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里井宏次/ザ・タロー・シンガーズ 東京定期 武満徹「魂の旅」
昨年10月の東京定期でオール・プーランク・プログラムを組んでいた里井宏次率いるザ・タロー・シンガーズ。聴きにいけなかったけれどもちょっと気になっていた存在でした。彼らが武満徹「うた」全曲を歌う今年の東京定期を聴きに勝どきへ。
The TARO Singers 第7回東京定期演奏会 武満徹「魂の旅」武満徹の「うた」は全21曲のうち12曲を本人自身のアレンジによる合唱ヴァージョンが残されています。今日の指揮者である里井宏次は全曲を合唱で演奏したいと考えて、残りの9曲を武満とも親交のあったDavid Loong-Hsing Wenに合唱曲へのアレンジを依頼。先月の大阪公演がその9曲の初演となったとのこと。今日はいわば東京初演ですね、David Loong-Hsing Wenも客席に姿を見せていました。
1. 武満徹 (武満徹 詞) : 小さな空 2. (谷川俊太郎 詞) : うたうだけ 3. (川路明 詞) : 小さな部屋で 4. (谷川俊太郎 詞) : 恋のかくれんぼ 5. (谷川俊太郎 詞) : 見えないこども 6. (武満徹 詞) : 明日ハ晴レカナ、曇リカナ 7. 武満徹(David Loong-Hsing Wen編) (瀬本慎一 詞) : 雪 8. (谷川俊太郎 詞) : 昨日のしみ 9. (岩岡達治 詞) : ワルツ 10. (谷川俊太郎 詞) : ぽつねん 11. (五木寛之 詞) : 燃える秋 休憩 12. 武満徹(David Loong-Hsing Wen編) (谷川俊太郎 詞) : 雲に向かって起つ 13. (荒木一郎 詞) : めぐり逢い 14. (永田文夫 詞) : 素晴らしい悪女 15. (谷川俊太郎 詞) : 三月の歌 16. 武満徹 (日本古謡) : さくら 17. (武満徹 詞) : 翼 18. (井沢満 詞) : 島へ 19. (武満徹 詞) : ○と△の歌 20. (秋山邦晴 詞) : さようなら 21. (谷川俊太郎 詞) : 死んだ男の残したものは アンコール 22. 武満徹(David Loong-Hsing Wen編) (瀬本慎一 詞) : 雪 23. 武満徹 (武満徹 詞) : 翼 24. (日本古謡) : さくら
里井宏次指揮 ザ・タロー・シンガーズ
2005年7月16日 14:00 第一生命ホール
初めて耳にする里井宏次指揮するザ・タロー・シンガーズは各パート5人ずつの計20名。舞台上の並びは前列に女性(左手にソプラノ、右手はアルト)、後列に男性(左手にバス、右手はテノール)。癖の少ない声、よく整えられ安定度の高いハーモニー、そして誠実で慎ましい音楽作りが特徴と聴きました。武満特有の艶っぽいハーモニー感と音色がよく出ていましたね。もう少し歌に遊びがあってもいいかなと思う曲もありましたが、全体的にフォーマルな表現はこの団体の誠実な姿勢の表れでしょう。
David Loong-Hsing Wenの編曲は武満自身がアレンジした曲を踏まえたことがよく分かるもの。各声部がうねりつつメロディーをつむいでいくところは特にそう感じました。でも、ちょっと凝りすぎかなあと思える曲(燃える秋 等)もなきにしもあらず。サウンド的には武満自身のものよりはやや艶消しで、なんとなくですがプーランクを思わせる風情が漂うアレンジ。特に「雪」はプーランクっぽいところがよく出ていて、完成度の高いアレンジだと思います。プーランクの合唱曲には「雪」が題名に入っている曲(「白い雪」(7つの歌の第1曲)と小カンタータ「ある雪の夕暮れ」)があるので、多少は意識したのでしょうか(違うかなあ(笑))。
「見えないことも」の冒頭、アルトが肝になっているハーモニーがばっちり決まっていましたね。「さくら」冒頭と最後のハーモニー、光が徐々に差してきて閃光になるまぶしい響きが見事に実現されていました。「翼」「島へ」はプログラム構成の関係からか比較的あっさり目の味付け。「翼」は楽譜に記されている"Slowly and nostalgic"とは少し離れてしまったような気がしました。「さようなら」はソプラノに表現の強さが欲しいところ。「死んだ男の残したものは」はいつ聞いても心に迫るものがありますね。怒りを外にぶつける"死んだ兵士"の強い感情表現と、そこから終わりまで心の中へと戻っている対比が素晴らしい演奏でした。
アンコールは個人的に気に入った「雪」を演奏してくれたのが嬉しかった。そして、演奏会の1週間前に亡くなったこの合唱団の名付け親に捧げられた「翼」。最後に「もうひとつやろうか?」と「さくら」を演奏してくれました。
この合唱団のソプラノは慎ましい歌い口がとても魅力的ですね。ここぞという時の強い声と表現が備わると更に魅力が増すことでしょう。そして、アルトの声の響きがやや骨っぽいところがあってパートの声がまとまらずに聞こえてしまう箇所があるのが惜しい。声の響の豊かさが増すと、自然に表現力豊かな歌が聞けるようになる気がします。
日本では数少ないプロの室内合唱団としてタロー・シンガーズは貴重な存在。また機会があれば聞いてみたいなと思います。来年の東京定期は7月23日に紀尾井ホールでおこなわれるようなので、そのときに聞くことができるかなあ・・・。
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