藤原歌劇団 アドリアーナ・ルクヴルール ヴィッラロエル/菊池彦典/東響
藤原歌劇団 アドリアーナ・ルクヴルールまずは主役&代役のヴィッラロエルとジョルダーニから。2人とも明るく伸びやかな声ではないキャラクターの持ち主で、陽よりも陰に向かった表現が上手ですね。ヴィッラロエルはもっとダイナミックな歌い方をする人ではないかと思うのですが、そうするとこの繊細な作品の持ち味とは違ってしまう。地声的な感じに聞こえない低声の充実た響き、繊細なメロディーを確かな技術力で丁寧に声をコントロールして歌っていたのが印象的でした。第3幕の有名なフェードルの朗唱は見事でした。ジョルダーニもやや甘めの声ですが、常に陰を感じる歌唱。高い声が抜けよく決まるともっと良いのですが、要所はきちんとおさえていたように聴きました。2人とも代役の重責を見事に果たしていたと思います。
・ フランチェスコ・チレア : アドリアーナ・ルクヴルール
アドリアーナ・ルクヴルール : ヴェロニカ・ヴィッラロエル マウリツィオ : マルチェッロ・ジョルダーニ ブイヨン伯爵夫人 : エレーナ・カッシアン ミショネ : 堀内康雄 ブイヨン伯爵 : 久保田真澄 シャズイユ僧院長 : 持木弘 マドモワゼル シュヴノ : 小林厚子 マドモワゼル ダンジュヴィル : 永田直美 ポアソン : 小山陽二郎 キノー : 田島達也 公爵の執事 : 納谷善郎
菊池彦典指揮 東京交響楽団 (コンサートマスター:グレブ・ニキティン) 藤原歌劇団合唱部 (合唱指揮:及川貢)
バレエ : スターダンサーズ・バレエ団
演出 : マウロ・ボロニーニ 演出補 : シルヴィア・カッシーニ
2005年8月27日 15:00 東京文化会館 大ホール
ブクヴルールの敵役ブイヨン伯爵夫人を歌ったのはカッシアン。深い響きと強さを持った声で気の強い伯爵夫人を歌い演じていました。もう少し表現の多彩さが欲しいところもありますが好演だったと思います。堀内康雄のミショネはニュートラルな歌い口で安定感がありますね。このオペラ全体をきっちりと支える役割を充分に果たしていたと思います。久保田真澄のブイヨン伯爵はもう少し個性が欲しい気もししましたが非常に素直な声と歌でした。
このオペラは歌手達の軽妙なアンサンブルも聞き所、第1幕の六重唱はもう少し練れたアンサンブルを聴きたかったかと。第4幕の4重唱はコミカルな味がよく出ていて良いアンサンブルを聞かせてくれました。
菊池彦典が指揮する東京交響楽団は第1幕ではややバラバラとした感じがありましたが、徐々に整ったアンサンブルを聞かせてくれました。菊池彦典の指揮は動きのないガチガチに固いヴェルディの仮面舞踏会を聞いて以来あまり良い印象がないんですね。しかしながら今日は繊細な音色と生き生きとした表現と、カチカチでない流動性のある音楽を聞かせてくれて満足(笑)。東京交響楽団もそんな棒に段々と調子を上げて応えていました。特に、第3幕フェードルの朗唱の伴奏はヴァイオリンソロを含めて美しい演奏を聞かせてくれました。
ボロニーニ&カッシーニの演出は落ち着いた色調のオーソドックスな舞台装置と全く奇をてらったところのない演技付けが特徴。安心して音楽に浸れる演出でした。なんでも今回の舞台装置は1966年にローマ歌劇場で制作されたものなんだそうです。きっちりと作りこんでいるところと、それとうまく馴染むように簡素化(書割にしていたり)しているところのバランスがとてもうまく作ってあって感心しました。
実はアドリアーナ・ルクヴルールというオペラを聞くのははじめてなのであります。プッチーニのように直接的に涙腺を直撃するような音楽とはまた違った繊細な趣があって楽しめますね。最終的には悲劇なんですが、軽妙でコミカルな部分をうまく盛り込んでバランスを取っているなあと思います。そんな作品の特徴を充分に楽しめる上演だったように感じました。
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