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T.グシュルバウアー/読売日響/L.O.アンスネス 芸劇名曲 メンデルスゾーン/モーツァルト
定期的にこのオーケストラへ客演しているウィーン生まれのベテラン・マエストロ、今回はシューマンとメンデルスゾーンを中心に据えての登場。ブリュッヘン/NJPの後は、グシュルバウアーと読響のメンデルスゾーンの間にアンスネスの弾くモーツァルトを挿んだプログラムを楽しみに錦糸町から池袋へ。
読売日本交響楽団 第136回東京芸術劇場名曲シリーズ今日の読響はいつもどおり弦楽セクションを1Vn-2Vn-Va-Vc/Cb右と並べた配置で、メンデルスゾーンは16型、モーツァルトは12型の編成。
1. メンデルスゾーン : 「フィンガルの洞窟」序曲 作品26 2. モーツァルト : ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K.453 〈アンコール〉 3. メンデルスゾーン : 無言歌集 第6巻 から 「失われた幻影」 作品67-2 〈休憩〉 4. メンデルスゾーン : 交響曲第3番 イ短調 作品56 「スコットランド」 〈アンコール〉 5. メンデルスゾーン : 交響曲第4番 イ長調 作品90「イタリア」 から 第3楽章
ピアノ : レイフ・オヴェ・アンスネス(2&3)
テオドール・グシュルバウアー指揮 読売日本交響楽団(1,2,4&5) (コンサートマスター:藤原浜雄)
2007年2月3日 18:00 東京芸術劇場 大ホール
まずはメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」から。グシュルバウアーと読響は冒頭から良く溶け合った深みのあるサウンドを聞かせます。細かな動きで表す小さな波と大きなスケールで示す大きな波の双方を巧みに組み合わせて、ヘブリディース諸島(スコットランド)の漆黒の海原を見事に表現していきます。高弦の細かな動きに大きな流れで入ってくるチェロのメロディーが実に瑞々しく聞こえます。弱音方向の繊細さとニュアンスの豊かさ、ドラマティックな部分では全体をきりっと引き締めるあたりさすがベテラン・マエストロですね。オーソドックスなアプローチで充実した演奏を披露してくれました。
次はアンスネスを迎えたモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。josquinはもともと芸劇マチネの会員なのですが、今日に振り替えてもらった最大の理由はアンスネスを聴きたかったから(笑)。
曲頭からシンフォニックに音楽を進めるグシュルバウアーと読響。軽く和音やバスの動きを一緒に弾きながらソロパートを待つアンスネス。ソロに入るとアンスネスはシンフォニックな味付けのオーケストラに真っ向から対決はせず、「オレが主役だ」的な要素はまったくもって皆無。控えめな存在感とでも言うべき姿勢でニュアンス豊かなモーツァルトを弾いていきます。リズムのきりっとした処理、ふくらみのある豊かなフレージングと随所に聞かれるセンスの良い遊び心も愉しい。指揮者とオーケストラを立てつつ、多彩な表情とニュアンスでちゃんと自分のモーツァルトを表現しているのには感心。ホルンの汽笛が聞こえる終楽章後半、オーケストラと一体となった疾走感も良かったと思います。
拍手に応えたアンスネスのアンコールはメンデルスゾーンの無言歌から「失われた幻影」。リズミカルな動きに漂うほのかな悲しみがとても印象に残った演奏でした。
プログラムの後半は再びメンデルスゾーンに戻ってスコットランド交響曲。グシュルバウアーは奇を衒うことなく正攻法で曲を表現していきます。読響もそんな職人肌な指揮者に応えて、持てるポテンシャルを十分に発揮。安心して曲の描く世界に浸れる演奏を展開してくれました。「フィンガルの洞窟」同様に弱音の繊細さ、中間色的な色合いを持った部分での溶け合った音色とニュアンスの豊かさ、そして曲調がドラマを帯びてくるとぐっと手綱を引き締める。このマエストロがオーケストラのコントロールに実に長けていることを感じさせます。第1楽章は嵐を表した部分の劇的な表現力、第2楽章のリズミカルな動きの愉しさ、第3楽章は木管アンサンブルの懐かしい響きがホッとさせてくれます。メランコリックになりすぎない第4楽章は引き締まった造形力が光ります。
グシュルバウアーの振るスコッチを聞いていて一番感心したのは、対旋律の魅力を十分に感じさせてくれたこと。メインのメロディーだけでなく、対旋律や細かな動きがこんなに魅力的なんだよと教えてくれるようでした。曲の細部まで神経の行き届いた演奏を聞かせてくれたグシュルバウアー、奇を衒ったアプローチは皆無ですがこういうマエストロは大事にしないといけませんね。
拍手に応えて、マエストロ自らアンスネスのアンコール曲と共に紹介し演奏してくれたのはイタリア交響曲の第3楽章。やはりmpからmfあたりの音の溶け合いが生きていた演奏でした。次回客演時はメンデルスゾーンの他の交響曲を聴いてみたいものです。質の良い合唱団を従えて、交響曲第2番「賛歌」なんかやってくれると嬉しいんだけどなあ・・・。
(2007.2.11 記)
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