シャトレ座プロジェクトIII レ・パラダン T.レティプ/W.クリスティ/レザール・フロリサン
彼らのパーセルとラモーのオペラからの素敵なハイライトを聞いたのは2003年の2月。是非ともこの人達のバロックオペラ全曲上演に接してみたいなあと思って3年と数ヶ月、ようやくその機会が巡ってきました。シャトレ座プロジェクトの第3弾、クリスティとレザール・フロリサンのレ・パラダンを楽しみに、徒歩で白寿ホールからオーチャードホールへ。
パリ・シャトレ座プロジェクトIII直前にアルジ役で出演が予定されていたサンドリーヌ・ピオーが急病によりキャンセルというちょっと残念なニュースもありましたが、音楽とダンスとCGが見事に手を取り合った実に完成度の高い上演を披露してくれました。
レ・パラダン ‐遍歴騎士‐
・ ジャン=フィリップ・ラモー : レ・パラダン ‐遍歴騎士‐ ‐3幕からなる喜歌劇&バレエ‐
アティス : トピ・レティプ アルジ : ステファニ・ドゥスラック ネリーヌ : アンナ・バヨディ 妖精マント : フランソワ・ピオリーノ オルカン : ジョアオ・フェルナンデス アンセルム : ルネ・シレール 遍歴騎士の1人 : レイフ・アルンヌ=ソレン
ウィリアム・クリスティ指揮 レザール・フロリサン(管弦楽/合唱) (コンサートマスター:フロランス・マルゴアール) (合唱指導:フランソワ・バゾラ)
ダンサー/モデル/トランポリニスト : クレテイユ&ヴァル・ドゥ・マルヌ国立振付センター
モンタルヴォ・エルヴュ・カンパニー
演出/振付 : ジョゼ・モンタルヴォ/ドミニク・エルヴュ
2006年11月4日 16:00 Bunkamura オーチャードホール
まずは、クリスティ率いるレザール・フロリサンのオーケストラと合唱が素晴らしい限り。クリスティの全体に配慮が行き届いた統率力は実に見事。遅すぎず早すぎず歌い手と踊り手そして聞き手にジャストフィットする絶妙なテンポ設定。舞曲はリズムが生き生きとしているし、アリア等のニュアンス豊かなサポートも抜群。オーケストラは弦と管がまろやかにブレンドされ、柔らかく優美だし。合唱もハーモニーの純度が高いだけでなく、生き生きとした歌いぶりがまた良し。木管楽器が指揮者の左右に舞台側を向いて配置されていたのも、まろやかなブレンド感をもたらした一因かと思います。今日の彼等の演奏、3年前に聞いて抱いたイメージそのまま、いやそれ以上の満足感を与えてくれました。
ピオーがいなくても粒揃いの歌手達は皆バロック唱法を身に付け、(母国語でないと思われる歌手も含めて)フランス語の発音がとても綺麗。そここに美しい鼻母音が聞こえてきて実に愉しい。ほぼ同一メンバで何度も上演している故もあり、役柄が手の内に入っていてレザール・フロリサン同様にニュアンス豊かな歌唱を披露してくれました。また、皆オペラ歌手とは思えないほど体のキレが良く、本職のダンサーと共に軽やかに歌い踊っていましたのにも感心。有料プログラム誌上のインタヴューで「身体的感覚が鋭い歌手を選びましたから。」というクリスティの発言も納得。粒揃いの歌手の中でもアレジ役のドゥスラックは頭一つ抜けていて、充実した美しい声と表現力が素晴らしい。第3幕のアリアは抑えた表現のなかにも役柄の情感が見事に表出された歌唱が見事でした。ピオーの代役を担ったバヨディも好演、ただドゥスラックと伍すには少し役者不足だったかも。アティス役のレティプの凛々しさ、妖精マント役のピオリーノの道化キャラクターもまたよし。妖精マントとアンセルムの求愛場面は、珍妙なやり取りが面白かったなあ・・・。
モンタルヴォとエルヴュによるダンスとCGで構成された演出も、ラモーの音楽に見事に合致していて感心しきり。歌手達に分身のように常に寄り添い踊るダンサーの踊りは効果的に音楽を補強して説得力を高めていましたし、ヒップホップに代表される現代舞踊がこんなにもラモーの音楽に違和感なくマッチするものとは。ダンサーにも一人一人にテーマが与えられていて、全編を通じて統一感をあたえるモティーフのようでもありました。色恋の場面で登場し、お尻の大きなやや太めの女性が腰を回しながら踊るダンサーは妙に印象に残りました。青空を背景にしたCGも毎日微妙に変わる「なまもの」である音楽とのシンクロもぴったり(どうやって合わせるのだろう・・・)。錯視を効果的に使った歌手やダンサーとCGとの共演、衣装も含めたカラフルな色使い、CGや振り付けそして風船を連ねた小道具等全編にわたるユーモアのセンスも抜群でありました。(一箇所だけ、トランポリンの音はちょっと気になったけど)踊りでのノイズは当然生じるのですが、あまり気にならなかったのは音楽との一体感が優れていた証でしょう。後半に生まれたままの姿で登場する男女のモデルも妙な検閲も無く「ありのまま」だったのも自然でした。
今日の上演、ラモーの優雅な音楽と今風のダンスそしてCGが見事に融合した総合エンタテイメントになっていましたね。惜しむらくはやや空席が目立ったのが残念。クラシック音楽系だけでなく、多方面に宣伝すればもっと客席は埋まったのではないかなあと。それをしていてこの集客なら仕方ないのですが・・・。
カーテンコールが終わったあと、もう一回楽しみたいなあと思いつつ会場を後にしたjosquinなのでした・・・。
(2006.11.12 記)
Comments
やはり私も1点惜しいと思ったのは空席の多さです。この公演、あきらかに座席設定が強気だったように感じました。C席以下の占める割合が極端に低かったように感じました。子供たちを招いたワークショップまで開いたのなら、チケットの値段設定も若者が多く聴きに来られるようなものにできなかったでしょうか。舞台は若々しいのに、客席はいい(悪い?)大人ばっかりだったように映りました。
今回のチケット、C席以下は早々に売り切れたのにB席以上はずーっと残ってたのがちょっと不思議でした。値段設定の問題もあるでしょうが、バロックオペラってあんまり興味ないのかなあ・・・なんて思ったりもしました。
客層はワークショップに参加したと思しき子供連れはいたものの、招待客以外はいつもとあまり変わらない漢字でした。幅広い層に希求するには、やっぱり値段が高すぎるんでしょうね。