えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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二期会 コジ・ファン・トゥッテ 林正子/宮本益光/P.ヴェロ/東京フィル

2002年の「フィガロの結婚」、2004年の「ドン・ジョヴァンニ」と新演出を披露してきた宮本亜門演出によるダ・ポンテ三部作シリーズもこの演目で完結。今年9月におこなわれた「フィガロの結婚」の再演でも、ホーネックと読響の魅力的な音楽と共にブラッシュアップした舞台で楽しませてくれたのも記憶に新しいところ。今回も前2作のプレミエと同様にパスカル・ヴェロが指揮する東京フィルの組み合わせ。今日は二期会のコジ・ファン・トゥッテのAキャストによる公演を楽しみに日比谷へ。
東京二期会オペラ劇場 コジ・ファン・トゥッテ

ヴォルフガンク・アマデウス・モーツァルトコジ・ファン・トゥッテ KV588
(オペラブッファ全2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演 完全全曲上演)

フィオルディリージ林正子
ドラベッラ山下牧子
フェランド鈴木准
グリエルモ宮本益光
デスピーナ鵜木絵里
ドン・アルフォンソ加賀清孝

パスカル・ヴェロ指揮東京フィルハーモニー交響楽団
(コンサートマスター:青木高志)
二期会合唱団
(合唱指揮:松井和彦)
フォルテピアノ山口佳代
チェロ黒川正三

演出宮本亜門

2006年11月5日 15:00 日生劇場
序奏をやや遅め、主部に入ってからは早めのテンポを取り、細かな動きにメリハリを付けながら序曲を進めるヴェロと東フィル。マエストロ・ヴェロの演奏に接するのは久しぶりですが、こんなに独特な(というか面白い)動きをするマエストロだったかなあ・・・。

もう少し会場が響くといいのになあと思いつつ聴き進めると序曲の後半で幕が上がり、舞台左端前方に見えるのはドン・アルフォンソの書斎。3人の従者を従え、机に向かって紙にペンを走らせているドン・アルフォンソ。舞台の中央には三方を高い壁で囲んだ舞台が据え付けられています。宮本亜門の演出はドン・アルフォンソが書斎で記した企みを、中央の舞台を中心に繰り広げるというのが基本コンセプトのようです。

宮本亜門はフィガロの結婚と同様に、ナンバーやレティタティーヴォを問わず登場人物を活発に動かし、泣き笑い怒り悲しみ等々のその時の感情をストレートに歌や演技で表現させる方法で、躍動感のあるわかりやすい舞台を作っていきます。登場人物の感情もその場限りのものではなく、次の場面へもつながりをかなり意識したものになっていました。第2幕の婚礼の場面、グリエルモがフィオルディリージの裏切りへの怒りが収まらない様子を描いていたのが代表的なところ。照明もいままで以上に積極的に活用して、場面毎の状況を美しくかつ効果的に表現していました。ユーモアの要素もふんだんに盛り込まれており、デスピーナが医者に扮して(衣装がカラフルで面白かった)治療する場面で、巨大な磁石が天井から降りてきたのには笑いしました。フィガロの時よりも活発でドラマティックと言っても良い舞台になっていたと思います。

そんな動きの激しい演出に応えて積極的に演技をし、水準以上の歌唱を聞かせてくれた歌手達にも拍手を。重唱等ではもう少しハーモニーの純度を上げたいところもありましたが、良好なアンサンブルを聞かせてくれました。落ち着いた深みの感じられる声と細かい音形をこなす確かな技術で思慮深いフィオルディリージを歌い演じた林正子。彼女とは対照的にはっきりとした歌い口で活発なドラベッラを表現した山下牧子。グリエルモの宮本益光は宮本演出にうってつけの歌手ですね、演出の意図を生かした歌も演技は本当にお見事。フェランドの鈴木准は今年7月に三鷹での演奏会形式上演(TMP定期/沼尻指揮)で聞いたときよりも、表現の平板さが解消されていましたね。高音の続くアリアも確かな技術で安心して聞くことができました。デスピーナの鵜木絵里はまさにはまり役。活発に動き回る生き生きとした演技、力強さをも感じる存在感のある歌唱はお見事。変装シーンでの声色を変えた歌も巧いし、公証人が証書を読み上げる際の間は絶妙でした。ドン・アルフォンソの加賀清孝は声量の豊かな甘い声は相変わらず魅力的。最初はややヴィブラートが気になり重い感じがしましたが、ペースに乗った後はさすがベテラン軽妙かつ存在感がありますね。

ピットに陣取ったパスカル・ヴェロは、動きのあるリズムにメリハリを付けて結構ドラマティックな演奏で舞台を支えていたように思います。マエストロ・ヴェロと宮本亜門の組み合わせ、今回が一番良かったのではないでしょうか。東京フィルもマエストロの棒に良く応え、美しい音色と良好なアンサンブルで応えた好演でした。

序曲で感じた劇場の響きの貧弱さも曲が進むにつれて気にならなくなりました(演奏者の工夫と耳の慣れの両方でしょうか)。モーツァルトを上演するにはこのくらいのサイズの劇場がいいですね。歌い手一人一人の存在感が感じ取れますし。

宮本演出のこのプロダクション、来週もBキャストの好演を楽しむ予定です。今日同様に愉しく充実した上演になることを期待します。
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二期会 コジ・ファン・トゥッテ 増田のり子/与那城敬/P.ヴェロ/東京フィル | えすどぅあ | 2006/11/12 12:27
宮本亜門らしい活気溢れる舞台が繰りひろげられている二期会のコジ・ファン・トゥッテ。先週はAキャストの公演を楽しみましたが、今日はBキャ...