えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

<< H-M.シュナイト/神奈川フィル 音楽堂シリーズ R.シュトラウス/ベートーヴェン | main | NHK-FM放送予定から(2/24-3/12) >>

D.ゲリンガス/東京フィル/小山実稚恵 オーチャード定期 シュニトケ/ショスタコーヴィチ/リムスキー=コルサコフ

シーズン・プログラムの発表当初はフェドセーエフが振る予定だったこの演奏会。最近はチェリストとしてだけではなく、指揮者としても活躍しているマエストロが代役となりました、日本では2006年4月から九州響の首席客演指揮者のポストにも就いています。今日は恐らく指揮者としては首都圏初登場、ゲリンガスの振る東京フィルのオーチャード定期を楽しみに渋谷へ。
東京フィルハーモニー交響楽団 第733回定期演奏会

1.シュニトケ夏の夜の夢、ではなくて
2.ショスタコーヴィチピアノ協奏曲第1番 ハ短調 作品35
‐休憩‐
3.リムスキー=コルサコフ交響組曲「シェエラザード」 作品35

ピアノ小山実稚恵(2)
トランペット古田俊博(2)

ダーヴィド・ゲリンガス指揮東京フィルハーモニー交響楽団
(ソロ・コンサートマスター:荒井英治)

2007年2月18日 15:00 Bunkamura オーチャードホール
今日の一曲目はシュニトケの「夏の夜の夢、ではなくて」という作品。舞台上にはヴァイオリン群の後方にチェンバロとピアノが置かれています。弦楽セクションの並びはいつもと少し違って、チェロが外側の1Vn-2Vn-Va-Vc/Cb右。各パートの人数は18-12(ソロを含む)-10-8-7。(当然)チェロではなくて指揮棒を持って登場し、拍手に応えて指揮台に上がったゲリンガス。いざ開始と構えた右手ではなくタクトは左手に、ゲリンガスは左利きのマエストロなんですね。

第2ヴァイオリン後方プルトのソロとピアノの朗らかな音楽ではじまるこの曲、チェンバロとフルートが続き両者が対話を紡いでいきます。徐々に他のオーケストラの楽器が絡み始めると清涼な音楽が歪んでいき、途中にはまるでショスタコーヴィチの音楽のような喧騒も出現。最後には再び、冒頭の平明な音楽が戻ってきて幕を閉じます。「夏の夜の夢=美しいもの」と「ではなくて=美しくないもの」を対比させ、二律背反的な面白さを狙った曲と言えるでしょうか。

ゲリンガスは東京フィルから澄んだ美しい音色を引き出していて、朗らかな音楽の美しさが良く出ています。その美しさが徐々に現れる歪み(=美しくないもの)を一層際立たせていたように思います。ゲリンガスの指揮はテクニック的に巧いとは言えませんが、要所を的確に指示する棒ですね。オーケストラに無理強いしないところに好感を持ちました。

このシュニトケの作品、M.ホーネックと読響も来週の定期演奏会とみなとみらいのシリーズでも取り上げる予定になっています。ホーネックは強いコントラストの効いた表現を持ち味とする指揮者ですので、聴き比べると面白いのではないかと思います。

シュニトケが終わると次に演奏されるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲の準備のため、ヴィオラ以外のメンバは一端袖へ。ステージ前方右端に置かれていたピアノが中央へと運ばれ、トランペット奏者用の椅子と譜面台は指揮台の左側へセってイング。再び弦楽セクションのメンバとソロ・トランペット奏者が舞台へ現れます。見渡したところ12型の編成で演奏するようです。

今日のソリストは昨年からこのホールで12年に渡る長期企画のリサイタルに取り組んでいる小山実稚恵。彼女の持ち味である力強くパリッとした弾きっぷりを生かしながら、メロディアスな部分では表情たっぷりに「歌う」要素を盛り込んだ演奏を披露。しっかりとした存在感のある音色と共に、切れ味の良さだけで勝負する演奏とは一味違った演奏でした。トランペットの古田俊博も、鋭く力強い音色を中心とした緊張感溢れる演奏で華を添えます。第2楽章では低音の存在感が欲しいものの、終楽章のメロディアスな中間部も過度に甘くしないところが好印象を与えていました。

ゲリンガスと東京フィルはシュニトケ同様に美しい音色でピアニストをサポート。両端楽章の急速な部分で、ゲリンガスの棒が後追いになってピアノとしっくりしないところがあったのはやや残念なところ。でも、第2楽章後半でピアノがカデンツァ風の部分を弾き終えミュート付きのトランペットが出る直前、弱音器を付けた弦楽のヴェールをかぶせたようなピアニッシモは非常に美しかったと思います。

15分間の休憩の後はリムスキー=コルサコフのシェエラザード。やはりゲリンガスはオーケストラに無理強いをせず、美しく柔らかな感触の音色を引き出して曲を進めていきます。前半同様に弦は繊細な美しさが映えていましたし、木管のソロも奏者の自発的な表現が自然におこなわれていて素晴らしい限り。コンサートマスター荒井英治もいつもの踏み込みの良さよりは繊細な音色と表現を重視した演奏を披露し、懐の深いところを聞かせてくれました。

ゲリンガスのシェエラザードはドラマティックな語り口で耳を弾きつける演奏ではなく、王妃シェエラザードがたおやかに物語るのを夢見心地で国王が聞いているという風情の演奏。そんなアプローチが一番生かされていたのが第3楽章で、冒頭のメロディーが繊細な弦の音色で甘美に歌われていて誠に美しい限り。先月聞いたデュトワとN響の演奏とは対照的な演奏ですが、今日のような非リアライズ系のシェエラザードも良いものです。

今日の演奏でちょっと興味深かったのは、終楽章でトランペットと共にリズムを刻む小太鼓の音色。普通は響き線を用いて比較的シャープな音色で叩かせることが多いと思うのですが、(恐らく)響き線を用いず力強く骨太な響きで叩かせていました。荒れ狂う波風のイメージではなく、やや戦闘的な趣(波風と戦う感じ?)が漂うのが面白いなあと思いました。

はじめて聞いた指揮者としてのゲリンガス、オーケストラから繊細で美しい音色を引き出す術に長けていて好感がもてます。アンサンブルの難所を切り抜ける指揮テクニックが向上すると、その長所が更に生かされるのではないでしょうか。
らいぶ | comments (0) | trackbacks (0)

Comments

Comment Form

Trackbacks