えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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二期会 イェヌーファ Aキャスト 津山/阪/東フィル

3年前のSKFでのカーセン演出の素晴らしいプロダクションが印象に残っているイェヌーファ。二期会とベルリン・コーミッシェ・オーパーの共同制作による、デッカー演出のプロダクションを目当てに上野へ。
東京二期会オペラ劇場 ベルリン・コーミッシェ・オーパー共同制作 チェコ音楽祭2004参加公演 イェヌーファ

L.ヤナーチェクイェヌーファ
(ドイツ語による上演)

イェヌーファ津山恵
コステルニチカ渡辺美佐子
ラツァ・クレメニュ羽山晃生
シュテヴァ・ブリヤ高橋淳
ブリヤ家の女主人与田朝子
粉屋の番頭峰茂樹
村長久保和範
村長夫人押見朋子
カロルカ斉藤京子
ブリヤ家のお手伝い木村圭子
バレナ二見忍
ヤナ菊地美奈
年配の女平田真理

阪哲朗指揮東京フィルハーモニー交響楽団
(コンサートマスター:三浦章広)
二期会合唱団
二期会オペラ研修所オペラ・ストゥーディオ第49期本科研修生
(合唱指揮:森口真司)

演出ヴィリー・デッカー

2004年12月5日 14:00 東京文化会館 大ホール
今日は誰が何といってもコステルニチカを歌い演じた渡辺美佐子の素晴らしさに拍手。イェヌーファの義母としての役割を果たそうとする意志の強さと、心のどこかにある葛藤を、強く奥深い声と凄みさえ感じさせる幅広い表現力で歌いきっていました。特に、第2幕のイェヌーファ、ラツァ、シュテヴァとのやりとりの緊張感、第3幕の赤ん坊が発見されてから、徐々に取り乱していく場面の真に迫った表現の素晴らしさは特筆すべき出来栄え。歌唱だけでなく演技でも動きの多い演出を素晴らしい演技力で演じきっていました。ある意味コステルニチカ役はこのオペラの「肝」。今日の舞台を引き締めかつ牽引したのは彼女だといって過言ではないでしょう。

イェヌーファ役の津山恵も渡辺美佐子に次ぐ素晴らしさ。声にもう少し華が欲しい気もしますが、落ち着いた声質と伸びのある歌声でイェヌーファの揺れ動く心を表現した好演。特に、第2幕の不安気な表情と結婚相手としてラツァを選択するまでの心の動きの表現は素晴らしいものでした。

ラツァ役の羽山晃生は何度か耳にしていますが、いままで一番の出来栄えでは。真っ直ぐである意味不器用なラツァを真正面から捉えて表現した好演ではなかったでしょうか。

シュテヴァ役は「(本人は嫌がるかもしれませんが)演技派」高橋淳。昨年の新国立劇場「ホフマン物語」の素晴らしい演技と歌は忘れられませんが、酔っ払いをやらせたら天下一品ですねこの人。第1幕のドンチャン騒ぎでの演技と歌いぶりはこの人の真骨頂でしょう。また、第2幕以降でのシリアスな部分の演技と歌も素晴らしいものでした。

他のキャストも水準以上の出来栄え。女主人役の与田朝子の深々とした声、道化的役割を存分に果した村長夫人役の押見朋子、そしてカロルカ役の斉藤今日子の美しい歌声が印象に残りました。ヤナ役の菊池美奈は純粋なキャラクターを生かした好演でしたが、もう少し存在感が欲しかったかもしれません。ヤナは短い時間で表現をしないといけない、難しい役でもありますが。

阪哲朗指揮の東フィルは大健闘といっていいでしょう。阪哲朗の引き締まった造形と緊張感を湛えた抜群の手綱捌き。阪哲朗にはこういう作品が相応しく、彼の特徴を生かせるのではないかと思いました。東フィルも叙情的な音楽の美しさ、荒々しさをも感じさせるパワーの表出、役の心の動きを写し取った表現、時折聞かせる表情の濃い土臭い表現、ライヴならではの傷もありましたがヤナーチェクの音世界を充分に表現していました。コンマス三浦章弘の美しい音色のソロと相まって室内楽的な部分での美しさはとても印象的でした。

ヴィリー・デッカーの演出も素晴らしい限り。シンプルながら場面の雰囲気を簡潔に表現した舞台装置。音楽とのシンクロさせつつ、全くといっていいほど不自然な動きのまったく感じられない演技付け。第1幕での一面に土を敷いた(SKFでのカーセン演出でも土を一面に敷いてましたね、この作品はやはり「土」で表現するんだなと改めて感じました)舞台、いつのまにか囲いが降りてきていて部屋になっている手際の自然さ。白を基調としながらも箒で掃いたような模様の床と壁、青白い照明とともにイェヌーファとコステルニチカの不安を示した第2幕。前進する壁と共にイェヌーファとラツァの2人を舞台前方へ、そして壁を取り払いつつ第1幕冒頭の土を敷いた舞台へと2人を導き「救済」と「未来」の明示は本当に印象的(ちなみにSKFでのカーセンの演出は2人の頭上からすべてを洗い流すかのような雨で表現していました)でした。

優れた演出、演技と歌唱を高度に両立させた歌手達、それを触発し支える指揮者とオケと合唱。近年の二期会のプロダクションでは昨年の「薔薇の騎士」に勝るとも劣らない(勝っているといっても過言ではないかも)素晴らしい上演でした。ヤナーチェクのオペラはイェヌーファしか接したことがないのですが、他の作品も是非優れたプロダクションで接してみたいものです。
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小澤征爾と第九の・・・。 | えすどぅあ | 2004/12/29 01:54
先月のまとめで、15本いくと年間180本だなあと・・・。結局、1本多くなって16本。年間181本になりました・・・。