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コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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二期会ニューウェーブオペラ ジュリアス・シーザー 山下牧子/鈴木雅明/BCJ

鈴木雅明率いるBCJがピットに入るオペラ公演は、2002年10月の二期会ニューウェーブオペラ「ポッペアの戴冠」以来3年振り。二期会の若手歌手をキャスティングしたヘンデルの「ジュリアス・シーザー」を楽しみに王子へ。
二期会ニューウェーブオペラ劇場 ジュリアス・シーザー(エジプトのジュリオ・チェーザレ)

ヘンデル歌劇「ジュリアス・シーザー(エジプトのジュリオ・チェーザレ)」
全3幕9場 字幕付原語(イタリア語)上演

ジュリアス・シ-ザー(ジュリオ・チェーザレ)山下牧子
コルネリア橘今日子
セスト日比野幸
クーリオ栗原剛
クレオパトラ文屋小百合
プトレマイオス(トロメーオ)中村裕美
アキッラ萩原潤
ニレーノ今井典子

鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン
(コンサートマスター:高田あずみ)
二期会オペラ研修所 第50期本科研修生(&賛助出演者6名)

演出平尾力哉

2005年10月15日 17:00 北とぴあ さくらホール
まずはピットの中からいきましょう。今日の主役は鈴木雅明率いるBCJだった、と言っても過言ではないでしょう。華やかな序曲から小気味良いフーガへ、3拍子系のリズムで奏でられる合唱へと。淀みのない流れと生き生きとした表情はすこぶる魅力的。それだけでなく、第2幕のクレオパトラが歌うアリア「優しい眼差しよ」の伴奏のように、見事に溶け合ったサウンドの美しさと音楽のしなやかな味わい。多彩な表現力と緩急をはっきりと付けたメリハリ、曖昧なところのない明確かつ明晰な音楽で全体を形作ったこのコンビらしい素晴らしい演奏でした。(難易度の高いナチュラル・ホルンは別としても)BCJのパフォーマンスもすこぶる安定していたことを付け加えておきましょう。あと、リコーダーが入ると独特な華やかさと色彩が生まれますね。とても興味深く感じました。

ジュリオ・チェーザレを歌ったのは既に新国立劇場やBCJで活躍している山下牧子。舞台経験は数多い人とはいえ、タイトルロールとなると違うんでしょうね。いきなり難易度の高いアリアもある第1幕は声の艶や歌いまわしも固く、あまり調子が出なかった感あり。でも、第2幕以降はいつもの彼女らしいニュートラルな美しい歌声を披露。やや声が細身かなあという印象はありますが、芯の強さを感じるチェーザレを歌い演じておりました。もう少したくましさがあると更に良かったかもしれませんが、それは今後ということですね。

チェーザレを誘惑するクレオパトラは文屋小百合。しなやかで美しい歌声で、技巧的なアリアを手堅くまとめていました。でも、この人の美質は華やかで技巧的なアリアよりも叙情的なアリアに生きていました。そのしっとりと情感のったアリアは実に味わい深かったと思います。

クレオパトラの弟プトレマイオスは中村裕美。個人的に一番印象の良かったのはこの人。最初から最後まで声の調子が変わらないし、レチタティーヴォのみならずアリアでも表現の思い切りが良いのが素晴らしい。敵役らしい声の強さも充分でした。

最後には寝返ってしまうプトレマイオスの部下アキッラは萩原潤。3月の魔笛におけるパパゲーノの好演が記憶に新しいところ。やっぱりこの人は、柔らかで伸びやかな声がとてもいい。そして声で演技できるところが素晴らしい。特に、瀕死の場面でのレチタティーヴォの表現力はとても印象的に残りました。

プトレマイオスに夫を殺されてしまうコルネリアは橘今日子。メゾだらけの中、一番深みのある声を聞かせてくれたのはこの人。未亡人の悲しみをうまく声にのせていましたし、演技も優れていました。

コルネリアの息子で(この演出では)パンクなセストは日比野幸。中村裕美(プトレマイオス)に次ぐ表現の思い切りの良さ。役柄に相応しい勢いも充分。でも、もっともっとはじけてもいいのでは?

チェーザレの部下クーリオの栗原剛とクレオパトラの部下ニレーノの今井典子も癖のない声を生かした好演だったと思います。

個別の印象派は上に記したとおりなのですが、ソリスト達全体に言えることを少し。総じてレチタティーヴォは凄く生き生きしていているのにアリアになるとややこじんまりとしてしまう傾向が伺えたのがちょっと気になりました。そつなくきっちりと歌われてはいるのですが、多少八方破れでも生き生きとした歌を聴きたかったような気もします。その分ピッチが不安定だったり、フレージングが怪しい人はいなかったのは良いことなのですが・・・。そういう意味では、中村裕美と萩原潤は頭一つ抜けた歌を聞かせてくれていたように思います。

二期会オペラ研修所の研修生を中心とした合唱も透明感と活気を兼ね備えた素晴らしさ。出番がもっと多ければよかったのにと思えるほどでした。

演出は平尾力哉。三面のスクリーンにイメージ映像を投影し、階段状の簡素な装置を用いて舞台を構成。衣装は現代風、民衆のいでたちはまるで披露宴会場、パンクなセストやプトレマイオス、SPや追っかけが付いたり、スクリーンにはアメリカの光景、等々。この人の演出にしては珍しく非オーソドックス。でも読み替えにしては中途半端ですし、アクセントだったにしても「?」。これだったら、普通にオーソドックスな演出にして音楽に専念させてくれた方が良かったような気がしてなりません。

まあいろいろとありますが(笑)、全体的には充実した上演だったように思います。もちろん、その最大の理由は鈴木雅明とBCJの素晴らしい演奏のおかげであるのは間違いないところ。毎年恒例クリスマスのメサイアだけではなく、他のオラトリオやオペラも是非とも聞かせて欲しいものです。

最後にひとつだけ。幕間の休憩がそれぞれ15分とはちょっと短いのでは?長いオペラなので聴衆への配慮なのでしょうが、もう少し時間をとってあげて欲しいなあと思ったjosquinでした。
らいぶ | comments (4) | trackbacks (5)

Comments

pfaelzerwein | 2005/10/17 05:34
josquinさん、ちょっと僻みますね。流石に大都市ですね。ドイツで確りした古楽器演奏団でこれを遣るとなると、機会が限られます。古楽器楽団はあっても歌劇は出来ないとかの状況が生まれます。

ヘンデルは劇場の通常のレパートリーなので、余計に古楽器の立派な演奏はフェスティバルなどに限られてしまいます。このようなヘンデルの問題は、カストラートなども含めて何回か私も書いている通りなのですが、ここでも「アリアになるとややこじんまりとしてしまう傾向」はその声域が関係していると想像します。

手元にルネ・ヤコブスの録音があるので頻繁に聴いていますが、一度体験するのとは大違いです。だからモンテヴェルディの方が良い上演の機会が多い。とにかく面白い曲なので、良い演奏と演出さえあれば、今後も休憩中に食事でもしてジックリ愉しんで欲しいと思います。
josquin | 2005/10/17 23:09
東京でもヘンデルのオペラに接する機会は非常に少ないですよ。今月のバイエルンのアリオダンテとこのジュリアス・シーザー。来月のヘンデル協会のアグリッピーナ。来年の新国立劇場(小劇場)のセルセと比較的集中していますけど。古楽での演奏は別にしてもオペラ劇場のレパートリーになっているヨーロッパのほうがまだ幸せなのかもしれません。

カストラートと絡む声域の問題はあるのかもしれませんね。カウンターテナーでは補いきれない領域ははっきりとあるでしょうし。

ヤコプスの録音は友人からミンコフスキの録音と共に借りて聞きました。両者の演奏が実に対照的なのがとても印象的でした。
はろるど | 2005/10/18 21:01
josquinさん、ご無沙汰しております。
先日、私もこの公演に接してきました。

BCJは本当に素晴らしかったですよね。
ナチュラル・ホルンは少し気の毒な感じもしましたが、舞台へあがったのは演出家の指示だったのでしょうか。意図が分かりませんでした。

また演出全体も、私はそれなりに楽しみましたが、
ブーイングが出るのも無理ないかなとは思います。

ミンコフスキのCDは私も良く聴いております。
あのスピード感がたまりません!
josquin | 2005/10/18 22:33
はろるどさんTB&コメントありがとうございます。
BCJは本当に素晴らしい演奏を披露してくれました。
ナチュラル・ホルンは難しいはわかっているので「頑張れ!」と心で応援しながら聞いておりました。

ミンコフスキの録音、スピード感と生命力は他に変えがたい魅力がありますね♪。

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