ノリントン/シュトゥットガルト放送響 ヴォーン・ウィリアムズ/ベートーヴェン
ヴォーン・ウィリアムズとベートーヴェンの二つの第6交響曲が聞けるプログラムが魅力的なこの公演。ドロドロのリヒャルトを聞いた後はノリントンの刺激的な安らぎ(になるかなあ?)を求めて六本木一丁目へ。
サー・ロジャー・ノリントン指揮シュトゥットガルト放送交響楽団ノリントンとシュトゥットガルト放送響のコンビの演奏は、2001年の来日公演でのエルガーの第1交響曲を聞いています。でも、眠気に勝てなくてあんまり良く覚えてないんです(^^ゞ。舞台上はコントラバスが奥に一列に並んだ対向配置(1Vn-Vc-Va-2Vaの並び)。
1. ベートーヴェン : 「エグモント」序曲 作品84 2. ヴォーン・ウィリアムズ : 交響曲第6番ホ短調 −休憩− 3. ベートーヴェン : 交響曲第6番ヘ長調「田園」作品68 −アンコール− 4. ワーグナー : 歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲
サー・ロジャー・ノリントン指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団
2004年11月23日 19:00 サントリーホール 大ホール
最初は「エグモント」序曲。弦の編成は12-12-10-8-6。トランペットはロータリーのないナチュラルタイプ、トロンボーンも朝顔が小さめの古いタイプのもの。ティンパニはバロック風の口径の小さい楽器。ノリントンの古典派の演奏は現代オケを使ってもノン・ヴィブラートを基本にしたもので、今日の演奏もその方針通り。しかし、それだけで終わらないのがノリントンらしいところ。冒頭の最初のリズムの処理のやりかたは初めて聴きますね。アウフタクトのところを分割して振って、同じ音の強さで演奏するのが普通のやりかた。ノリントンは分割せずに振って、アウフタクトの音はあくまでアウフタクトに相応しい音の強さ(弱さ)で演奏させます。その結果本来のリズムが見えてくる格好。他にも弦のフレージングも通常(古楽でも現代楽器の演奏でも)聴かれるものとはかなり違っています。ティンパニも表情を思い切りつけて強烈に叩かせてまるで嵐のよう。古楽演奏に立脚しながらも、その味付けは本当にノリントン流の個性的な演奏で面白く聞きました。
続くヴォーン・ウィリアムズは16型での演奏。この第6交響曲は4楽章構成で切れ目なく続けて演奏されます。最初の強烈な出だしからシンコペーションのリズミカルな音楽の対照が印象的な第1楽章、「タタタン」のリズムが終始全体を支配する第2楽章、サキソフォンをフィーチャーしジャズっぽいテイストが漂う第3楽章、そして終楽章のひっそりとしたピアニッシモ主体の音楽。この曲をちゃんと聴くのは初めて(一応、ボールトのCDを持ってたので2度ほどながら聴きしたけど冒頭部しか印象に残ってなかったりする)ですが、各楽章のキャラクターの描き方が的確で、冒頭の強烈さから最後のひそやかな終結までの設計が見事だったかと。なかなかいい曲だなあと、今度ちゃんと聞いてみよう(^^♪。
後半はエグモントの同じ編成に戻っての「田園」。もちろん、古楽奏法が徹底しているのはエグモントと同様。颯爽としたテンポで始まった第1楽章。冒頭のテーマの最後の音がざらっとした感触で自然に音が減衰するところはノン・ヴィブラート奏法のいい味がでるところ。なんともいえないのどかさをかもし出します。ホルンを強めに演奏させていたのも印象的。第2楽章もトリルやせせらぎの弦の最初の音をテヌート気味に長めに演奏させていたのが印象的。カッコウの鳴き声も奏者同士の遊びがあって面白い。第3楽章はノリントン節が随所に。ゴリラが歩くような身振りで彼が望むリズムと重さの配分を示したり、やりたい放題というか自由自在の遊び心満載で楽しいこと。第4楽章の嵐の凄まじいこと。固い撥を使ったティンパニの強烈な打ち込みをはじめとした踏み込んだ表現の凄まじいこと。第5楽章はノリントン節も影をひそめ、あたたかな音色で音楽が自然に流れていく。この楽章はそういう音楽だってことですね。全体を通してもかなり即興的ともいえるような、自由な表情が随所に聴かれました。それをオーケストラが指揮者と一緒になって楽しんでいること自体が、新鮮で生き生きとした音楽作りにつながっているのだなと思います。ここはどういう風に演奏するんだろうという期待を常に聞き手に抱かせ続けてくれる演奏は、ルーティンではなかなか得難いもの。多分、演奏するたびにいろいろ違うんではないかなあ(笑)。
弦楽器群はそのままで管と打楽器のメンバが入ってきてのアンコールは、ローエングリンの第3幕への前奏曲。田園のあとにいきなりこの曲はねえだろう(笑)。とは思いましたが、弦を中心にした美しい音色でオーケストラを鳴らした解放的ともいえる演奏でした。
しかし、ノリントンという人かなり茶目っ気のあるきさくなおっちゃんですな。田園で第1楽章終了後、手を指揮棒で叩いて楽員に「よかったよ」。つられてお客さんの一部も拍手していると。振り向いて「もっと拍手してやってよ」。第2楽章の後も同じ感じ。2楽章を指揮棒なしでふって、第3楽章を始める前にセカンド・ヴァイオリンの譜面台から指揮棒を「さっと」とって笑いを取ってみたり。カーテンコールでも手を振ったり、袖からちょこっと顔を出して「もう一回かな」。こういうパーソナリティが遊び心のある音楽作りに生きているんでしょうね。いろんな意味で楽しいコンサートでした。
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