ラヴォーチェ ルチア Bキャスト 出口/ランザーニ/東フィル
ラヴォーチェ公演 ルチアタイトルロールのルチアは出口正子。ピアニッシモにコントロールされた高音域は非常に美しいものの、全体的には滑らかさに欠ける声質と多目のヴィブラート、コロラトゥーラの技巧もやや苦しげ。声質から言うと侍女の人の方が魅力的でした。それでも狂乱の場では彼女自身の美点をうまく出すようにうまく考えられた歌唱で、声の絶妙のコントロールは素晴らしかったと思います。
ドニゼッティ:ルチア
ルチア : 出口正子 エドガルド : 佐野成宏 エンリーコ : 堀内康雄 ライモンド : 久保田真澄 アルトゥーロ : 中鉢聡 アリーザ : エレナ・ベルフィオーレ ノルマンノ : 樋口達哉
ステファノ・ランザーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 (コンサートマスター:荒井英治) 藤原歌劇団合唱部 (合唱指揮:及川貢)
演出 : ヴィンチェンツォ・グリゾストミ・トラヴァリーニ 美術/衣装 : アルフレード・トロイージ 装置 : 新国立劇場
2004年8月7日 15:00 新国立劇場 オペラ劇場
エドガルドの佐野成宏は今日の出演者中一番の出来では。やや軽めで素直な声質を生かしたリリックな歌唱と2幕婚礼の場でのキリッとした歌いぶり、そして3幕の充分に思いの込められた歌は見事なものでした。今まで聞いた彼の歌唱のなかでもベストに近いものではなかったと。
エンリーコは堀内康雄。伸びと高音域での輝きはとても優れているものの、やや力が入りすぎたかピッチが安定せずうわずり気味だったのが残念。性格表現に優れた歌唱はいつも通り素晴らしかっただけに本当に残念。
久保田真澄はやわらかい声自体は良かったものの、役柄としては存在感が希薄。もうすこ重くて深い声や包容力みたいな表現が欲しかったかなと。
ランザーニ指揮の東フィルは美しい音色で全体を支えていました。やや歌手とも間に齟齬が聞かれたのと、もう少し全体に引き締まった感じでもよかったのでは。
新国立劇場の舞台装置を借りた演出は装置、道具そして衣装の質感がとても高くてゴージャス。動的というよりは静的な演出といえるでしょうか。ストップモーション的な動きを用いた控えめな動きの群集。登場人物たちも体の動きよりは、内的な心の動きを表情(と歌で)で見せる感じでしょうか。音楽を邪魔することのない安心して見ていられる演出でした。狂乱の場での血の色の見せ方が興味深かったですね。
全体的にはオーソドックスな演出と正攻法の音楽作りで、安心して見聞きできる上演だったかと思います。明日もすこぶる魅力的な人が揃ったAキャストを聞く予定です。
【2004/8/8 追記】
今日は通常の上演では省略される第3幕の1場(例の狂乱の場の前にあたる)がカットされずに演奏されました。エドガルドとエンリーコの二人による聴き応えのある場面でした、これならいつも上演されてもいいのではないかなと。
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