほうが、小澤のまっすぐなアプローチに相応しい。第3楽章は1拍目だけでなく2拍目にもアクセントを付けたリズムが面白い。テンポを落としたトリオは弦を1-2-2-2-1に縮小して室内楽的な親密さが好ましい。ここでも宮本のピンと背筋の張った音と歌いぶりの素晴らしさは特筆すべき出来栄え。第4楽章は最初から飛ばさず、最後の最後に喜びを爆発させる設計が見事。ヴァイオリンの跳躍音形を空中へ飛ばすような弾かせ方も決まっていましたし、コーダは小澤流モーツァルトの真骨頂ではないでしょうか。
小澤のモーツァルトは可愛さや優美さの表現はやや不自然に感じられることもあったのですが、今日の演奏ではそのあたりの表現をメンバの自発性に任せていました。それが自然な表情にうまくつながっていたように思います。小澤特有の純粋でまっすぐな音楽作りとメンバの自発性が融合した優れた演奏だったように感じました。座席位置(舞台裏右方)のせいかもしれませんが、どの曲でも第2ヴァイオリンの動きがよく聞こえてきて、こんなに意味深いことしてるんだなと思うところが数箇所発見できたのも今日の収穫でした。
アンコールはバッハのいわゆるG線上のアリア。小澤が折に触れて、祈りをささげる為によく演奏する曲。遅めのテンポと透明な音色で奏でられる音楽に、小澤とメンバの思いが深く込められた祈りが聞き手に伝わってきます。あえて小澤は告げなかったのだと思いますが、6日に予定されている新潟公演と中越地震での被災者への追悼の気持ちは、充分に聞き手に伝わったのではないでしょうか。
駅弁と(珍しく)ビールを買って、わずかな旅気分を味わいつつのんびりと普通列車で帰りました。
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