青少年のためのオペラ フィガロの結婚 寺田功治/小澤征爾/音楽塾オーケストラ/東京オペラシンガーズ
松本市民芸術館の館長串田和美とSKFの総監督小澤征爾が長野県内の中学生のために企画した「青少年のためのオペラ」。昨日と今日で計4回のうち最後の公演は一般公開され、チケットがはがきでの申し込みにより販売されてjosquinも購入することが出来ました。22日と同様に街中から歩いて松本市民芸術館へ。
青少年のためのオペラ フィガロの結婚公演は全4幕のオペラを約80分程度にまとめて、笹野高史と花山佳子の軽妙なストーリー説明と演技により曲を挟みながら進行されていきます。舞台上は奥からS字状に曲がりくねった白い道が、舞台上で空中へ1回転してピット左側へと入っていくシンプルな構造物を設置。開演のベルが鳴りオーケストラのメンバはその道を通ってピット内へ。チューニングが終わるタイミングで赤い衣装を身にまとった進行役の笹野高史(=男)と花山佳子(=女)が登場し、夫婦喧嘩の演技で笑いを取りながら語り始めます。そのうちに小澤征爾も奥から登場し笹野さんに一言「このひと中学生相手にも話ひどいこと言うんですよ(笑)」と話してからピットへ。
・ モーツァルト : 歌劇「フィガロの結婚」(抜粋)
伯爵 : 高田知弘 伯爵夫人 : 井上ゆかり スザンナ : 李恩恵 フィガロ : 寺田功治 ケルビーノ : 佐藤早穂子 バルバリーナ : 三宅理恵
男 : 笹野高史 女 : 花山佳子
小澤征爾指揮 小澤音楽塾オーケストラ 東京オペラシンガーズ (合唱指揮:キャサリン・チュウ)
演出 : 串田和美
2005年8月26日 15:00 まつもと市民芸術館 主ホール
序曲が始まると細い白いパイプを髪の毛に模したかつら(?)をかぶり、白と黒を基調とした衣装をまとった登場人物達が現れます。そして、進行役2人に操り人形のように操られカクカクとした動きをみせます。進行役はストーリーを説明したり、また台詞を代弁したり、はたまた演技の補助をしたりと大活躍。冒頭の夫婦喧嘩に代表するように男女の関係の縮図(おおげさかな?)としての役割も与えられていました。ちょっとストーリーの説明が長いなあと思うところもあるのですが、それはそれだけ内容を端折っている証。歌手達は歌の部分とレチタティーボは原語、進行役と絡む部分等は日本語の台詞。串田和美の演出は先に記した構造物以外は舞台には何も置かれず、小道具と照明で情景を表し歌手達と進行役の演技で進めるシンプルなもの。串田和美がオペラを手がけるのは初めてだそうですが、加藤直のよく練られた台本と相まって「大人もあんまり変わらないでしょ?」というメッセージが素直に伝える演出だったと思います。演劇畑で串田さんがどういう演出をしているのかは知らないのですが、一度彼の本格的なオペラ演出も見てみたいものです。
男女3組6人の歌手達は皆癖の少ない歌声を披露。最初はそのカクカクした動きの部分では声の伸びやかさがやや失われている印象でしたが、自然な体の動きが出てくると声の伸びや生彩が出てきましたね。井上ゆかり(伯爵夫人)の存在感や三宅理恵の清楚で瑞々しい歌唱が印象的。全体的にはもっとそれぞれの存在感が欲しいところですが、2日間4公演の最後ということもあってやや疲れもあったのかなあという気がします。
小澤征爾指揮する小澤征爾音楽塾オーケストラはこざっぱりとして清潔な音楽作り。ただ、弦の艶と量感がもっと欲しいところですがプログラムのメンバ表によれば8-8-4-4-3という編成ですので、妙に背伸びしていない素直な音楽作りという点では好感触。小澤の指揮はいつもよりもリラックスした棒で、ほのぼのとした雰囲気を醸し出していました。そして、合唱を東京オペラシンガーズが担当しているのはなんという贅沢さ。メンバ表を見ても立派にソリストとして活躍している人もちらほら含まれていますね。
今回の凝縮版ではケルビーノの「恋とはどんなものかしら」が入っていないのがちょっと残念。約80分という時間の制約やメインの男女二組へフォーカスを当てることを考えると、仕方ないところなあとも思います。でも全体的によく考えられた再構成(凝縮)になっていましたし、中学生だけでなく大人にとっても入門編として充分に楽しめる公演だと思います。私自身も80分楽しませてもらうことができましたし。
SKF関連では小学生対象の「子供のための音楽会」を開催していて、今年はそれに中学生対象の「青少年のためのオペラ」が加わったことになります。そのうちに高校生向きの企画をと考えるのは自然なことではないかと。若い人への教育事業に熱心な小澤さんですから、小学生から大人へとつながる企画を期待したいものです。
カーテンコールの後はフィナーレの音楽を歌いがら出演者全員、登場した白い道を歩いて舞台奥に消えていきました。
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