えすどぅあ

コンサートやオペラの感想を中心とした音楽日記になったかなあ・・・。

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藝大うたシリーズ 森鴎外訳オペラ「オルフエウス」 寺谷千枝子/佐々木典子/高関健

作家森鴎外が唯一オペラの訳詞を手がけたがこの演目。残念ながら現在まで舞台上演の機会はなかったそうです。今後も接する機会は滅多にあるとは思えない・・・。貴重な機会を逃すまいと、藝大うたシリーズの一環として上演される森鴎外訳詞「オルフエウス」を聴きに桜木町から上野へ。
東京藝術大学 うたシリーズV-2 森鴎外訳オペラ「オルフエウス」

グルックオルフエウス 全三幕
(オルフェオとエウリディーチェ)
(森鴎外訳詞による上演)

オルフエウス寺谷千枝子
エウリヂケ佐々木典子
アモオル山口清子

高関健指揮東京藝術大学「オルフエウス」記念オーケストラ
(コンサートマスター:玉井菜央)
東京藝術大学音楽学部声楽家学生有志
(合唱指揮:栗山文昭)

振付・演技指導中村しんじ/川野眞子
舞踏群ナチュラル・ダンステアトル

オペラ制作統括多田羅迪夫

ドラマトゥルク瀧井敬子

2005年9月19日 18:30 東京藝術大学 奏楽堂
自由席なので会場時間位に奏楽堂に到着すればいいかなあと、上野グリーンサロン前のテーブルでのんびりパンを食べてから藝大へ。公園内を通って音楽学部側の門を入ると、長蛇の列が直ぐそこまで伸びていて右に折れているではないか。のんびりパンなんか食べてる場合じゃなかった(苦笑)。それでも最後列でしたがまずまずの位置の座席を確保してひとまずホッと。もう少し遅かったら(チケット捌き過ぎ?)通路に座るか立ち見でしたわ、危ない危ない。行列に並んでいた人からも「藝大始まって以来じゃないか?」なんて言葉が聞こえてくる位だから、大盛況と言って良いでしょうね。

やっぱり、今日のテーマとなっている森鴎外の訳詞からいきませう。当然ながら森鴎外の生きていた時代ですから、当然ながら口語体ではなく文語体の訳詞。でもこれが自然に耳に入ってくるのが不思議(森鴎外にしてみれば「当然!」なんでしょう)。言葉ひとつひとつがよくわかるだけでなく、メロディーラインをスポイルしないのが素晴らしい。出来る限り言葉の数を減らて詞の長さを短縮し、音に合うような言葉を丹念に選び載せているのがよーくわかる。訳詞にありがちな言葉を無理やり詰め込んだような不自然さが、全くといって良い程感じられません。ただ、あまりにも言葉が乗りすぎているだけに子音が日本語よりも重要な外国語のリズムを滑らかにしすぎているきらいはあるかもしれません。でもこれは原語の違いに起因するもの、森鴎外の素晴らしい仕事を貶めるものでは全くない。文語体より必然的に文が長くなる口語体で、これ程の訳詞が出来るんだろうかと考えてしまいました。

今日の上演は物語の筋に直接は関係しないいくつかの舞曲を省略した形での上演。オーケストラはピットに収まり、舞台奥には三段に重ねられた装置が置かれています。序曲が始まりしばらくすると中段をふさいでいた扉が開き赤い球体が出現。鼓動を模した動きが止まりエウリヂケの魂が天上へ昇ったことを示します。歌手や踊り手は舞台前方や後方の構造物で歌い演じ踊る。合唱は主に舞台奥の構造物の中でパントマイムを交えながら歌います。ナチュラル・ダンステアトルの踊りは伝統的なものではなくて、モダン系の舞踏で歌手達に絡みながら物語の筋を補強していく役割を果たしています。演出のクレジットはないものの、振付・演技指導を担当した中村しんじと川野眞子を中心にして舞台を作り上げていたのではないかと思われます。

高関健が振るピット内の東京藝術大学「オルフエウス」記念オーケストラは1Vn-Vc-Va-2Vnの対向配置でコントラバスは左側。木管陣は左、金管とティンパニは右に置かれていました。弦は5-5-4-3-2の編成。藝大の教授や講師、卒業生や在校生をメンバとして構成されており、楽器はピリオド系ではなく普通の現代楽器を使用。高関健の(彼らしい)丁寧な指揮の下、潤いのある溶け合った美しいサウンドで上演を支えていました。第3幕で少しヴァイオリンがよれていたのが気になりましたが、最後のシャコンヌでは見事に復活。惜しむらくは踊り系のナンバーでもう少し活気があるともっと良かったなあと思います。

歌にパントマイムにと大活躍の声楽家有志の合唱は、休憩前までは声がのささくれが目立ちハーモニーもいまひとつ不安定。しかし、休憩後は大分落ち着いてきて及第点の出来栄えといえるでしょう。発声がやや浅いのが改善されるともっと良くなると思います。

最後に3人のソリスト達。踊りのナンバー以外はほとんど出ずっぱりの大役オルフエウスを歌い演じたのは寺谷千枝子。まろやかで深みのある美しい声を武器にして、優しくたおやかなオルフエウス像を見事に表現していました。オルフエウスの恋人エウリヂケは佐々木典子。落ち着いた寺谷千枝子とは対照的に華やかな雰囲気が漂うエウリヂケ。華やかさだけでなく、何故振り向いてくれないのとオルフエウスに迫るところの切実さも見事に表現していました。さすが佐々木典子というべき出来栄えでした。第3幕の寺谷千枝子と佐々木典子のやりとりは聞き応えがありました。愛のキューピット、アモヲルは山口清子、清潔な声とニュートラルな歌がとてもアモオルの役柄に合っていてました。まだ研究家在学中ということですが、今後の活躍に期待したいと思います。

カーテンコール兼ねた最後のシャコンヌ。ソリストたちが挨拶をした後に舞台装置を覆うように上方から下げられた白い布。布に細工がしてあって、上から水が滴り落ちてきてあぶり出しのように浮かび上がってきたのは人の顔。そう、今日の最大の主役である訳詞者森鴎外の顔。これだけ充実した上演ならば天国の森鴎外も至極満足ではないでしょうか。シャコンヌが終わったあと、再度のカーテンコールで水を滴らせていたスタッフも道具片手に顔をだしていました。彼等、なんとじょうろで水を滴らせていたんですねえ。じょうろだけでなく舞台装置の動かし方等、全体に手作り感が漂っていたのもなんかいい味出してました。ただ、装置が動く時の音や歌手が歌っている最中に裏でごそごそと準備している雑音がやや大きく客席に聞こえてしまったのは要改善点と思いました。

今回の上演、昨日と今日の2回で済ませてしまうのは惜しい。是非ブラッシュアップしての再上演を期待したいものです。
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