彩の国ヴェルディ・プロジェクト イル・トロヴァトーレ 松本/現田/神奈川フィル
同一キャストによる2月の神奈川フィル定期での演奏会形式上演を経て、舞台上演を迎えた国ヴェルディ・プロジェクト「吟遊詩人~イル・トロヴァトーレ」。今日は浦和へ。
彩の国ヴェルディ・プロジェクト 歌劇 『吟遊詩人~イル・トロヴァトーレ』ホールに入って舞台方向を眺めると、オーケストラは通常のオペラ上演のようにピットの中にすっぽりと入っているわけではなく、ピット最下部の指揮者の位置から舞台に向けて段々畑状に配置。今回の演出を担当している高島勲が何回か関わった東京シティ・フィルのオーケストラル・オペラでのオーケストラと同様のイメージ。床面はオーケストラの舞台まですべて黒で統一されており、舞台は2段構えの階段状の簡素な構成で全幕統一されていました。高島勲の演出はシンプルな舞台装置と照明で見せる形式で、小道具類も剣と縄くらいしか使用しない徹底ぶり。オーケストラに照明を当てたり(第1幕冒頭のティンパニと打楽器)、かがり火(第2幕第1場)はティンパニの胴に照明を当てて表現したりと道具を使用しない代わりに様々な工夫がなされていました。また衣装はイタリアから借りてきたもののようですが、しっかりとした質感を持った落ち着いた色彩のものでした。全体には奇をてらったところのまったくない、安心して音楽に浸れる演出でした。イメージとしはパヴァロッティがメトで歌った映像から、一切の道具を取り去った感じと言うのが一番近いイメージかもしれません。
・ ヴェルディ : 歌劇「イル・トロヴァトーレ」
レオノーラ : 木下美穂子 マンリーコ : 松本薫平 ルーナ伯爵 : 黒田博 アズチェーナ : 坂本朱 フェルランド : 新保堯司 ルイス : 中前美和子 老ジプシー : 吉田伸昭 イネス : 笹倉直也 使者 : 丸谷周平
現田茂夫指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団 (コンサートマスター:石田泰尚) 埼玉オペラ協会合唱団 (合唱指揮:大川修司/冨平恭平)
演出 : 高島勲
2005年3月6日 15:00 埼玉会館 大ホール
さて肝心の音楽面は、前半(第1&2幕)と後半(第3&4幕)で音楽の充実ぶりに明らかな差が出てしまったなあというのが正直な感想。前半は女性陣は良かったものの歯車がいまひとつ噛み合わず・・・、後半になって全体の歯車が噛み合ってきてこの作品らしい熱く充実した音楽になっていました。
まずは素晴らしかった女性2人から。木下実穂子のレオノーラは全域に渡って落ち着いた音色と良く練れた歌唱で、暖かさと芯の強さを併せ持つキャラクターを見事に表現していました。特に第4幕冒頭のアリアでの歌唱は素晴らしく、今日一番の盛大な拍手とブラボーを得ていたのも納得の出来栄えでした。そして、アズチェーナの坂本朱は深みのある美しい声を生かした純音楽的な歌唱。ジプシーということで(ある意味)汚い声を使わずに、自らの声の美しさを可能な限り保ちつつ情感を深く込めていく表現力とその存在感。いつ聴いても素晴らしい歌唱を聞かせてくれますね。
続いては男声陣3人の印象ですが、女性二人と比べてしまうとやや劣ってしまうのは否めないかなあと。タイトルロールの松本薫平は役柄に相応しい声と演技での好演。ただ、まわりと比べると声量がやや乏しく存在感が薄くなりがちなのが惜しい。有名な第3幕最後の聞かせどころのアリアではハイCもきっちりと決めていて確かに技術を聞かせてくれていましたが、コーダ部分ではオーケストラに声が飲み込まれてしまいましたね。素性はとてもよい歌手だと思うので今後の成長を期待したいですね。ルーナ伯爵は黒田博。こういう悪役をクールに格好よく歌い演じられる人だと思うのですが、今日はいまひとつ歌に安定感が無くて前半はややハラハラしながら聞いてました。後半では持ち直して立派な出来栄えでしたが、やはり前半の聞かせどころが決まらなかったのは残念でなりません。冒頭にいきなり聞かせどころのあるフェルランドは新保堯司。重量感のある立派な声を持った人なのですが、声の重さが音楽の重さにダイレクトにつながってしまっていたのが残念。やっぱり、この役にはリズムのキレやテンポの軽みが欲しいなと。
オーケストラは現田茂夫指揮の神奈川フィル。弦楽器を1Vn-Vc-Cb-Va-2Vnと並べた対向配置で、8-8-6-5-4とやや小ぶりの編成でした。神奈川フィルは叙情的な部分の豊かな表現力とダイナミックな部分の迫力と締まったサウンドが魅力的な演奏でした。その反面そのどちらでもないところ(単なる刻みの部分とか)では音楽が薄味になってしまうのが惜しい。現田茂夫の指揮は歌手に合わせながら全体のバランスをきめ細かく配慮した棒。ただあまりにも配慮し過ぎな部分もあって(前半は特に)、もっと「ぐいっ」と引っ張っていくような部分もあってよいのではないかと思います。埼玉オペラ協会の合唱はやや発声が浅いのが気になりましたが、幕が進むにつれて解消し力強い歌声を聞かせてくれました。
やっぱり後半の充実した演奏が前半から達成されていたら・・・、と思ってしまいますね(笑)。
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