I.ボストリッジ/R.バボラーク/J.メルクル/水戸室内管 定期演奏会 R.シュトラウス/ブリテン/ベートーヴェン
上野で若手ピアニストを聴いたあと特急に乗車し定刻どおり出発進行。その直後に発生した地震で現地にたどりつけず、このオーケストラの演奏会を聴くことが出来なかったのは昨年の7月。今回はボストリッジとバボラークがブリテンのセレナードを取り上げるというので、勇んで発売当日にチケットを予約した次第。今日はメルクルの振る水戸室内管(MCO)の演奏会を楽しみに、柏からフレッシュひたちに乗って水戸へ。
水戸室内管弦楽団 第66回定期演奏会上野からではなく途中駅から乗車したところ案の定自由席は満席、立ったままで家のポストからそのまま持ってきた夕刊なんぞ読んでみたり。土浦で降りる方が結構いて、立っていた人もほぼ座れたのでは。しばらくうとうととしているうちに定刻どおり水戸に到着、今回は何事も発生しなくてよかった(笑)。
1. R.シュトラウス : 組曲「町人貴族」 作品60 2. ブリテン : セレナード 作品31 ‐休 憩‐
Intermission3. ベートーヴェン : 交響曲第8番 ヘ長調 作品93
テノール : イアン・ボストリッジ(2) ホルン : ラデク・バボラーク(2)
準・メルクル指揮 水戸室内管弦楽団 (コンサートミストレス:安芸晶子(1)/渡辺實和子(2)/潮田益子(3)
2006年11月18日 19:00 水戸芸術館 コンサートホールATM
プログラムの1曲目はR.シュトラウスの組曲「町人貴族」。この曲でのMCOは弦を Vn-Vc-Va/Cb右 の配置で 6-4-4-2 の編成。ホルンとティンパニを右側、ピアノとハープそして打楽器を左側に配していました。R.シュトラウスの劇付随音楽「町人貴族」はその成立の経緯からオペラ「ナクソス島のアリアドネ」との関連が深い作品で、全17曲から9曲を編んだのがこの組曲と相成ります。
この曲はR.シュトラウスらしい豊潤さは加わっているものの、バロック音楽の巧みな取り入れ方や明るい響きは、まるでR.シュトラウス版「プルチネルラ」の趣。メルクルとMCOは爽やかな豊かさを感じさせる明るく瑞々しい響きで奇を衒わずに適度なメリハリを付けながら曲を進めていきます。全体的に見るとアンサンブルもサウンドも良好なのですが、名手揃いのMCOでもこの曲は難易度が高そうだなと。ソロも含めた各パートの凸凹がやや目立ったり、パート間のキャッチボールがいまひとつ魅力的でなかったり。特に気になったのは時折不安定になるピッチと響きの線が補足なってしまうヴァイオリン。コンミス安芸晶子のソロもちょっとした歯車の噛み合いが悪いだけなんだろうけども、今ひとつ冴えが見られない。
とはいえ、繊細な弦合奏で始まった第7曲以降はしっくり感が増してきて、様々な引用が含まれる終曲は安心して身をゆだねることが出来ました。ヴィオラ以下の弦楽が終始安定した瑞々しい響きで全体を支えていたのが心強かったなと。随所に散りばめられている技巧的なソロのなかでは、クラリネットのフックスが冴えていました。あと3回(水戸/鎌倉/福岡)本番があるようなので、闊達で愉しいキャッチボールが実現することを期待します。
プログラムの2曲目はjosquin的には今日一番楽しみにしていた、ボストリッジとバボラークを迎えたブリテンのセレナード。弦楽のみのMCOは配置はそのままで、8-6-5-4-2と弦を増強した編成。ソリストは指揮台前の左側にバボラーク、右側にボストリッジという配置。
プロローグに代表される野趣あふれる自然倍音から柔らかなピアニッシモまでホルンの妙技を存分に堪能させてくれるバボラーク、抜群の表現力で情景を描写しイギリスらしい毒気を含む詩の世界を見事に歌っていくボストリッジ。二人ともソリスティックでありながら、妥協の無いコラボレーションが実現していく様は見事としか言いようがありません。メルクルとMCOは部分的にもっと切れが欲しいなあと感じるところもありましたが、繊細で美しい音色と良好なアンサンブルで二人を支えていました。
プロローグにおける自然倍音の野趣、パストラールの黄昏の情景描写、ノクターンではこだまの絶妙な掛け合い、エレジーの危なげのないホルンのハイトーンが描く不安、壮絶な歌というか語りで畳み掛ける追悼の歌、快活な賛歌の楽しさ、そしてソネットの静寂へ。舞台裏から聞こえるエピローグの自然倍音は今度は柔らかく響きます。最初から最後まで途切れない緊張感と曲の並びがもたらす流れの必然性をひしひしと感じる素晴らしい演奏でした。こういう二人でないとこの曲の真価は味わえないのではないかと思えるほど。期待通りの素晴らしい演奏で、水戸まで足を運んだ甲斐があるというものです。
休憩中に配置換えがおこなわれて、弦楽はブリテンと編成は同じながら Cb左/1Vn-Vc-Va-Vn とした対向配置へ。あわせてティンパニも右側から左側へと移動。MCOの総監督を務める吉田秀和さんが最初から会場で聞いていましたが、後半の演奏が始まる直前に客席に戻った際に客席から拍手が沸き起こっていました。
プログラムの最後は対向配置で演奏されたベートーヴェンの第8交響曲。ホルンの1番にはブリテンを演奏したバボラークが座っています(ちなみに、R.シュトラウスは水野信行でした)。メルクルとMCOは優美さと力感を両立し、全体としてきりっとした印象を与える演奏を披露。フットワークの良さを保ちながらも、ほど良く低音を鳴らした安定指向のサウンドのもたらす安心感も好感が持てます。
第1楽章冒頭は優美な感触がなかなか魅力的で、きりっとした部分との対比が楽しい。「ステロイド入りのハイドン(by サイモン・ラトル(多分))」的な味わいも顔を出していたのが面白い。第2楽章は木管とホルンのふくよかな響きに乗った弦の歌のセンスの良さが光ります。第3楽章のゆったりと歌わせたトリオはこの演奏で一番魅力的だったかも。チェロの刻みをベースにホルンとクラリネットの対話の愉悦を堪能。ふくよかな響きのコントラバスのピツィカートも効いていました。終楽章はパート間の掛け合いやいろんな動きがよく見えて面白く、聞き応えのある充実した演奏となっていました。
今日聞いた限りではメルクルとMCOの相性は結構良さそうな気がします。時に神経質に感じられることもある彼の繊細な持ち味がうまく生かされているような気がしました。
今日と同じプログラムの演奏会は明日の水戸以外に、月曜日に鎌倉、火曜日に福岡で予定されています。特にボストリッジとバボラークのブリテンはお薦めですので、都合のつく方は足を運んでは如何でしょうか。
(2006.11.19 記)
Comments
ベー8は、いまどきない、竹を割ったような解釈で、こんなのもありなのかと思いました。7番と9番の間だから、妥当性はあります。とはいえ、メルクルは一見、単純明快にやっていながら、図太い響きの向こうに、ファゴットやヴィオラの内声をしっかり聴かせていて、さすがのアーティキュレーションの細やかさでした。
ファゴットのクリュッチュさんが素晴らしいと思ったのですが、josquinさんのご意見やいかに? 周りの人は、彼が指揮者に指されないのを気遣っていたように見受けられました(flの工藤さんも。こちらはあまり良くなかったけれど)。
ボストリッジの並外れた表現力、素晴らしかったですね。
ベートーヴェンは室内オケながら結構フルオケでやるような感じのアプローチでしたね。でも、おっしゃるとおりこまかな動きがよくわかって面白かったですね。
私はクラリネットのフックスさんに耳を奪われていたようで、ファゴットのクリッチュさんは正直あまり印象に残ってないのです・・・m(__)m。工藤さんは最近不調なのかなあ・・・、私もあまり良いとは思いませんでした。
R.シュトラウス版「プルチネルラ」(まさにその通りですよね!)、今日は闊達なキャッチボールを楽しめましたよ。
やはりヴァイオリンの不安定さはありましたし、ホールが大きくややデッドなせいか響きがやや鋭すぎ、もうちょっと芳醇だったらなぁ、という気もしましたが(水戸ではどうでしたか?)、これだけの名人揃いで初めて聴き応えのある音楽になる、ということも改めて感じました。
完全無欠なバボラークのホルン、ブリテンを歌うために生まれてきたようなボストリッジの声、こんな「セレナード」今度いつ聴けるでしょうね。
この20世紀の鮮やかな2曲の後でベートーヴェンってなんてモダンなんだ、ことも思いましたね。こういうプログラミング、とても好きです。
闊達なキャッチボールにはある程度の回数が必要なんでしょうね。響きについては水戸芸術館のホールを満たすに充分な豊かさはありました。
ブリテンのセレナード、また両者の共演があることを望みたいですね。
古典を最初にもってくるプログラミングも良いですが、今回は最後で良かったなと私も思いました。