藤原歌劇団 ラ・ボエーム 砂川涼子/村上敏明/園田隆一郎/東京フィル
毎年ヴェルディの椿姫が上演されていたこの団体の新春公演、昨年でひとまずピリオドとのこと。若手を中心に据えたキャスティングで今年上演されるのは、プッチーニがパリを舞台に描いたボヘミアンたちの物語。今日は藤原歌劇団のラ・ボエームを楽しみ渋谷へ。
藤原歌劇団公演 ラ・ボエーム客席に座って舞台を見渡すと、オーケストラピットの左側に張り出した舞台が目に入ってきます。昨年の2月、このオーチャードホールでおこなわれた二期会のラ・ボエームも同じ張り出しがありました。恐らく、第2幕のカフェ・モニュスで活用するんだろうなあ・・・(笑)。その張り出し舞台の下を通りヴァイオインの間を縫って、1976年生まれの若きマエストロ園田隆一郎が登場。タクトが振り下ろされてラ・ボエームの幕が上がります。
・ ジャコモ・プッチーニ : ラ・ボエーム オペラ4幕 字幕付原語上演
ミミ : 砂川涼子 ロドルフォ : 村上敏明 ムゼッタ : 高橋董子 マルチェッロ : 堀内康雄 ショナール : 三浦克次 コッリーネ : 久保田真澄 ベノア : 折江忠道 アルチンドロ : 柿沼伸美 パルピニョール : 田代誠 物売り : 納谷善郎 税関軍曹 : 岡山廣幸 税関の役人 : 小田切貴樹 子供 : 正井彩香
園田隆一郎指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 藤原歌劇団合唱部 (合唱指揮:及川貢) 多摩ファミリーシンガーズ (児童合唱指導:高山佳子)
演出 : 岩田達宗
2007年1月28日 15:00 Bunkamura オーチャードホール
神経の行き届いたサポートを聞かせる若きマエストロとオーケストラ、メインとなる若い二人と中堅&ベテラン四人の粒が揃い、音楽を邪魔せず安心して浸ることが出来る演出。公演監督の岡山廣幸が公演プログラムで書いている「若い力を結集し、ベテランが脇を締める」という意図が実を結び、バランスの良い充実した公演を楽しむこと出来たように思います。
「若い力」の一人はピットの中央で腕を奮った園田隆一郎。清潔で美しい音色を東京フィルから引き出し、隅々まで目の行き届いた指揮ぶりは好感度大。歌手との生き生きした掛け合い、弦のヴェールの様なソフトな肌触りで示す情景描写は秀逸。歌い手の呼吸を邪魔しない自然で的確なサポートもなかなかですし、情感豊かで繊細な歌心も感じられるのが良いところ。少し手綱を引いても良いかなあと思う場面や全体的に音の存在感が欲しいところもありましたが、思い切って緩急をつけた第2幕は若々しい音楽が奏でられていました。今後の成長が楽しみなマエストロですね。
歌手の若い力はミミの砂川涼子とロドルフォの村上敏明。砂川涼子はニュートラルで伸びのある声で可憐さと芯の強さを併せ持つミミを好演。村上敏明は若干細みながら力強く適度な甘美さを持った声でまっすぐなロドルフォを歌い演じていました。両者とも主役の重責を十二分に果たしていたと思います。
若い二人の脇を締めるのはベテラン(というよりは中堅かな)の四人。マルチェッロの堀内康雄はやっぱり巧い。緩急自在な歌唱で示す表現力の豊かさと演技の巧みさは出演者随一。全体のバランスからすると堀内さんは巧すぎるかも・・・(贅沢なことを>自分)。そういう意味では久保田真澄のコッリーネはバランス的にぴったりの好演。三浦克次のショナールはベテランらしい安定した出来栄え。バランス的には少し年増な感じがしないでもないけど・・・。ムゼッタの高橋董子は我侭でオキャンな役柄をいつもながらフォームの整った良く通る歌声で見事に表現していました。
藤原歌劇団合唱部の合唱は第3幕ではやや荒さがあったものの第2幕では活気のある歌声を聞かせていましたし、多摩ファミリーシンガーズの児童合唱も子供らしい元気な歌声が良かったと思います。
演出は若者というよりは若手の岩田達宗。公演プログラムで自身が書いている通り、比較的シンプルな舞台装置は30歳という若さでパリで客死した佐伯祐三(郵便配達夫が一般的には一番有名かな?)の絵のイメージそのもの。全体的に暗めで落ち着いた色調をベースに、シンプルな光と歌手達の演技で彩りを加える形と言えるでしょうか。上部から吊るされた幕に描かれた絵とシンプルな装置を巧みに組み合わせていて、第2幕では立体的な導線が実現されえいたのが見事でした。音楽と演技のシンクロも細部まで良く描かれていましたし、安心して音楽に浸れる好演出だったように思います。
ミミの命が残り少ないことを示すかのように音数が減っていく第4幕はやっぱりぐっとくるなあ。この場面で室内楽的な美しさが際立っていた今日の演奏が、それに拍車を掛けていたのは言うまでもありません。
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