ルルといってもベルクがオペラにした悪女ではなく、モーツァルトの魔笛の題材にもなった「魔法の笛」を基にしたクーラウのオペラに登場する勇敢な男性のこと。なんと初演から数えると181年ぶりの舞台上演となった、クーラウのルルを聴きに上野へ。
インターナショナル・フリードリヒ・クーラウ協会 ルル
・ | クーラウ | : | オペラ「ルル」 |
| | | 【全3幕】(日本語上演) |
ルル | : | 福井敬 |
シディ | : | 澤畑恵美 |
ヴェラ | : | 高橋董子 |
バルカ | : | 久岡昇 |
ディルフェング | : | 松本進 |
羊飼い | : | 青地英幸 |
魔女 | : | 武部薫/星野恵理/田村由貴絵 |
羊飼いの娘 | : | 青木雪子 |
幼い少女 | : | 藤山沙保里 |
ペリフェリーメ | : | 夏木マリ(語り役) |
石原利矩指揮 | 東京ニューシティ管弦楽団 |
| 東京合唱協会 |
2005年6月4日 14:00 東京文化会館 大ホール
同じ「魔法の笛」を題材としたモーツァルトの魔笛は宗教的な要素等さまざまな要素を取り入れているのに対し、今日上演されるクーラウのルルは原作に忠実なんだそう。実際の接してみると、悪者にさらわれた姫を勇者が救出するという筋を素直にたどった作品。モーツァルトのような宗教的な要素やエンターテインメント性の付加は行われていません。例えば夜の女王のアリアのような刺激的な(笑)音楽はなく、平易で美しいメロディーに彩られたアリアと適度にドラマティックな味付けが施された音楽で、曲の間を台詞でつないでいく作品となっています。メルヘン的な要素が色濃く残っていて、魔笛よりもずっとわかりやすい作品と言えるかもしれません。参考までに魔笛とルルの主要な役の関係は、タミーノ→ルル、パミーナ→シディ、ザラストロ→ディルフェング、夜の女王→ペリフェリーメ(語役)となっています。
このルルというオペラは初めて耳にするオペラでしたが作品の素の魅力を充分に楽しませてくれた上演だったように聴きました。クーラウ協会を設立しこのオペラの舞台上演に情熱を傾けた石原利矩の誠実な指揮の下、ソリスト、合唱そしてオーケストラそれぞれが役割を忠実に果たしていました。
今回の主要なキャストは
2000年に演奏会形式でおこなわれた上演とほぼ同一(ヴェラ役のみ異なる)の豪華な布陣。東京圏では久しぶりの登場になる(のでは?)福井敬は勇者らしい力強い歌声と役作り。細かい装飾のキレはいまひとつですが、久しぶりに凛々しい安定した歌唱を披露してくれました。澤畑恵美のシディは最初は声が飛ばない印象があったものの徐々に良くなってきて、姫様役に相応しい清楚で美しい歌唱を披露。日本語がもう少し立って聞こえると更に良かったかもしれません。シディのおさななじみ役ヴェラを歌った高橋董子はシディを想う気持ちがよく出た見事さ。いつも安定した歌唱を聞かせてくれます。澤畑との二重唱も美しい出来栄えでした。松本進のディルフェングその持ち声を生かしたネアカな悪役(笑)を好演。ディルフェングの部下バルカを歌った久岡昇も道化的キャラクターを存分に発揮し、いい味を出していました。そして、語り役ペリフェリーメを演じた夏木マリの圧倒的な存在感を挙げないといけませんね。魔笛の夜の女王のアリアに匹敵する程のインパクトがあったと言っても過言ではない素晴らしい出来栄えでした
石原利矩の指揮は作品をスポイルすることのない誠実な音楽作りで全体をよくまとめていたと思います。ただ、余りにも誠実すぎるきらいがあり、表現のメリハリやオーケストラのアンサンブルの磨き上げを欲したくなってしまったのも正直なところ。東京ニューシティ管は恐らく初めて聞くオーケストラですが、美しいサウンドを聞かせていました。特に、ゲスト首席に座ったフルートの名手トーマス・クリスチャンセンのソロの素晴らしさは出色。クリスチャンに触発されたのか他の木管のソロも素晴らしかったですし、アンサンブルもすこぶる良好でした。その反面、弦楽は美しい音色を奏でていましたがいろんな意味で物足りない感じがしました。石原の指揮に起因するところもあるとは思いますが、自主的なアンサンブルを期待したいものです。合唱を担当した東京合唱協会も生き生きと美しい歌声を披露していました。
十川稔の演出は、バレリーナ扮する妖精達をうまく使って作品の持つメルヘン性を良く表現した好感の持てるもの。作品を素直に楽しむには格好の好演出でした。贅沢を言えば、(
実相寺演出の魔笛のようにとは言わないけど)見る側を楽しませる工夫がもっとあると良かったかなあと思います。
もし、この作品の次回上演があるのなら、全体に感じられたある種の冗長さを回避する工夫(音楽面、演出面共に)を求めたいものです。
Comments