藤原歌劇団 椿姫 Bキャスト 佐藤/広上/東フィル
藤原歌劇団 第15回ニューイヤー・スペシャルオペラ ラ・トラヴィアータ ~椿姫~ヴィオレッタの佐藤美枝子が全音域で響きの良くのった落ち着いた音色の声でメロディーを滑らかなにかつ丹念に歌い、華やかさよりも心の動きにフォーカスを当てた素晴らしさ。どこをとってもヴィオレッタの死をどこかに感じさせるそのアプローチは「佐藤美枝子のヴィオレッタ」と言って良い世界を作り上げていました。第1幕の「そはかの人か」でのしっとりと思いの込められた歌と、「花から花」へのコロラトゥーラ技術の確かさを喜びの爆発ではなくどことなく影を感じさせる方向へと転化した巧みさ。第2幕第1場での父ジェルモンとのやりとりでの心の動揺の表現。第3幕はピアニッシモでの確かな声のコントロールを生かした歌の美しさと悲しさ。その素晴らしい歌唱に相応しい演技力も特筆すべきものでした。
・ ヴェルディ : ラ・トラヴィアータ
ヴィオレッタ : 佐藤美枝子 アルフレード : 村上敏明 ジェルモン : チャン・ユサン フローラ : 佐藤亜希子 ガストン : 平尾憲嗣 ドゥフォール : 彭康亮 ドビニー : 立花敏弘 グランヴィル : 田島達也 アンニーナ : 小林厚子 ジュゼッペ : 所谷直生 使者 : 雨谷善之 召使い : 坂本伸司
広上淳一指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 藤原歌劇団合唱部 (合唱指揮:及川貢)
バレエ : スターダンサーズ・バレエ団
演出 : ロレンツァ・コディニョーラ
2005年1月22日 15:00 Bunkamura オーチャードホール
アルフレードの村上弘明はやや線が細さはあるものの、役柄の性格を的確に歌った好演でした。アルフレードにしてはやや生真面目な感じで、もう少し色気や奔放さが出てくると更に魅力が増すでしょう。今後に期待したいと思います。
父ジェルモンはチャン・ユサン。まずは第2幕の第一声で張りがあって深みも感じられる声と厳しい歌い口が好印象。ただその後の歌唱は「厳しさ」と「優しさ」の使い分けが中途半端になってしまいましたね。これからこの役を歌い込んでいけば、素晴らしいジェルモン歌いになりそう。演技については年寄りくささを出そうとしましたが、却ってぎこちなさに結びついた様子。演技面での向上も望みたいと思います。
その他の役も癖の少ない声を持った人選でなかなか良かったかと。なかでもアンニーナの小林厚子のしっかりとした強さを持った歌いぶりは今後が楽しみです。また、重唱でのアンサンブルとハーモニー感の良さも耳に付きました。
広上淳一指揮する東フィルは佐藤美枝子を中心にした歌手のサポートに徹した音楽作り。佐藤美枝子には注文をつけずにぴったりと、佐藤美枝子以外は歌唱に応じてテンポを微妙に変えて音楽の緊張感を保たせていたのが印象的。外枠をがっちりと構成し歌手を歌わせた手腕が光りました。一昨年のメリハリを重視しオケを良く鳴らしていた広上の棒とはまるで別人のような抑えた表現に徹していましたので、彼らしい動きのある生き生きとした音楽を期待していた向きには物足りなかったかもしれません。そんな広上の棒のもと東フィルはそっとささやくような優しさと柔らかい音色で歌手を包んでいました。音の出のアタックを細心の注意を払い、徹頭徹尾柔らかく処理していたのがとても印象に残りました。また弦を中心に心のざわめき鼓動を表現できていましたね。第2幕のヴィオレッタが手紙を各場面でのクラリネット、第3幕冒頭のヴィオレッタのアリアでのオーボエの各ソロは素晴らしかった。惜しむらくは第1幕&第3幕の前奏曲を中心に高弦がよれるところがあったのがちょっと残念。合唱は安定した出来栄えでし、安心して聞くことが出来ました。
コディニョーラの演出は2度目になりますが、落ち着いた暖色系の舞台装置と歌詞に沿った動きを重視した演出。派手さを押えたところは佐藤美枝子の歌うヴィオレッタのキャラクターにマッチしていたように感じました。
全体的にタイトルロールの佐藤美枝子の歌う現実的な実在感のあるヴィオレッタにあわせて、全体を作り上げた印象的な上演でした。明日はエヴァ・メイを迎えてどういう上演になるのか楽しみです。
Comments
えすどぅあさんの解説、大変興味深いです。
毎度お世話になります。