<< 児玉桃/P.ハルフター/新日本フィル トリフォニー定期 アルベニス/プーランク/プロコフィエフ | main | Y.バシュメット/東京フィル オーチャード定期 シューベルト/ホフマイスター/チャイコフスキー >>
新国立劇場 運命の力 A.シャファジンスカヤ/井上道義/東響
このオペラに接するのは、私の記憶が確かなら今回で3度目。1度目は2001年1月のゲルギエフ&キーロフ来日公演で上演された原典版、2度目は2000年9月のムーティ&スカラ座の(字幕なしの)来日公演。昨年は首都オペラでも取り上げられましたが、スケジュールが合わずにjosquinは不参でありました。今日はエミリオ・サージの演出、井上道義と東響がピットに陣取る運命の力を楽しみに初台へ。
新国立劇場 2005-2006シーズン 運命の力腕を突き出して冒頭の運命の三つの音の繰り返しを大きな間を挟んで、はっきりと長めに吹かせるマエストロ井上道義。テンポの緩急を明確にし、メリハリを大きくつけてドラマティックに進む序曲はミッチーらしい。そんな彼らしいけれんだけではなく、音の透明感を大事にしたピアニッシモの美しさがとても印象的。幕が開いてからも動的な部分のドラマティックな表現と静謐な祈りの響きの美しさの双方に、しっかりと焦点を当てたアプローチは見事に実を結んでいたように思います。丁寧に歌手への配慮をしながら、手綱をしっかりと握って全体をまとめた手腕が光りました。周到な準備が伺える、井上道義快心のオペラ公演ではないかと思います。東響もここぞというところでの迫力と、幕を追うごとに透明感を増していくピアニッシモの美しさが実に見事な演奏でした。本当に控えめながらも、舞台のドラマを感じた音楽の表情があちこちに聞かれたことも記しておきたいところ。第2幕第2場(だったと思う)のヴァイオリンSoliのいささかもぶれない美しさ、第3幕冒頭のクラリネット・ソロは実に見事な演奏を披露してくれました。
・ G.ヴェルディ : 運命の力 【全4幕】(イタリア語上演/字幕付)
レオノーラ : アンナ・シャファジンスカヤ ドン・アルヴァーロ : ロバート・ディーン・スミス ドン・カルロ : クリストファー・ロバートソン プレツィオジッラ : 坂本朱 グァルディアーノ神父 : ユルキ・コルホーネン フラ・メリトーネ : 晴雅彦 カラトラーヴァ侯爵 : 妻屋秀和 クッラ : 鈴木涼子 マストロ・トラブーコ : 加茂下稔 村長 : タン・ジュンボ 軍医 : 片山将司
井上道義指揮 東京交響楽団 (コンサートマスター:グレブ・ニキティン) 新国立劇場合唱団 (合唱指揮:三澤洋史)
演出 : エミリオ・サージ
2006年3月18日 15:00 新国立劇場 オペラ劇場
歌手達の中ではレオノーラを歌ったアンナ・シャファジンスカヤが素晴らしい出来栄え。憂いを含んだ充実した声が役柄にぴったりですし、ドラマティックな表現のみならず思いを内に秘めた抑えた表現も出来るのが強み。どのアリアも見事でしたが、特に終幕のアリアは思いがひしひしと伝わってくる素晴らしい歌を披露してくれました。
レオノーラの恋人役、ドン・アルヴァーロはロバート・ディーン・スミス。第1幕では声質の甘さと歌い口の甘さの双方が裏目に出てしまい、いまひとつピリッとしない感じ。しかし、第2幕以降は声に憂いが出てきて歌い口も締まってきてなかなか聞かせます。特に、第3幕冒頭のアリアは役柄の思いが切々と表現されていて見事でした。
レオノーラの兄、ドン・カルロはクリストファー・ロバートソン。バリトンというよりはヘルデン・テノールのような声の響きが特徴的。終始引き締まった歌を披露していましたが、もっと思い切った表現がほしいところもちらほら。第3幕第1場でドン・アルヴァーロが助かって「これで、仇が討てるぞ!」と喜ぶ部分は爆発的な表現が欲しかったなあと。
ジプシーの娘、プレツィオジッラは坂本朱。彼女らしい深く包み込むような声と歌は魅力的なのですが、この役ではもう少し切れと汚れた感じが欲しいかも。舞台上での動きも少しお嬢様的で、なりふり構わず豪壮に振舞う思い切りがほしいところ。
修道院長グァルディアーノ神父はユルキ・コルホーネン。役柄に相応しい癖の無い声の響きを生かした好演。晴雅彦のフラ・メリトーネは道化キャラがこの人にぴったり。トラブーコを歌った加茂下稔も相変わらずいい味を出してますね。ほかには、村長を歌ったタン・ジュンボの引き締まった歌唱が印象に残りました。
新国立合唱団は相変わらず好調。第2幕第1場ではもう少し勢いと言うか活気が欲しかったところも無きにしもあらず。しかしながら、第2幕第2場での祈りの合唱の美しさ、第3幕第2場「ラプラタン」の見事なリズムとアンサンブルでの歌声は見事でした。
演出のエミリオ・サージは時代設定を20世紀に移していましたが、丁寧に人物を描いた奇を衒ったところの全く無い音楽に集中できる好演出。スペインの英雄達(?)の名前が刻まれた幕を含め、少し濃い赤を主体とした色調と紗幕と照明を効果的に使った人物群の登場がとても鮮やか。第3幕の戦闘シーンは効果音を使わずに、ドンパチは井上道義と東響に任せても良かったのでは・・・。第2幕であらわれた修道院を示す囲いが、終幕では小さくみすぼらしくなり、(演出家曰く)ドン・アルヴァーロの心の内を示していましたが、それよりも幕切れでドン・アルヴァーロの頭上に降る純白の雪が示すかすかな希望がとても印象に残りました。
Comments
最近の新国は、公演の質も安定していて、楽しみな団体です。これからもちょくちょく報告しますのでよろしくお願いします。
TB,ありがとうございました。
毎度、緻密で正確なレポートに感動!
ありがたく読ませていただきました。
お陰さまで、もう一度舞台を思い出して、
おさらい&味わいなおすことができました。
私も、あの効果音はちょっと余計な気もしましたが、
ま、悪くもないかな・・・みたいな。。。笑
opendoorさん> これからもちょくちょく報告しますのでよろしくお願いします。
最近遅れ気味で書くことが多いのですが、こちらこそよろしくお願いします。
Honeyさん> ま、悪くもないかな・・・みたいな。。。笑
ミッチーがピットにいなければ、私もそう思ったかもしれません・・・(笑)。
ゲネプロ見学は日程が空いていたので、申し込んだのですが見事に外れてしまいました(笑)。独りよがりなんてとんでもない、まーどんなさんの感想読ませていただきます。
こちらからもTBさせていただきました、今後もよろしくお願いします。