ペーター・シュライヤー シューベルト:白鳥の歌
今秋に歌手としてのフェアウェルツアーが予定されているペーター・シュライヤー。高校の時に友人がラゴスニックのギター伴奏の水車小屋のCDを持っていて、借りて良く聞いたっけ。一度は生の演奏会では耳にしておきたいとおもって、東銀座へ。
2005年 王子ホール ニューイヤー・シリーズ ペーター・シュライヤー歌うというよりは語るように始められた「愛の便り」。CDや放送等で聞き馴染んできた、シュライヤーの明確な発音と伸びやかで抜けるような明るい歌声。1935年生まれのシュライヤーの現在の歌声は、(当然のことながら)重みを増し技術的な衰えも散見される。しかしながら、一聴してわかるシュライヤーの個性は相変わらず健在。弱音でのコントロールの確かさ、明瞭な言葉の発音と処理。全くといっていいほど衰えていない旺盛な表現意欲。「表現者」として現時点での自身の表現能力をフルに使って歌っていく姿はとても印象的。少なからずある声の変化を深い味わいへと転化させ、決して浮き足立つことのないしっかりと地に足がついた音楽。曲それぞれの描きわけが本当に見事でした。「戦士の予感」や「アトラス」での表現の強さ、「別れ」での動きのある表現、「セレナード」や「猟師の娘」での素朴な味わい。曲が進むにつれてシンプルになっていく音楽に漂うなんともいえない孤独感や寂しさは非常に印象的でした。休憩を挟んで歌われた曲においてもシュライヤーの表現は実に的確。曲がシンプルなだけにより味わい深く感じられます。プログラム最後の曲は「ミューズの子」。シュライヤー自身が「ミューズの子」なんだなあ思わずにはいられませんでした。
1. シューベルト : 歌曲集「白鳥の歌」D.957
1. 愛の便り 2. 戦士の予感 3. 春へのあこがれ 4. セレナード 5. すみか 6. 遠い国で 7. 別れ 8. アトラス 9. 彼女の肖像 10. 漁師の娘 11. 都会 12. 海辺にて 13. 影法師 - 休憩(20分) - 2. シューベルト : 春のおもい 作品20-2 D.686 3. : 挨拶を贈ろう 作品20-1 D.741 4. : 彼女がここにいたことは 作品59-2 D.775 5. : 笑いと涙 作品59-4 D.777 6. : 君こそ我が憩い 作品59-3 D.776 7. : 羊飼いの嘆きの歌 作品3-1 D.121 8. : ガニュメート 作品19-3 D.544 9. : さすらい人の夜の歌「山々に憩いあり」作品96-3 D.768 10. : ミューズの子 作品92-1 D.764 - アンコール - 11. シューベルト : 野ばら 作品3-3 D.257 12. シューベルト : 鱒 作品32 D.550 13. ブラームス : 子守歌 作品49-4
テノール : ペーター・シュライヤー ピアノ : カミロ・ラディケ
2005年1月21日 19:00 王子ホール
アンコールは3曲。花束を指して(バラではなかったけど)歌われた「野ばら」と「鱒」での(声の)演技力は実にチャーミングで愉しい限り。最後は良くコントロールされたピアニッシモで、ひそやかにブラームスの子守歌が歌われてお開き。最初からアンコールまで安定したコンディションで聞かせてくれたのは、シュライヤーの発声技術の確かさの証明なんだなあと改めて思いました。
伴奏のカミロ・ラディケは透明感を湛えた音色と良く溶け合ったハーモニー感が見事。音の色合いの変化も随所で聞くことが出来ましたし、シュライヤーのやや重みを増しこくのある声との対照がとても印象的でした。近年シュライヤーがパートナーとして重用しているのも納得できるピアニストですね。伴奏だけでなくソロでも聞いてみたいですね。
Comments
以前オペラシティで聴いた「冬の旅」、
とても素晴らしかったので。
清澄で、ひんやりした情景の中に、
情熱的な生命感が、あふれていました。
えすどぅあさんの評を読んで、
ちょっと思い出しました。
先週のオペラシティでの「冬の旅」も聞きに行きたかったのですが、いけませんでしたので・・・。
1年前の書き込みのものを検索で発見したので
トラックバックもさせていただきます。
シュライヤーのシューベルトは、とうとう
『冬の旅』を聴けずのままでした。
シュライヤーを生で聞けたのはこのコンサートとフェアウェルツアー(ベートーヴェン他)の計2回でした。それでもこの歌手の持ち味は充分に堪能させてくれました。いまになってはもう少し接しておけば良かったなあと思っています。