E.インバル/都響/鈴木学 プロムナード ブロッホ/ショスタコーヴィチ
1999年10月にワルキューレの演奏会形式上演を完結して以来、どういう事情があったのかは不明ですが関係が途絶えていたこの組み合わせ。今日は、実に7年ぶりとなるインバルと都響のショスタコーヴィチを楽しみに赤坂へ。
東京都交響楽団 プロムナードコンサート No.320今日の都響は弦を1Vn-2Vn-Va-Vc/Cb右とチェロを外側にした並びで、前半は14型そして後半は16型の編成。ホルン、チェレスタ、ハープは左側に配置していました。第1ヴァイオリンの第1プルトには矢部達哉、山本友重の両コンサートマスターが陣取る布陣でした。
1. ブロッホ : ヴィオラと管弦楽のための組曲(管弦楽版日本初演) - 休憩20分/Intermission 20min. - 2. ショスタコーヴィチ : 交響曲第11番 ト短調 作品103 「1905年」
ヴィオラ : 鈴木学(1)
エリアフ・インバル指揮 東京都交響楽団 (ソロ・コンサートマスター:矢部達哉)
2006年11月19日 14:00 サントリーホール 大ホール
まずはブロッホのヴィオラソロをフィーチャーした管弦楽版日本初演となる作品から。今日のソリスト・都響首席の鈴木学が、マエストロ・インバルと共演するのならと選んでOKをもらった曲だそうです。今回初めて耳にしましたが、ブロッホの作品としてはユダヤ的な味わいが薄めでとっつきやすい印象。終曲にいくほど東洋的な雰囲気が増してきて、最後の第4曲は五音音階を用いた明るい活気に満ちています。ブロッホはこんな作品も書いていたんだなあと妙なところに感心。
鈴木学は暖かみのある音色で的確に曲を表現、自ら提案するだけに曲を手の内に入れていることは明らか。もう少し存在感があると更に良かったかもしれません。インバルと都響は精緻なアンサンブルと深みの感じられれる美しい音色、そして絶妙の音量バランスで鈴木学を引き立てる万全のサポート。さぞかし弾きやすかったのではないかと思います。この曲の特徴を味わうにはもってこいの好演でした。(人によっては)ややとっつきにくい印象があるブロッホに近づくには、シェロモなどよりも好適な作品ではないかと思います。
さて後半は今日のお目当てであるショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905年」。いやはや7年間のブランクを微塵も感じさせず、都響の能力を最大限に引き出した見事な演奏でした。やや早めのテンポを設定し、徹底的にあざとい表現を廃した引き締まった造形で描いた超辛口のショスタコーヴィチ。インバルは各パーツのひとつひとつを、その特色が更に生かされるように徹底的に磨き上げて曲を構築していくタイプの指揮者ですが、その特徴が最大限に生かされていました。都響も深いコクと鋭利な切っ先を両立した音色と精緻で切れ味の良いアンサンブルで、インバルの要求にほぼ万全の形で応えていました。緊張感溢れるピアニッシモからソノリティを失わないフォルティッシモ、各パートのソロも冴えに冴えていて、最近の都響では出色のパフォーマンスだったように思います。
ハープとティンパニをやや強めに弾かせて、単なる情景描写ではないことを端的に表した第1楽章冒頭部分。高橋敦の鋭利なトランペットの響きもそれを更に助長します。インバルの甘さを廃したアプローチが、民衆の抑圧された状況を指し示しているよう。
第2楽章は多少荒っぽくてもとにかくド迫力で押す演奏とは正反対のアプローチ。整然と引き締まったオーケストラのアンサンブルがソノリティそのままに迫力を増していく様子が、却って軍隊が民衆を蹂躙する戦慄の情景のリアリティを増ていました。軍隊が去ったあとの弦がキュルキュルと鳴るあたりも、恐ろしいほどリアルに聞こえましたね。
続く第3楽章冒頭の弦楽のピツィカートは息をするのば憚れる程の緊張感が実にしびれる。声にならない声を代弁するヴィオラによる哀歌も、抑制された表現が余計に悲しさを助長。民衆の声を集めたクライマックスの慟哭を経て、再びヴィオラの哀歌から弦のピツィカートの緊張感へと戻る悲しみのアーチもまた見事に構築されていました。
終楽章も甘さの無い引き締まった表現が、曲の核心を突くインバル節は冴え渡っていました。第1楽章冒頭の情景が戻ってきた後、悲しみを湛えたコーラングレのソロがまた絶品。整然と進むコーダのもたらす怒涛の迫力はショスタコーヴィチの抵抗の証だったのかもしれません。
今日はいつものように記録用のマイクが設置されていましたが、後半のショスタコーヴィチはこのままマスタリングしてCDとして販売出来るのではないかと思うほど、完成度の高い優れた演奏だったように思います。今日のインバルと都響、来週の定期への期待が更に高まる本当に素晴らしい演奏でありました。
Comments
速めのテンポと切れ味のいい都響の音とがぴったりきて、深い感動を与えてくれる演奏でしたね。最後にブラボーのフライングがなければ、もっとよかったのですが。
次の都響定期も楽しみです。
あの切れ味の鋭さはインバルならではでしたね。
フライング・ブラボーについても同感です。
あの音楽をどのように聞くとあの反応が出来るのか不思議です。
定期で演奏されるアルプス交響曲も楽しみです。
よかったのはブロッホ、初めて聞く曲ですが親しみやすく拾い物 確かにシェロモより好ましいです 鈴木学もなかなかでした
シェロモはどちらかというとユダヤ色が濃すぎてなんとなく苦手だったのですが、この曲は親しみやすくてすんなり入れました。鈴木学の演奏も、インバルと都響のサポートも良かったですね。