ホーネック/読響/武蔵野音大 ベートーヴェン:第九
読売日本交響楽団 第20回 富士通 「第九」コンサート神秘性と明晰さを兼ね備えた第1楽章冒頭。早めのインテンポで弦の刻みをはっきりとかつ厚みを感じさせるように演奏させ、リズムの切れと力強い力感を両立させつつ力強いフォルティッシモへ。速いテンポながらアーティキュレーションを徹底させていて、フレージングのおさまり方がすこぶる自然。叙情的な部分での弦の歌わせ方の自然さと音色の美しいこと。木管も個々の奏者が生き生きとしていてるのと、アンサンブルの一体感が素晴らしい。そしてピアニッシモとフォルティッシモ、柔と剛、静と動、ホーネックの特徴である表現の振幅の広さと決して停滞しない音楽の流れがよく生かされています。
・ ベートーヴェン : 交響曲第9番ニ短調作品125「合唱つき」
ソプラノ : 佐藤しのぶ アルト : 坂本朱 テノール : 中鉢聡 バリトン : 三原剛
マンフレッド・ホーネック指揮 読売日本交響楽団 (コンサートマスター:藤原浜雄) 武蔵野音楽大学 (合唱指揮:松井徹)
2004年12月18日 18:00 サントリーホール 大ホール
第2楽章でも弾力性をも感じさせるリズムのキレ味は抜群。細かな動きも明確に演奏していくオーケストラも健闘。スケルツォ各部の性格をテンポではなく、フレージングを明確にすることで描き分けていたのが印象的。最後の途中で断ち切られる木管のユーモアも愉しい限り。
第3楽章は抑制されつつも自然な歌に満ち満ちたすこぶる美しい演奏。第1ヴァイオリンをやや控えめな音量バランスで慎ましく奏でさせていたのが印象的。その結果、第1ヴァイオリンの美しさと、それを支える内声部の美しさとの拮抗がいい。この曲の内声部の美しさを再認識させてくれますね。4番ホルンの難所は1番ホルンに吹かせていましたが、ホーネックの作り出す音楽の流れにそった好演。そのホルンソロの後の適度なデモーニッシュな味わいも程よいアクセントになっていました。
楽譜の指定どおりアタッカで第4楽章へ。冒頭の猛烈にテンポからチェロとコントラバスのレチタティーボへ。インテンポを基調としつつ、楽器の特性への配慮が感じられる自然なフレージングがとても好ましい。続く、歓喜の歌のメロディーも自然に音楽が流れ、美しい歌が紡がれていきます。そして再び猛烈なプレストを経てバリトンソロ登場。ここでもホーネックはインテンポ基本で、歌手への配慮を加えた指揮ぶり。バリトンの三原剛は明るく透明感のある声で、ホーネック指揮に十全に応えていました。"O Freude" を力強く、"Sonderun lasst" をやわらかさを加えた表現にしていたのが印象的。続く合唱の歓喜の歌も力強さと、喜びに満ちた表現を両立させたもの。"vor Gott"の叫びも力を込めた強烈さ。テノールソロの部分は本当に行進曲らしいリズミックな表現。中鉢聡の実直でストレートな歌との相性も良かったと思います。このテナーソロを境に合唱の表現が「剛と喜」だけでなく「柔」を加えたものに変わっていきます。武蔵野音大の合唱もホーネックの表現の幅の広い棒に良く応えた健闘ぶり。ひとつ注文を付けるとすれば、男声のフォルティッシモ("Seid umschlungen" のあたり)がやや汚い声になりがちなのは要改善点かなあ。最後の四重唱もアンサンブルを重視したまとまりが良かった。そして最後は素晴らしいアンサンブルで、(本当に)プレスティッシモまでテンポをあげてフィニッシュ。
今日の席はホーネックを真横から眺められる位置。ほとんどずーっと彼を見ながら聞きましたが、その指揮ぶりは故クライバーを髣髴とさせるところがありますね。クライバーが第九を振ったら・・・(多分違うんでしょうけどね、笑)と思わせるに足る素晴らしい演奏だったように思います。今後もjosquinにとって聞き逃せない指揮者のひとりですね。
オケの編成は16型、管はほぼスコアの指定どおり。合唱はソプラノ、テノール、バス、アルトの並び。ソリストはオケと合唱の間で歌っていました。スコアは第1楽章のティンパニのリズムや第4楽章の歓喜の合唱前のホルンのリズムからみて、ベーレンライター版を使用していたようでした。
今日配られたプログラムによれば、再来年の2月に客演の予定があるようです(ヴァイオリンのライナー・ホーネックとの兄弟競演も予定されています)。
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