SKF2004 ヴォツェック ゲルネ/小澤/SKO
昨年までは浅間温泉に近い、長野県松本文化会館でおこなわれていたSKFのオペラ公演。今年からは松本駅から徒歩でいける距離に新しく建てられた、まつもと市民芸術館での上演となりました。29日にこけら落としがおこなわれたばかりです。今年の演目は昨年のファルスタッフから一転していつもの路線に戻ってヴォツェックです。
サイトウ・キネン・フェスティバル松本 オペラ アルバン・ベルク「ヴォツェック」まつもと市民芸術館の入り口から、ホールまではゆるやかな長い階段を登っていきます。ややホールまでのアプローチが長いので開演時間ぎりぎりに来ると危ないかもしれません。主ホールにはいってみると馬蹄形のオペラ劇場のイメージ。左右のバルコニー席はすみだトリフォニーのように前向きに椅子が配置され個席になっているのが特徴でしょうか。
アルバン・ベルク:歌劇「ヴォツェック」全3幕
ヴォツェック : マティアス・ゲルネ マリー : ソルヴェイグ・クリンゲルボルン 鼓手長 : ステファン・マルギタ アンドレース : レイモンド・ヴェリー 大尉 : クリス・メリット 医者 : ラインハルト・ハーゲン マルグレート : アン=マリー・オーウェンス 白痴 : ジャン=ポール・フーシェクール 職人1 : 山下浩司 職人2 : 萩原潤 マリーの子ども : 藤田幸士郎
小澤征爾指揮 サイトウ・キネン・オーケストラ (コンサートマスター:矢部達哉) 東京オペラシンガーズ SKF松本児童合唱団
演出 : ペーター・ムスバッハ 舞台 : 安藤忠雄 衣装デザイン : アンドレア・シュミット=フッテラー
2004年8月31日 19:00 まつもと市民芸術館 主ホール
舞台上なにやらきらきらと光る物体で上から下まで覆われています。この素材はなんだろうと思って双眼鏡で覗いてみると、透明な2リットルのペットボトルの集合体。安藤忠雄の作った装置は、舞台上の半透明な床面以外はすべて(幕も含めて)そのペットボトルで出来ていました。半透明の床面は「田」の字状に13分割(だったと思う)されて、場に応じて上下する構造でした。
また衣装も特徴のある個性的(それぞれの役から見れば没個性的)なものでした。舞台上の出演者は歌い手、バンダの演奏者含めてすべて同じいでたち。鍾乳石の石筍みたいな感じの白い円錐状の着ぐるみの衣装、そして全員スキンヘッド。
そんな舞台と衣装を使ったムスバッハの演出は白のバリエーション(蛍光灯調とか白熱電灯系等)を基調とした色を中心に、酒場シーン等必要に応じて他の色を使用。血の象徴である赤はマリーの殺害シーンではなく、その後の酒場の場面で使用していました。衣装がみな同じということから、ぱっと見誰が誰だか判別し難い(特にこのオペラに親しんでいない人はかなりわかりにくかったのでは?)のは各人のキャラクターをあえて消していたのかもしれません。またマリー殺害時のナイフ以外は具体的な道具は、全く出てきません(最初の場面ではかみそりすら出てこない)。エロティックな場面でもあまりいやらしさを感じさせないし、具体的な動作を良く見ていないとどんな場面だかは判別し難い(良く見てても、予備知識がないとわかりにくい)ですね。でも、マリー殺害時のナイフを首に持っていって、ストップモーション的で静的なヴォツェック動作はとても印象的でした。具体的な表現をほどんどしないことで、最後のマリーとヴォツェックの子供が鮮烈なでに真っ白な舞台中央で、ぽつんと(他の子供たちはペットボトルでできた壁の向こう側にいる)一人でいる場面は強烈な印象を与えていました。抽象的な表現を用いて見る側にいろいろと思考をめぐらせることを要求する演出といえるかと思います。
小澤指揮するSKOはいつもながら精度の高いアンサンブルで、すみずみまできちっとした音楽作りが印象的。幻覚に惑わされるヴォツェックを音で直接的にあらわしたところや、暗い池のシーンでの無機的な響き、そして最終場面前エピローグでの叫びは彼らの表現力の高さを示した演奏と言えるでしょう。酒場シーンでの雑然とした感じや、3拍子でのワルツ風なのり、そして全体に漂う退廃的な雰囲気の不足は、このコンビに求めるものではないとは思いますが・・・。それが出来ているとさらに素晴らしい演奏になったのではと(欲深すぎますかね)。
ゲルネをはじめとする歌手陣も粒の揃った歌手が揃い好演。特に飛びぬけた印象を与える人がいなかったのは演出も含めた上演のポリシーでしょう。シュプレッヒメント調のところの表現とメロディックな表現のメリハリが良く出ていたと思います。
4階席で聞いたまつもと市民芸術館の音響は、新国立劇場のオペラ劇場4階正面席での音をもう少し解像度が良いイメージと聞きました。数年たって構造物が乾いてくるとかなりいい音になるような気がします。
もともとのオペラの題材と抽象的な演出とあいまって、終わったあとはちと足取りが重い(上演が悪かったという意味ではもちろんなく)公演でした。
最後にちょっと情報を。当日抽選販売の当日立ち見席は1&2階左右バルコニーおよび4階後方の立ち見スペースです。また今回は休憩なしの上演で、カーテンコールが長引いたとしても21:00前には会場を出ることができます。参考まで。
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