えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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福間洸太郎 ピアニスト100 モーツァルト/ブラームス/武満/アルベニス

昨年1月にNHKで放送されたマリア・ジョアオ・ピリスが若いピアニスト達にレッスンをしている模様を収録した番組で、シューベルトの作品(だったと思う)で盛んに「止まって、止まって」と繰り返し言われていたのがこのひと福間洸太郎。ピアニスト100の89人目、1982年生まれの若者、福間洸太郎の演奏を楽しみに与野本町へ。
彩の国さいたま芸術劇場 ピアニスト100 90/100 福間洸太郎

1.モーツァルトピアノ・ソナタ第11番イ長調 K.331 「トルコ行進曲付」
2.ブラームス4つのバラード 作品10
- 休憩(20分) -
3.武満徹閉じた眼
4.閉じた眼II
5.アルベニス組曲「イベリア」 より
第7曲エル・アルバイシン
第8曲エル・ポーロ
第9曲ラバピエス
- アンコール -
6.リスト愛の夢(3つの夜想曲) S.541 第3番 変イ長調
7.ラヴェル組曲「鏡」 から 道化師の朝の歌

ピアノ福間洸太郎

2006年3月4日 16:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
プログラムの最初はモーツァルトの「トルコ行進曲付」ソナタ。明確かつ豊かな響きが両立したタッチで、見通しよく丁寧に歌われた印象の良いモーツァルト。第1楽章は変奏によって音に付く羽根の生え具合が異なるのが面白い。リズミカルな変奏では大きな羽根、そうでない変奏では小さな羽根。全ての変奏で大きな羽根が付くと良いのに・・・。第2楽章は適度なメリハリをつけながら、トリオとのコントラストを明確にした演奏。右手の遊びはチャーミングですが、メリハリだけでなく音色の変化で聞かせられるようになると更に魅力が増す筈。終楽章はかっ飛ばさないのがとっても好印象。リズミカルな左手(もう少し躍動感があっても良いかも)と丁寧にメロディーを歌う右手の対比で楽しませてくれました。

2曲目はブラームスの4つのバラード。オルガン的なサウンドで曲の持つ厳粛な雰囲気が良く出ていた第1曲、対照的にほっとさせる暖かさと激しい中間部との対比で聞かせた第2曲そして第3曲はリズムの切れとメリハリが良く付いていて聴き応え十分なスケルツォ。終曲は中間部がやっぱり鬼門かなあ。丹念に弾いているのだけれども、曲の指し示す何かには残念ながら届いていない。ここは(ゲームではないけれども)経験値が物を言う世界なのかも。

後半はまず武満徹の瀧口修三の追憶に捧げられた「閉じた眼」と、ピーター・ゼルキンの求めに応じて書かれた「閉じた眼II」。打鍵後に残る和楽器の音色にも似た繊細な響き、そこに重ねられる新たに打鍵された音の美しさが見事に表現された「閉じた眼」。「閉じた眼」よりも豊穣な響きの世界をありのままに描いた「閉じた眼II」。両曲の性格の違いを的確な打鍵とペダルのコントロールで、明確な音のイメージとして描いた見事な演奏でした。

プログラムの最後は難曲として知られる、アルベニスのイベリアから第3組曲。エル・アルバイシンの冒頭から肉感的な色合いの濃い音色でリズムを刻み、一音一音をおろそかにせずに弾く福間洸太郎。独特なリズムをテンポを揺らしながら躍動的に聞かせ、各場面毎の描き分けも鮮やか。イベリアのなかでもっとも難易度が高いといわれるラバピエスも、(むろん高いレベルでの話しですが)もう一息鮮やかにというところもありますが、カラフルな色彩感に富んだ演奏を披露。客席から盛大な拍手が贈られていました。

アンコールは福間自ら曲を紹介して演奏したリストの愛の夢第3番。ダイナミックに盛り上げた後、しっとりと歌って最後を締めた好演。そして「もう1曲」と指で示してから弾いてくれたのは、実に見事なラヴェルの道化師の朝の歌。冒頭から華やかな色彩感が溢れ躍動的なこと。落ち着いた音色で歌心豊かに弾かれた中間部を経て、再びカラフルな色彩の世界へと。彼の弾くラヴェルをもっと聞いてみたいと思わずにはいられない程の素晴らしい演奏でした。

今日聞いた限りではフランス物やスペイン物を中心とした近現代作品が、今の彼を聞くにはいいのかもしれません。今後の成長と変化が楽しみな若武者福間洸太郎、(スケジュール次第ですが(笑))継続して聞いていきたいと思います。
らいぶ | comments (2) | trackbacks (0)

Comments

prelude | 2006/03/05 00:09
こんばんは。名前は覚えていませんでしたが、ひたすらピリスにダメ出し食らっていた真面目そうな方ですよね。よく覚えているというか、自分が怒られたわけでもないのに微妙にトラウマになっています。

曲目を眺めただけでも何となく良いリサイタルだったのではないかという感じがしますし、あのレッスンのときも私は好感を持っていました。

福間洸太郎さんですね。今後はリサイタルの情報など気をつけてみたいと思います。
josquin | 2006/03/05 01:15
> ひたすらピリスにダメ出し食らっていた真面目そうな方ですよね。

その通りです。ピリスにレッスンを受けていた他のピアニストはあんまり印象に残っていないのですが、彼だけはよく覚えていました。

> 今後はリサイタルの情報など気をつけてみたいと思います。

本人のサイトのスケジュールによると、残念ながら当分(秋くらいまでは)日本での演奏会は予定されていないようですが、次回帰国したときにまた聞いてみたいものです。

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