ハーゲン・クァルテット ベートーヴェン後期弦楽四重奏曲全曲 第2夜
昨日の第1夜が素晴らしかった、ハーゲン・クァルテットのベートーヴェン後期弦楽四重奏曲全曲演奏会。もちろん今日も第2夜を聴きに飯田橋へ。
結成25周年企画 ハーゲン・プロジェクト ウィーンからの風 4今日の第2夜に演奏されるのは5楽章構成の第15番と7楽章構成でアタッカで続けて全曲が続けて演奏される第14番の2曲。
ハーゲン・クァルテット ベートーヴェン後期弦楽四重奏曲全曲 第2夜
1. ベートーヴェン : 弦楽四重奏曲第15番イ短調作品132 休憩 2. ベートーヴェン : 弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131
ハーゲン・クァルテット
第1ヴァイオリン : ルーカス・ハーゲン 第2ヴァイオリン : ライナー・シュミット ヴィオラ : アイリス・ハーゲン チェロ : クレメンス・ハーゲン
2005年2月25日 18:00 トッパンホール
まず最初は第15番。第1楽章は実の詰まった充実した音と深みのある音色で、内側からの充実した表現の素晴らしさ。第2楽章は中間部の高弦の美しい響きがとても印象的、全体も優美さに満ちています。第3楽章がこれまた素晴らしい限り。ほとんどノン・ヴィヴラートといってよい弦のざらっとした感触を生かしたアダージョの淡々とした歩みと、都合二度立ち現れる「新たな力を」と表題のついたアンダンテの喜びに満ちた響きの対照の素晴らしさ。しかし、昨日から緩徐楽章にはやられっぱなしだなあ・・・(^^♪。第4楽章は冒頭の瑞々しいサウンドが耳を惹き付けます。続くジプシー風な第1ヴァイオリンの激しさも素晴らしい。続けて演奏される第5楽章は、前楽章の雰囲気を引き継いだヴァイオリンの旋律の風情がなんとも言えませんね。メランコリックに、そして激しく。そして生き生きとしたコーダの素晴らしさ。
休憩の後、最後に置かれたのは嬰ハ短調(月光ソナタやマーラーの第5交響曲と同じ)という珍しい調性を持つ第14番。第1楽章は落ち着いた音色の中に、情感のよくこもった表現の素晴らしさ。第2楽章は生き生きとした切れの良いリズムが光ります。ブリッジのような短い第3楽章を経て第4楽章へ。最初のクレメンス・ハーゲンの素晴らしいチェロのピツィカートに支えられた上三声の豊かなうたに始まり、様々なテンポで繰り広げられる各部分の表現の的確さとコントラストの見事さ。途中のピツィカートによる単純な掛け合いの面白さ。この楽章だけではないのですが、他の曲に比べてヴィヴラートをやや多めに使用していたのが特徴的。最後から一つ前の部分での第1ヴァイオリンとチェロに出てくるフレーズの掛け合いと、暖かいハーモニーとの対比。第5楽章は切れの良いリズムからくる小気味よさがなんとも心地よい。さりげないリタルダント、ピッツィカートを初めとする各楽器の掛け合いの鮮やかなこと。コーダで弓を駒近くで弾いて近代作品に通じるような響きのアクセントを付けていたのが印象的。そして決然としたリズムを2回響かせるブリッジを経ての第6楽章は奥深い諦念の表出が素晴らしい。そして最終楽章もギャロップ風のリズムの切れ味の鋭さとメロディアスな部分との対比。コーダに向けての持っていきかたも見事の一言に尽きます。
二日間ハーゲン・クァルテットのベートーヴェンを聞いてみると、伝統的なフォーマルなよさと現代的な切れ味を非常に高い次元で両立しているなあと思います。アルバン・ベルク・クァルテットのオーケストラのようなスケール感とダイナミズムをベースにしているのに対して、彼らは持ち前の繊細さをベースに音楽を構築していくんですね。逆のアプローチだけど。もちろん両方とも素晴らしい(笑)。それぞれの曲の持ち味をデフォルメせずにストレートに等身大で表現する。大見得を切るようなところはない代わりに、激しさと踏み込みの深さそして繊細さで勝負する。音色の面でも大げさなヴィヴラートは全くなく、本当に必要な分だけ。そうすることによって音の純度も上がるし、新鮮なサウンドとハーモニーにつながる。決して艶やかな音色を武器とはしていないので、余計にその新鮮さが引き立つんですね。
終演後はただでさえ一筋縄ではいかない曲ばかりを、最後まで途切れない集中力と緊張感を持った見事な演奏で二日間を弾き切った彼らに惜しみない拍手が送られていました。
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