エリック・ル・サージュ ピアニスト100 シューマン/ベートーヴェン/シューベルト
昨年6月にフランク・ブラレイと共に息の合った演奏を聞かせてくれたエリック・ル・サージュ。秋にはレ・ヴァン・フランセの公演も控えていますが、今回はリサイタルを聞きに与野本町へ。
彩の国さいたま芸術劇場 ピアニスト100 84/100 エリック・ル・サージュ1ベルが鳴ってロビーからホールに入るとほぼ満員。心なしか女性が多いような気がします(笑)。ピアニスト100の音楽監督である中村紘子が軽くお話をしてからル・サージュが登場。
1. シューマン : 蝶々 作品2 2. シューマン : ユモレスク変ロ長調 作品20 休憩 3. ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第30番ホ長調 作品109 4. シューベルト : 幻想曲ハ長調「さすらい人幻想曲」作品15 D.760 アンコール 5. ドビュッシー : 版画 から 塔 6. シューマン : ダヴィッド同盟舞曲集作品6 から 第10曲(第4曲かも?) 7. シューマン : ロマンス 作品28-1
ピアノ : エリック・ル・サージュ
2005年7月9日 16:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
ドイツ物で固められたプログラムの前半はシューマンの作品を二つ。まずは21歳の時に書かれた蝶々(パピヨン)から。ル・サージュをソロで聞くのは初めてですが、タッチが柔らかくてソフトな感触がしますね。ひとつのフレーズに対して実に魅力的な音色とフレージングを施し、自由自在に音楽が舞いたゆたう。ルバートやディミュニエンドの味付けは心憎い程のセンスを披露。音色もあるときはコロコロとまたあるときはグラデーション的に変化させ実に彩り豊か。仮面舞踏会に集う人々を蝶々(パピヨン)の喩えたシューマンの意図が、音として存分に愉しめる見事な演奏でした。
2曲目のシューマンはユモレスク。蝶々よりはがっしりとした印象があるのは作品の性格故でしょうか。音に動きがあるところの彩りの豊かさや生き生きとした表情がやはり楽しい。その反面、ながーい持続を求められるところはやや単調だったかも。もう少し魅力的に聞こえる工夫が欲しいなと感じました。
プログラムの後半はまずはベートーヴェン、それも最後の3つのソナタのひとつ第30番。前半よりタッチはやや固めですが、ル・サージュのアプローチはシューマンと一緒。一つ一つの部品で聞くと非常に魅力的なんだけど、この曲では部品間の有機的なつながりが感じ取りにくくなってしまった気がします。第1楽章や終楽章の一部の変奏では色彩感が独特の味わいが出ていて魅力的なんですが、全体的な魅力には繋がっていなかったように感じました。
プログラムの最後はシューベルトのさすらい人幻想曲。ル・サージュは再びシューマン同様のソフトタッチへ。この曲でもル・サージュの一つ一つの部品を魅力的に聞かせて全体を形作るアプローチは不変。後期の自由な形式が特徴のベートーヴェンとは違い、シューベルトにしてはがっちりとした構成感のあるこの曲。(極端な話)どう弾いてもその確固たる構成感が残る。ル・サージュはその土台の上で右手方向の華やかな美しさ加えながら、運動性と踏み込みの良さを存分に発揮。フレーズの歌い方も抜群のセンスで魅力的に聞かせてくれます。緩徐楽章にあたる部分の音の綾が美しい限り。聞き応え充分で見事なさすらい人幻想曲でした。
アンコールは3曲。東洋的な雰囲気がよく出ていたドビュッシーの塔、熱っぽく前進しエネルギーを発散していたシューマンのダヴィッド同盟舞曲集から(第10曲か第4曲)、そして美しい音の彩と歌心を聞かせてくれたシューマンのロマンスでコンサートの幕が閉じました。
プログラムの最初の蝶々と最後のさすらい人幻想曲が魅力的な演奏会でした。今度は是非フランス物のプログラムで彼のリサイタルを聞いてみたいものです。
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